第43話 ゼリオスの心臓
◇ ◆ エル視点 ◇ ◆
ああ......まずいです。まずいですよこれはっ...。
--キンッ
--カキンッ
敵の攻撃を短剣で受けながら、背後に居るアルティナさんを守るように移動する。
--キンッ
--キキンッ
ジョニーさんとニナさんも足止めはしてくれているのですが、何分この敵を処理出来るのがケイトさんだけですので、どうしてもちょくちょく敵が漏れて来てしまうのです。
今も2体の敵がすり抜けて来ていて、それを私が引きつけているところですねっ。
--ゴッ
--ガゴッ
ぐぉぉぉおぉぉぉぉん......。
--サラサラサラ...
「エルさん、大丈夫ですか?」
「はっ...はいっ」
そんな漏れた敵を最優先でケイトさんがトドメを刺していってくれているのですが。それでも次から次へと地面から生えて出て来るのでキリがありません。
ホント、何処から湧いて出るんでしょうか...この敵は。結構な数を倒したはずなのに一向に減る気配を感じませんよ。
今は安定しているので余裕がありますが、このまま増え続けるとちょっとまずい事になりそうです。
......あっ。
そうそう、そうでした。まずいんですっ!
そのケイトさんがまずいんですよっ!
格好良すぎませんかアレ!?
最初会った時は女の子みたいで頼りなく見えたんですが...。
--なんとっ
まさかの素手!
素手攻撃ですよっ!?
あんな戦い方をする人、初めて見ましたっ!!
稀に格闘技で戦う人は居るのですが、普通は『ナックル』や『カタール』なんかを装備しています。
鉄よりも硬い外皮を持った魔物なんていくらでも居ますからね。
いくら格闘家でも武器無しに殴ったりすれば拳が砕けてしまいます。
ましてやこの金仮面。ジョニーさんの剣で傷一つ付かなかった程の硬さなんですよ?
それを素手で砕くなんて、いったいどうやってるんでしょうか?
はぁ......獣人の血......なんでしょうね...。
こう、野性味溢れる攻撃にちょっとドキッときてしまうわけですよ。
見た目が華奢なのにこの攻撃力。そのギャップがたまりませんっ!
まぁ、そんなこんなで......。
ケイトさんの勇姿を拝みつつ見晴らしの良い高台までやって来たわけなんですが。ここに来てようやく金仮面が増えなくなって、そして最後の1匹が砂となって消えました。
--サラサラサラ......
ふぅ......。これでやっと一息つくことができますね。
実はさっきからずっとトイレに行きたかったので、此処で敵が居なくなってくれたのは本当に助かりました。
漏らしてもニナさんに頼めば浄化(クリーン)の魔法を掛けてくれるんですが、恥ずかしいので出来る限り避けたいのです。
さて、それでは......。まずはこの場所に拠点を作ってトイレに行って、それからレムさんの捜索ですね。
ケイトさんが言うには建物を破壊してまわっていたバケモノに掴まれて持っていかれてしまったそうなので。この場所から連続して破壊された建物を探し出せば、どの辺りに連れ去られたのかがわかるはずです。
レムさんなのでうまく逃げ延びているとは思いますが、それでもやっぱり心配です。
なにせ、連れ去ったバケモノは『ナイトメアクラス』程の強さだったらしいですし...。
因みに『ナイトメアクラス』っていうのは教団の呼び方で、冒険者の間では使われていません。
冒険者の間では単純に『難易度』と言った呼び方をしていて、全部で8段階あります。
それで考えると『ナイトメアクラス』は『難易度5』辺りの敵になるはずです。
相性なんかもあるのである程度の予測しか出来ませんが、その強さはざっと『蒼天の剣』の倍くらいでしょうか...。
おそらくケイトさんとアルティナさんが居る今の状況で相打ちと言ったところですね。
教団の名称通り悪夢みたいな相手なのは間違いないです。
今の戦力で出会うことがあれば、それはもう全力で逃げるしかありません。
相打ちなんかしたくありませんし、選択肢は逃げ一択です。
っと、...あの辺りの民家なら拠点として丁度良さそうですね。
それではジョニーさん達を呼んで早速拠点の設営ですっ!
罠や結界を仕掛けたり、周囲の安全を確保したり、やることは沢山ありますよっ!!
特にトイレ休憩とかですねっ! トイレ休憩は大切ですっ!!
◇
◇
◇
はふぅ......。
何とかお漏らしする事態は避けられました。
正直ちょっと危なかったのですが、すぐにトイレが見つかったのでチビるのは回避出来ました。
さてさて、スッキリしたのでちゃちやっと罠を仕掛けてしまいますよー!!
--んんっ?
建物から出ると、何故か皆が集まって何かを話し合いをしてました。
「ああ、エルもちょっと来て下さい」
そして私も呼ばれちゃいましたが、何か問題でもあったんでしょうか?
「どうかしたんですか?」
「うん...。ニナが気付いたんだけど、街の魔素が急激に増えているらしい...」
「魔素が?」
「ええ、詳しくは私が話すわ
専門的な事を言ってもわからないでしょうから、簡単に言うけど......」
そこで一旦言葉を区切ると、ニナさんは皆を見渡して間を開けました。
何でしょうかこの演出...。ニナさんにしては珍しく深刻な表情なんですが、まさか結構マズイ事態だったりするのですか?
「これは、ゼリオスの心臓の再現よ」
--はい?
いやいやいや、簡単にって言ってましたがさっぱりわからないですよ!?
もっ、もしかして他の人はわかってたりするのですか?
......。
あー...良かった、皆も首を捻ってますね。
どうやら誰もわからなかったみたいです。
「え...ええと、ニナ。そのゼリオスの心臓っていうのはいったい何だい?」
「......魔法使いの間だと有名なんだけど...。そうね、『リヨンの悪夢』って言えばわかるかしら?」
「魔導都市リヨン......」
ま、まさか...。
私でも聞いた事がありますよ。
吟遊詩人達が良く歌う物語の1つです。
昔、魔法によって栄えた巨大な大都市があったんですが、それが一夜にして巨大なゴーレムに滅ぼされたっていう、まぁ...良くあるお話です。
その大都市の名前が『リヨン』で、お話の題名が『リヨンの悪夢』。
けど、『ゼリオスの心臓』の再現...って言うのは、いったい何なんでしょうか?
何だか、とっても面倒事の予感がするのですが......。
出来れば予感がハズレてる事を祈るばかりですよ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます