第44話 魔の檻
◇ ◆ ニナ視点 ◇ ◆
あのムカツク敵を倒して、やっと目的の高台にたどり着いた。
本当に何なのよあの魔物!!
私の単体最大火力の魔法を叩きつけても弱点の仮面には傷一つ付かなかった。
しかもあの仮面、あり得ない量の呪詛がかけられてるし、そのせいで私の魔法に干渉して威力が出なかった。
あー.......もうっ!!
思い出すだけでもイライラする。
魔法ていうのは掛けた術者のレベルが高くないと相手の魔法に干渉なんて真似は出来ない。
要するに、私があの魔物の仮面に呪詛をかけたやつに魔法で劣ってるって事よっ!!
私より強い魔法使いなんて、世界に数えるほどしか居ないわよ?
一体だれがあんなもの作ったってのよっ!!
--はぁ
--はぁ...
ま、まぁ、良いわ。
それより、そんな凶悪な呪詛がかかった仮面を素手で殴ってたあの子が心配よ。
あんなの素手で触ったら普通は呪われて下手したら死ぬわよ?
「ねぇあんた、その手...大丈夫なの?」
「えっ、あ、はいっ、大丈夫ですよっ」
心配して声を掛けると、何でもないって示すように手をひらひら見せて来た。
まぁ、大丈夫みたいね......見た目は。
でも私の目を舐められちゃ困るわよ。
外見はどうもなってなくても、中が結構ズタズタじゃないの。
「はぁ......出しなさい」
「へっ?」
「良いから手を出しなさい」
--グイッ
尚もシラを切ろうとしたので、無理やり手を引っ張って出させてやった。
いくら私が攻撃魔法の使い手だといっても回復魔法くらい使えるのよ?
今回は外傷じゃなくて呪詛による侵食による魂の傷だから...。
「癒やしと木の精霊ドリアドルよ、彼の者が失いし欠片を再生し新たな生命を此処に......顕現せよ、深緑の精霊王」
--スピリチュアルリバイブ
よしよし、効いたわね。
これが効くって事は、この呪詛を組んだ相手とはそこまで差は無いって事ね。
ふふ...ふふふふ。
良いわ、絶対いつかあの仮面をぶっ壊してやるわっ!!
「あっ、あの...ありがとうございます...」
「ああ、別に良いのよ」
はぁ......顔に出てたのかしら、引いたような表情でお礼を言われてしまったわ......。
今度から気をつけないと......あらっ?
--妙ね...。
周囲の魔素濃度が高い...。
確かにこれだけの魔物が現れれば魔素は高まるんだけど、これは調べた方が良いかもしれないわね。
魔物を含めた生き物が死ぬと周囲に魔素を撒き散らすわけだけど、普通なら拡散した魔素は地中にある龍脈を通って大地に還る。
その後は植物に吸収されて、それを人や魔物が食べて体内に保有するわけだけど...。
龍脈に吸収される以上の魔素が発生すると魔素溜りが発生する。
そして魔素は人体に様々な影響をあたえる。
まず、ステータスの上昇。
これは魔素と共に拡散する魂の一部を吸収する事で上がるわけなんだけど、その吸収に周囲の魔素が消費される事が研究で判明してる。
なので、魔素溜りに居る時に周辺で生き物が死ぬと勝手にステータスレベルが上がっていくわけね。
次に身体の変化にも魔素は使われる。
主にこれが問題で強烈な魔素に生き物が晒され続けると、強制的に肉体の変化が起こって魔物化してしまうのだ。
これが今の研究では魔物発生の原因とされている。
そして、この外見変化は精神に多大な負荷をかけてしまい、主に理性を消し去っていく。
そのせいで魔物になると凶暴性が増し本能的に行動するようになるわけ。
さらにそこから魔素に晒され続けると肉体の崩壊が始まり、レイスやゴーストの様な実態のない存在へと変化する。
その段階でも理性と意思を保ち続けていた存在が、魔素により精神体が魔素で創られた肉体を得た存在、それが魔族だ。
故に魔族やレイスは自身の維持のために魔素が常に必要となる。
その魔素はどうやって得るか?
それは魔素の濃い場所に住み着くか、生命を殺して手に入れるかの二択になる。
それでこうやって、長々と情報を整理してたわけだけど。
ようは今この場所は魔族にとって非常に居心地の良い場所と言うわけなのよ。
これは......居るかもしれないわね。
レイスやゴーストならどうにでもなるんだけれど、魔族の強さは一線を越えている。
こんな魔素の多い場所で戦うのは非常に不利だ。
......。
でも、その前にこの場所だけが魔素溜りになってるか確認が必要ね。
単純に魔物が沢山死んで魔素が多いだけならすぐに散って薄まるはずだし......。
--えーっと...
此処からなら街の外周も見渡せるはず。
......。
まずいわね...。
街の外周を思った以上の魔力光が取り囲んでいる。
魔力光は内側と外側で魔素に急激な差が出来ると発生する光で、その差に応じて光の強弱が決まる。
街を取り囲んでる光はかなりの強さで、これだけの差が自然にできるとは考えられない。
つまり、魔素が拡散しないように結界で囲まれてる?
そうなると、魔素を集める意図が何かあるはず......。
まぁ意図の有無に関係なく、この場所は高濃度の魔素がどんどん溜まっていってる状態で、非常に危険な状況だと言える。
私達なら耐性があるからまだ大丈夫だろうけど、このままだと逃げ遅れた一般人が魔物化して出てくる可能性もある。
そんな中、この状況を作り出した犯人を見つけ出して企みを阻止しないといけない。とてつもなく面倒な事になってるわよ......これ。
--んんー......
それにしても、この魔素の増え方がそもそも異常なのよね。
あの城の上に浮いてるのが不死者を呼び出す召喚陣なんだろうけど、普通は召喚陣を維持する為に周囲の魔素を循環させて消費を抑えるのよね...。
だから、こうやって魔素が増え続けてる事がそもそも異常なのよ......。
--これは......
召喚される魔物の魔素量が召喚陣が消費する魔素量を上回ってる......?
いや、そんなはずはない。
召喚魔法の理論上、召喚に使用した魔素量を超える魔物は召喚されないのが鉄則なのよ。
それが、使用した魔素以上の魔物が召喚されて......る?
そんな事が可能なら、人は無限に魔法を使う事が出来てしまう。
それは、無から有を作り出す神の領域......。
もしかして...これは。
--ゼリオスの心臓?
まさか...そんな。
「ジョニー!! 魔素が増えてるわ」
それから、建物から出てきたエルも呼んでゼリオスの心臓について説明...。
って、何で誰も『ゼリオスの心臓』を知らないのよ!?
まっ、まぁ良いわ、リヨンの悪夢なら流石に知ってるでしょ。
「魔導都市リヨン......」
「そうよ、そこを襲った最高難易度の魔物は知ってるわよね?」
「あ、ああ、コープスゴーレムだけど......それと今回の事が関係あるのかい?」
「ええ、あの街を破壊し尽くしたコープスゴーレムに使われてた魔導技術が『ゼリオスの心臓』、この街で現在進行系で発生してる現象よっ」
「なっ...」
「やっと...事態の深刻さを理解してくれたみたいね」
「ちょっ、ちょっと待って、その『ゼリオスの心臓』って一体......?」
「ゼリオスの心臓は神の領域に踏み込んだ、無限に魔素を生み出す禁忌の魔法よ......」
「禁忌...?」
「ええ、無から有を作り出すのは神の領域。魔法は本来魔素や魔力を対価に現象を生み出してるのよ
その法則を無視すると必ず何処かに皺寄せが現れる......だから禁忌とされているわ」
「ええと、それはつまり......此処でその禁忌が...?」
「そうよ......2の魔力で3の魔素を内包した魔物を召喚してるって言えばわかるかしら?
普通は2の魔力では1の魔素を持った魔物しか召喚できないのよ。けど過去にゼリオスと呼ばれた魔道士はその不可能を可能に変えてしまった...
その生み出された禁忌の術式が『ゼリオスの心臓』......」
--つまり
「その術式を再現できれば、無限の魔力を生み出せるって事なのよ...」
そう...。
そして、ゼリオスが無限の魔力を使って作り上げたのが死体人形(コープスゴーレム)。
無限に死体を吸収して巨大化し、無限の魔力で魔法をバカスカ撃ちまくる最凶最悪のゴーレム。
そしてあの時の禁忌に対する皺寄せは、ゴーレムの消滅と共に空間をズタズタに切り裂いた。
今でもリヨンがあった場所は空間がチグハグに繋がった魔境と化してしまっている。
......このままだとこの国も?
...っ!!
はやくあの城の上に展開された召喚魔法陣を止めて、街の外周に展開された結界を破壊しないと!!
「ジョニー、すぐに...」
--ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ......
「なっ...なに?」
「なんだ...?」
--ゴゴゴゴゴ......
「見て下さい!!」
いきなり聞こえてきた地響きの音、そしてエルが指差す方を見ると、城から砂煙が立ち上っていた。
なに......あれ、なんだか城が低くなってない?
もしかして、崩れてるんじゃないのあれ?
けど、あれはこの魔素とは関係なさそうね。でも、あそこでも何かが起きてるのは確実......。
......。
...。
あぁぁぁぁぁっもうっ、次から次にっ一体この国で何が起こってるのよっ!?
「ジョニーさんっ! 上空、高難易度の敵が来ます!!」
「くっ」
今度は何!?
--これはっ!!
攻撃魔法の反応!?
まずい、結界魔法が間に合わない!!
「闘技、不動要塞!!」
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