第3話 小間使いなどやっておれるか!

 




 ふむ、試験か。Dから始められると言うなら受けるべきなのか?


  --Dランクか......


 そう言えば、受けられる依頼が変わるとか言っておったが、どのように変化するのか今ひとつ検討がつかんのだ。よし、この際だ、わからん事は全て聞いてしまった方が良いだろう。



「Dランクになると、Fランクから受けられる依頼内容がどう変わるのだ?」


「そうですね、まずFランクは安全な場所での雑務が依頼の殆どになります。

 それがEランクへ1つ上がりますと、街の周辺での薬草採取などが依頼に追加されます。

 その場合、魔物との戦闘も極稀にですが発生します」


「ふむ、EとFのランクは小間使いが主な依頼になるわけだな」


「そうなります」



 Fランク、Eランク、両方雑務だが変わっているのは街の外で依頼があるか無いかか。要は魔物との戦闘があるか無いかの違いと言うわけだな。


  --そうなると...


「話しの流れからして、Dになれば魔物と戦うような依頼が受けられるのか?」


「はい、Dランクからは低レベルの討伐依頼が出てきます」


  --おお、予想通りか!


「ですので、Dランクに上がるためには『魔物に対処出来るだけの戦闘能力があるのか』が重要になりまして、それを確認するために簡単な試験をさせていただいております」


「戦闘能力の確認のためか...適当にそこらへんの魔物を狩って持って来れば証明されたりはせんのか?」


「それでは本人が倒したという確認がとれませんので...」


「ならば、魔物を倒す依頼を受けるためには絶対に試験を受けなければならんのだな」


「はい、十分な戦闘能力の無い人間を討伐依頼に行かせてしまうと、依頼失敗はおろか救助や二次被害にも繋がってしまいますので、Dランクになる試験の免除は絶対にありません」



 ふ~むむむむむむむぅ。


 どうやら試験は絶対に回避できんイベントのようだ。

 正直、試験と名の付くものにはいい思い出があまりないからな。出来ることなら別の手段で回避したかったのだが、『免除は絶対にありません』と言い切られてしまった。


 稼ぎは確実に魔物討伐の方が良いだろうし、いずれは試験を受けてDランクにならねばならんのだが、問題はFとEランクを飛ばしても良いかどうかだな。

 下積みをする事によって情報が得られたり、特別な人物との繋がりができたりといったイベントは『ドラゴンテイルズ』でも良くあったからな、この世界でも無いとは絶対に言い切れん。

 そうなってくると、Fから始めてDランクにあがるまでにどれほど時間を使うかが重要になってくる。数日なら問題ないが、低報酬の依頼が長く続くと困ったことになってくる。美味いものが食えんどころか下手をすれば路頭に迷う事になってしまうからな。 

 だからここは、ランクアップにかかる時間を聞いてから決めるとしよう。



「FランクからDランクに上がるには、どれくらいの時間がかかるのだ?」


「そうですね。年齢や才能、積んできた実績によっても違ってくるんですが...」


「ふむ、妾くらいの年齢で実績が無いとどうなのだ?」


「14歳で完全に新規と言うことでしたら、早くて1年、平均だと2年程は...」


「そ、そんなにか」



 1年や2年も小間使いが必要だとは、あまりにも下積み時代が長すぎやしないか?


 いや、ちょっと待つのだ。


 よく考えてみれば此処は別の世界なのだ、もしかすると1年の長さが違うのかもしれん。そうだなっ、きっとそうに違いないのだ。2年もかかるなんてありえんからな。


 ならば日数で聞いたのは失敗だったな、ランクアップに必要な依頼の回数を聞かなければ意味がないのだ。



「Fランクからだと、どれくらい依頼を達成すればDランクになれるのだ?」


「ええと、それは依頼の内容にもよるのですが。そうですね...平均的に1000回ほど「試験を受ける!」」



 お姉さんの会話に割り込んで即答した。

 冗談じゃないぞ、1000回も街中でお使いなんぞやっておれるかっ!


 どうやら1年の長さがどうとかではなく、普通にランクアップまでに必要な依頼数が多かっただけだったのだ。これでは1日に3つ依頼をこなしても、1年はかかってしまうではないか...。

 ああそうか、だから早くて1年なのだな。納得したのだ。


 しかし、お姉さんの言葉に妾が大声で割り込んでしまったせいか、物凄く驚いた表情のまま此方を見ている。仕方ないだろう、妾も平均1000回にはビックリなのだ。



「そっ、そうですか? それでは後ほど訓練場で試験を受けてもらう事になりますが...」


「お願いするのだ」


「わかりました、それでは今から試験の準備にとりかかりますので、暫く此方でお待ち下さい

 それと最後に遅くなりましたが、私は受付のリィナと申します。またギルドに関する質問等がございましたら、何時でも気軽に声を掛けて聞いてください

 それでは、失礼いたします」


「うむっ」



 リィナお姉さんはそう言い残すと、奥に居た別の人と受付を交代してどこかへ去って行ってしまった。



「さてと...」



 それでは待機時間が発生した事だし、この建物の中でも見学させて貰うとしようか。


 そう思って受付を離れると、早速面白そうなものを求めて周囲をぐるっと見渡してみる。


 ギルド内には数人程度の人影がうろうろしている。みんな剣や斧なんかで武装していて、すり減った革鎧を身に着けている。と、言う事は全員Dランク以上なのだろうな。逆に武装していない人は見かけないし、FやEのランクは少ないのだろうか?



 「んー......おっ?」



 もしや、あの者達が見に行ってるあれが依頼の貼られた掲示板か?


  --どれ


 なになに、『グリフォンの討伐』がAランクに、『ゴブリンの森へ偵察』がCランク。


 FとEランクが『店の掃除』...『薬草採取』...『孤児院の手伝い』...『魔物の運搬』。

 ぬぅ、本当にFとEランクの依頼は小間使いばかりなのだ。しかも依頼料はCランク討伐依頼の十分の一以下だし、時間がかかって面倒くさそうではないか。これは絶対にDから始めなければならないな。


 えーっと、それで肝心のDランク依頼は『はぐれゴブリンの討伐』と『ホーンラビットの肉を納品』。それから『Eランクの冒険者を護衛』これは薬草を取りに行くEランクメンバーを護衛するとか言うやつみたいだな。


 ふむ、こっちの依頼もパッとせんな。報酬はEやFの3倍以上はあるが、あまり面白そうなものは見当たらないのだ。


 しかしDランクの敵がゴブリン? ゴブリンを倒すのに1000回もお使い依頼を受けるのか?


 苦労して試験まで受けて倒すのがゴブリンとは、全く理解が出来んのだ。普通は最初にゴブリンでレベルを上げてから試験に望むものではないのか?



「レムリアさん」


「んおっ?」


「お待たせしました、試験の準備が整いました」



 お、おお、リィナお姉さんか。いきなり声をかけられたからビックリしたのだ。掲示板に夢中になってたせいで、後ろに来てたことに気がつかなかったぞ。

 まだそんなに時間は過ぎてないと思っておったのだが、考え事をしてる間に結構時間が経ってしまっていたようだな。 



「試験なのですが、レムりアさんの準備が整い次第、問題なければすぐにでも開始することが可能なのですが」



 んー、準備か、特に出来そうな悪あがきは無いしな。

 何か準備しようにも、またあの迷宮を彷徨って準備するのは躊躇われる。一度外に出れば、今日中にここへ帰れる自信が無いのだ。



「よ、よし。準備は大丈夫なのだっ」



 ここは当たって砕けろ、ぶっつけ本番で試験に突撃なのだ。



「わかりました。それでは試験会場となる訓練所へと御案内いたしますので、私の後ろに付いてきて下さい」


「了解したのだ」



 ふむ、訓練場とか言う場所が試験会場になるのか。そう言えば向こうの壁に『訓練場 入り口』と書かれた扉が見えるな。多分その先が今から向かう試験会場だろう。


  --ん?


 そう思っておったのだが、いきなりリィナお姉さんが受付カウンターの中に入っていったぞ。ええと、別の場所にも訓練場があるのだろうか。



「向こうの扉ではないのだな」


「あー...ええと。あちらの通路は現在閉鎖中なんですよ」


「閉鎖中?」


「ええ、つい先日なんですが冒険者同士のいざこざがありまして、訓練場は今日から予約制に変更されてしまったんですよ」


「ふむ、もめ事か」


「はい、冒険者は血の気が多い人達がなので小さなもめ事は許容範囲なのですが、今回は少し被害が大きくてですね

 たいへん申し訳ないのですが、もし訓練場の使用をご希望の際は受付の方まで問い合わせ下さい」


「うむ、わかったのだ」



 それで受付の裏から、さっきの封鎖されてる扉の奥へと抜けたのだが。


 しかし、これは...。


 通路が暖炉の中みたいに焼け焦げているのだが。いったい何があったというのだ?



「ええと、黒焦げなのだが?」


「はい、これがもめ事の結果でして。その、ただいま修繕中なので近日中には元に戻る予定です」



 いやこれは、もめ事のレベルではないと思うのだが。ここまで燃やすと相手も無事ではすまんだろう。いったい何があってこんな状況に発展したのだ?



「これは、もめ事ではすまないレベルだと思うのだが」


「ええ、私もそう思うんですが、ギルドマスターがもめ事の範疇だと...」


「ギルドマスター?」


「はい、この地区の冒険者ギルドで代表をしていらっしゃる方です」


「ふむ」



 そんな偉い人がこれをもめ事だと判断したのか。どう見ても争う暇も無く一方的に燃やし尽くされた感じなのだが。



「レムリアさん、着きましたよ」


「ん?」


  --お、おお


 焦げた通路に目が取られていて気づかなかった、もう訓練場についたのか。目の前には少し錆びた鉄の扉が存在していた。



「それでは、最善を尽くして頑張ってくださいね」


「う、うむっ」



 リィナお姉さんから微笑みと共に激励の言葉を受け取ると、ゆっくりと鉄の扉が開き始めた。どうやら魔法で自動的に開くようになってるようだな。


 それよりも何だか急にドキドキしてきたのだ、試験と聞くと何故か緊張するのだが、ちゃんと受かることが出来るだろうか。


 ......。


 ま、まぁ、ここで立ち止まっていても始まらんからな、覚悟を決めて行くとするか。 



「ふむ、これは...」



 訓練場というからには的代わりのカカシくらいは設置してあるのかと思ったが、どうやらただの広場のようだな。天井も無くて、まっさらな地面が広がっている。その周囲を、どうやら何かの結界がとり囲んでいるようだな、何となくだが魔力の気配を感じるのだ。



「お前が新人のレムリアか?」


「む?」



 なんだか厳つい感じのおっさんが此方に声を掛けてきた。


 まぁ最初から視界には入っておったのだが、妾の名前を知っておると言う事は、このおっさんが試験官なのか?



「うむ、妾がレムリアなのだっ」


「そうかお前が...」



 ......。


 む? 何だ? 


 おっさんがジロジロと妾の事を見てくるのだが。この世界に来てから良く見られるが、もしかして妾の見た目はどこかおかしいのか?

 良く思い返してみれば、ギルドに来るまでの道中も、受付で試験をまってる間も、チラチラと見られていたようなきがするのだが。


 んー。自分の格好を見てみても、変な場所は思い当たらんし、妾としてはこの試験官の方がずっと個性的な見た目をしていると思うのだが。

 スキンヘッドで顎髭が生えていて、そのうえ全身が筋肉の塊で、とてつもなく暑苦しい見た目をしているのだ。近くにいるだけで気温が2度か3度くらい上がりそうだぞ。

 それに革鎧を着ておるのだが、今にも筋肉ではち切れてしまいそうだし、手に持った普通サイズの盾と剣が、ナイフと皿みたいに小さく見える程の巨漢だぞ。


 そんな大男にジロジロと舐めるように見られるというのは、流石に少し気持ち悪いのだが。いったい何時まで見ているつもりなのだ?



「あの...」


「ああすまん、14で試験を受けると言うからどんな相手かと思ってな、しかしこれは...」



 そう言って溜息と共におっさんが肩を落とした。あれだけ見といていったいなんだというのだ?



「妾がどうかしたのか?」


「いや、あまり冒険者で見ないタイプだと思ってな」


「ふむ、そうなのか?」



 『ドラゴンテイルズ』では妾みたいなのが普通だったのだが、この世界ではこういった外見は珍しいのだろうか。確かに、それならチラチラと見られていたのも説明できるのだ。



「念のため聞くが『ソードマン』なんだよな? 体格からして『アーチャー』や『スカウト』の方が向いていると思うんだが」



 な、何故いきなりソードマンかどうかを疑われたのだ?

 ま、まさか、職(ジョブ)に嘘を書いていると感づかれたのか?


 確かに妾からは魔導師の格好いい雰囲気がただ漏れだから感づかれても不思議はないが、しかし今更ホントの事を言うわけにもいかんしな。よし、限界まで誤魔化すとしよう。



「妾はソードマンなのだっ」


「そうか、ソードマンか」



 むぅ、今度は何でそんな残念そうな視線を向けてくるのだ? よくわからんぞ?



「この試験に受かれば魔物と戦う事になるんだが」


「うむっ」



 それは分かっておるぞ、だから試験を受けているわけだしな。今度はいきなり何の話しをし始めたのだ?



「年齢はともかく、前衛は体格が重要になってくる」


「んん?」


「あのな、スカウトなら敵の隙間を縫いながら敵の隙をついて倒せるやつだけを倒せばいい

 だが、ソードマンやシールダーなんかの職はな、敵を後ろに通しちゃいかんわけだ、わかるか?」


「...?」


  --いったい何が言いたいのだ?


 妾が首を傾げて視線を返すと、試験官は此方の体に視線を落として、落胆したような表情と共に言葉を返してきた。



「わからんか。お前の体格だと、敵の攻撃を受けたら簡単にふっとんじまうだろ?」


「ああ、なるほどっ」



 ようやく言いたい事がわかったのだ、ようするに妾の外見が華奢で可憐な少女だから、敵を倒すにはか弱すぎると思っておるのだな。



「だから職(ジョブ)がソードマンだと、試験に受かるのは相当厳しいかもしれないぞ?

 今からでもスカウトやアーチャーに変えた方がいいんじゃねーか?」


「そ、そうなのか」


  --むぅ、厳しいのか... 


 しかし、スカウトの動きは良くわからんし、弓に至っては使ったことすらないのだぞ。スキルもソードマンのものなら少しは持っておるし、出来ればソードマンが良いのだが。



「まぁ、ソードマンにこだわりがあるなら別に良い。試験の難易度があがっちまうとは思うが、それでも試験を受けていくか?」


「も、勿論なのだっ」



 此処まで来たら引き返すのも嫌だしな。厳しいなら全力でやるしかないのだ。落ちたら『お使いクエスト1000回』が待ち受けておるし、ここは何としてでも受からねばならんぞ。



「そうか、やる気はあるみたいだな」


「うむ」


「俺はやる気のある奴は好きだからな、やると言うならもう止めはせん。

 思う存分、ここで俺に実力を見せてみろ」


「わかったのだっ!」


「よしっ、気合は十分だな。ああそうだ、そういや名前をいってなかったな。

 俺の名前は『グラディス』だ。元冒険者で、今はギルドの新人訓練や試験官なんかを担当している」


「妾は『レムリア』なのだ、レムと呼んでも良いぞっ」


「そうか、じゃあレムと呼ばせてもらおう。

 では今から早速実技試験だ、まずはそこの壁にあるやつから好きな武器を選んできてくれ」



 そう言ってグラディスが入ってきた扉の方を視線で示した。その視線の先に目を向けると、壁に沿って大小様々な武器がならんでいるのが視界に映った。



「おおっ、あそこにあるヤツか?」


「ああそうだ」



 あれだけ沢山あれば使いやすそうな武器もありそうなのだ。


 立て掛けられた武器のところまで移動すると、さっそく武器を物色してみる。どうやらここに並んでいる武器は刃が潰してあるみたいだな。まぁ、刃がついておったら危ないから当たり前か。


 さて、それでは武器を選ぶか。


 

「とはいえ...」



 妾は近接職が本職ではないからな、こう言った武器にこだわった事はない。それに使い慣れてるのはエストックやレイピアなのだが、ここにそういった武器は見当たらない。


 しかも今回は剣士として戦うわけで、身体強化も使えんとなるとなれば使えるスキルまで限られてくる。それを考えればスタンダードな両刃のショートソードが一番ソードマンのスキルと適しているか。



「んんー...」



 これにするか、取り敢えず70センチくらいの剣を選んでみた。どれ、振り心地はどんなものか、試しに2、3度振って確かめてみる。



  --ビュン


    --ビュン



「むぅ......」



 重さが物足りんし、重心も少しズレてしまっているではないか。剣を振ると手首のあたりに思った以上の負担がかかるぞ。本職ではないし詳しいことまではわからんが、訓練用の武器だとこんな雑なモノが普通なのか?


 少々物足りないが贅沢も言えん。仕方ない、コレでいくか。

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