概要
大人になった「僕」が子どもの頃の「ぼく」の思い出を振り返る形式で語るジュブナイル小説。文中で意図的に「僕」と「ぼく」を使い分けています。
おすすめレビュー
新着おすすめレビュー
- ★★★ Excellent!!!宇宙を据えない 生きる星たち
宇宙を視界の奥に据えて物事を見れば、どんな壮絶な出来事も、些細で、取るに足らない、心が動かないものになるでしょう。つまりは'宇宙のサイズで見れば、こんな出来事は取るに足らないものだ"と言い聞かせることです。
そのような視点を持つことは辛い出来事に立ち向かう際には一種の手段になり、私自身もよく使うのですが、時々それによって衝撃が緩和されすぎて、寂しさに襲われることがあります。
この作品の主人公である「ぼく」は星空の見える秘密基地を居場所として手に入れますが、彼は視界の奥に宇宙を持ちません。目の前の出来事がもたらす衝撃の奥に宇宙を見るのではなく、苦しみながらも、人間が真剣に戦う姿勢、というもの…続きを読む - ★★★ Excellent!!!まさか「ハム」という言葉で泣かされるとは……!
少年時代の『ぼく』を、大人になった『僕』が振り返る形で綴られていて、その距離感が優しいのです。『僕』の目線がなくダイレクトに『ぼく』の姿が描かれていたなら、私はきっと、辛くて直視できなかったと思います。
また、『ぼく』を回想する『僕』を見守る読者の私、という関係性を独自に築くことができる読み心地がとても好きでした。今の『僕』にしか分からない深い部分を、読み手だけが『僕』と共有できるのです。涙が出るほど感情移入している相手と秘密のやりとりが成立したみたいで、読んでいて何度もハッとしました。こんなに嬉しいことはありません!(うまく伝わっていなかったらごめんなさい)
そんな『ぼく』とその周りの人々…続きを読む - ★★★ Excellent!!!拝啓 花瓶を割ったきみと、君へ
拝啓 花瓶を割ったきみと、君へ。
不躾ながら手紙を書いてしまうことを許してほしい。
勢いのまま書き殴るから、きっとおかしな文章になる。
ぐだぐだと長ったらしく書いてしまうでしょう。
笑って読み流してください。
君が物語るきみの秘密基地の思い出は、
とても長いように感じられたけど、
実際には1年にも満たない間の出来事で、
私は君の話に2時間半、付き合っただけだ。
とはいえ、9歳から10歳にかけてのその時間は
大人の私がいま体感するよりもずっと長いから、
きみの物語にぴったりと付き添った私は、
2時間半よりもっと長く君と語らった気分になっている。
1997年に小学4年生だったきみは、私の…続きを読む - ★★★ Excellent!!!これがネットで読めていいのか――圧倒される人間ドラマ!
率直に言います。泣きました。何回も胸が締め付けられました。このクオリティのものがネットで読めるのかと感動しました。
この小説は、家庭環境に問題のある子供たちが出てくるお話ですが、それだけではない親子関係や友情や恋、大人と子供、様々に訴えかけてくる作品です。
子供たちも大人たちも様々な思いを抱えて生きている。そんな一人ひとりの謎や物語が解きほどかれるにつれ、深い人間ドラマに打ちのめされます。
大人になるというのは、そういういろんな視点で物事を見て、それについて考えることから始まるんじゃないかと少し考えたりして。
きっと私たちは誰もが「秘密基地」を必要としている。それは心を開き安らげる場所で、大…続きを読む - ★★★ Excellent!!!あなたの心にある「ヒビの入った花瓶」を割る人は本当の親友かもしれない
うまくまとまっていない点はご容赦ください。
感想:
小学生にしてはちょっとませている主人公の少年期にあった初恋と人生の恩師との出会いを描いた作品。置かれている家庭的な環境が僕ととても似ていて、僕もそんな両親の「かすがい」として中学生くらいまでいた。そんな家庭だからこそ抱く不満や葛藤は非常に共感できたし、何よりも小説で重要なキャラクターへの感情移入が今まで読んできた本の中でもかなりできた(置かれている立場が自分と近かったということもあるだろう)。
「ヒビの入った花瓶」は作中における重要なキーフレーズであるが、人はこの今にも割れそうな心の花瓶をいろんな人がつついてヒビを入れている。だけど、責…続きを読む