熊本くんの本棚

作者 キタハラ

75

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★★★ Excellent!!!

誰か、人に、巨大な苦しみ、不安を与えられ、本当の自分を見失った。それにさえも自分で気づかないくらい心を閉ざし、なにも感じない。けれど本当の自分を取り戻す助けをしてくれるのは、やっぱり、手を握ると握り返してくれる「人」なのだ。

この作品が本になったら、(なって欲しい!) わたしの本棚に並ぶこと間違いなし!! そして、あなたの本棚にも!

★★★ Excellent!!!

 この作品のタイトルから、ふんわりとした牧歌的な物語を連想していた。ほんの数話読み進めただけで誤りであった事を思い知らされるのだが、しかしこれは嬉しい誤算なのだ。そこには、文学的なモチーフを正面から捉えた、骨太の物語が待っていたのだから。

 主人公の半生を追いながら、物語は進行する。中盤以降は主人公が書いた作中作に進行を委ねるし、また時系列が前後するため、筋を追う事が難しい部分があるかも知れない。しかしそれは、本作の魅力を減じるものではなく、数奇な縁の絡み合いを印象付けるべく働く。

 物語の中には、いくつかの出会い、そしていくつかの別れがある。人と人との繋がりが絡み合い、結果、因果を紡いでいく。
 その中でも注目したいのは、やはり主人公の『熊本くん』と『まつり』の出会いだ。こんなに残酷な出会いがあるだろうか。この出会いにより、熊本くんは自らの運命を認識する事になってしまう。

 出会い以降、二人は運命に翻弄されていくが、熊本くんは積極的に抗ったりはしない。反してまつりは、定めを拒み抗い続ける。両者の温度差が様々なドラマを生み、熊本くんを更に翻弄する事になってしまう。
 あくまでも受け身でありながら、様々な出会いを経ながら静かに抗う熊本くん。彼の淡々とした視点こそが、本作の魅力ではないかと感じる。
 自らの人生の、静かなる観察者。彼は運命を拒む事ができるのか、そして何処へ流れ着くのか……ぜひご自身の目で確かめていただきたい。

 最後に告白しておくが、ワタシは同ジャンルの書き手として著者に嫉妬を覚える。書こうと願いながらも未だ書けぬ物語を、高いレベルで完成させてしまったのだから。
 粗削りな面もあるが、それもまた魅力。今後の作品にも、注目していきたい。

★★★ Excellent!!!

とにかく描写が丁寧で、特に空気の切り取り方が秀逸です。
頭の中で、鮮明な映像としてイメージできるほどに。
リアルさをもって人物が立ち、それゆえに愛おしくなりました。

刺激的な毒を以て、自分の内側にあるモノへ働きかけてくるような。
それでいて許しや癒しをもらえるような、強い力のある作品です。
絶妙なバランス感覚と、圧倒的な筆力に感服です。
書籍であれば、自分の本棚の一等地にお招きしたい……。

素敵な作品をありがとうございました。

★★★ Excellent!!!

物語自体に引き込まれたのはもちろん、こうしてネットが発達するまでは誰にも言えずに、自分の思いの共感だったり、理解されることだったりを諦めて生きて来たのに、作品の中では、これまで言葉で出して表現して来なかったはずの自分の内面がズバズバと言葉で表されていることに衝撃でした。

熊本くん、是非モックンの息子で実写化して欲しいです(笑)

★★★ Excellent!!!

本棚に並べられたまま、もう手に取ることのない本がみなさんにはありますか? 思い切って捨てるほどの思い入れも、もう一度読み返すほどの愛着もない本たち。読んだときに何を感じたのかももうぼやけてしまって、それでも何かを感じたことは微かに記憶の底に残っている、そんな本。

俺の本棚はそんな本ばかりです。

自分の心というのは意外にそういう本の中に散らばっているのかもしれません。読んでるときただ感情が揺れた、好きな表現が一行あった、時間を潰すために買っただけだった。そんな本ばかりでも、そのページの中に自分の心は染みこんでいるのでしょう。もう開くことはなくても、忘れてきた言葉が、その本の中に微かに残っているのでしょう。

『熊本君の本棚』は、その『忘れてきた言葉』を揺り起こしました。

過去の痛みと孤独。読み手のその影を刺すように熊本君の物語は紡がれます。作者の情熱が伝わる繊細な文章が細かな棘となり、自分の過去が遠く心の中で熱を持ちました。

悲しいのは、自分がわざとその言葉を忘れてきたことを、『熊本君の本棚』が思い出させたことでした。

忘れることを望んだ言葉の中には、苦しみや悲しみだけではなく確かに希望もあった。でも苦しみが重すぎて、希望と一緒に捨てるしかなかった言葉。誰の中にもそんな言葉があるのなら、この小説はその場所を刺す。熊本君の姿にかつての自分を重ね、戦っていた自分を思い出す。

読む人に、熊本君のようにもう一度戦えとは言わない。でも、もう一度思い出してもいいんじゃないだろうか?

生臭い孤独の中に、必死で自分の姿を探していたことを。いつの間にか忘れていた言葉の中に、哀しみの果ての光を見ていたことを。

辛いから忘れた。でも思い出せば、それは新しい希望を紡ぐかもしれない。

熊本君の本棚の中には、その物語もきっとあるはずだから。

★★★ Excellent!!!

人間は綺麗なものが好きな反面、汚いものにも同様に惹かれますが、今作はそのバランスが絶妙でした。
例えば甲斐荘楠音の絵を見る時の感覚に似て、「汚い、おぞましい、でも目が離せない」と読み進めてしまいます。
人間の汚い部分であったり猥雑さがない交ぜになった作品ですが、どことなく品の良さが漂うのも魅力の一つ、作者の持ち味なのでしょう。
また、読んでいる間に何度もルーベンスの“Der Höllensturz der Verdammten”が頭をよぎりました。日本語訳では「地獄堕ち」あるいは「罰を受けた者たちの地獄堕ち」となるようですが、私的に「熊本くんの本棚」に通ずるところのある絵だと思っていますし、岡山の女の中にはこんな地獄が広がっているかもしれません。
是非とも書籍として手に取りたい作品です。

★★★ Excellent!!!

面白かった。まず文章が巧み。引っかかる場所がほとんどない。
大変に面白かったのだけど、でも私はこの物語を他人になんと解説していいのか、それがわからない。物語がわかりにくかった、という意味ではない。そもそも人生にわかるべきところなどほとんどないはずだ。そういう点でこの物語はなによりもリアルだ。

それでも、私が子供の頃に好んだ読書経験というのはこのようなものであった、とも思う。おもしろかった、石に水がしみわたるように、文章がするりと入り込む。読んでいるときに考えることはしない。感じているだけ。言葉にすることで失われるものが恐ろしく、声にはださない。だから幼いころの私は、読書感想文という取り組みを憎んでいた。

小さなころからそうだった。何かに没頭しているうちに、夢中になって、「これおもしろいよ」と声を上げた頃には、周りに誰もいない。ぽつんと取り残されている。

いや、いいのだ、私の話は。でも熊本くんの本棚はそういう物語だ。まつりが。タクミが。祥介が。みのりが。自分の口で語る。人生を、他人を、愛を、虚無を。向こうから何か訓示を与えてくれるタイプの語り手ではない。突き放されている。それでは私は? 自分はいったいどうやって読み解けば、あるいは語ればいいだろうか? 否応なしに心を開かされる作品だ。

物語はみのりという女性が大学生活の中で出会った「熊本くん」という人物を語るところから始まる。熊本くんはあまり多くを語らない、ミステリアスなキャラクターだ。がたいのいい、好男子らしい。文学部なのに本を読まないみのりは、熊本くんの部屋で彼の作った手料理を食べ、いくつかの本を借りて帰る。
あるときお節介な女学生が言った。熊本くんがビデオに出てる。
男同士の、アダルトビデオ。

物語にはいくつかの家族が登場する。どこも問題を抱えていて、すれすれの生活をしている。宗教に入れ込む父親、見て見ぬふり… 続きを読む

★★★ Excellent!!!

作品紹介にある通り、本作は熊本くんという男性について描かれたものです。
平凡ではあるものの、ある種の歪さを抱えた家庭に育った熊本くん。
そこを根として、やがて身の回りで起きる様々な出来事から形成されていく彼のパーソナリティが主題となります。

カテゴリにはLGBTやBLが含まれていますが、主題はそこにはありません。
熊本くんという人物を深く掘り下げる際に、彼のバックグランドの一要素として扱われています。

作中に登場する数々の機能不全の家庭と、一方通行だらけの愛。
それまで多くのことに受け身であった熊本くんは、自分の根幹を為しているものと対峙した結果、最後の最後でその両方の望むべき形を手にして物語は終わりを迎えます。
そして大きな代償を抱えつつも、生きることを諦めないと決意します。

読み進めていく上で油断のできない小説だった、というのが読了して最初に出てきた感想でした。序盤から出てくるちょっとしたセリフや名詞、何気なく見える描写が後々のシーンで伏線となって戻ってきます。
二度三度と読む度に新しい発見を楽しむことができる作品だと断言します。

しかしなんと申しましょうか。
人間礼賛的なストーリーが多く見受けられる中で、恐れることなく人間の持つ闇の部分を描ききった手腕には頭が下がります。

★★★ Excellent!!!

あと数話で本作は終わるそうですが、結末を知らずにレビューを書きたい、そう思いました。
本作は10万字を楽々と超え、その一行一行が練られ、思考されているため、十全に読み解けている自信がないことをここに白状します。

作者様によると本作は夏目漱石の「こころ」を換骨奪胎した作品のようです。
噛み砕いて記せば、「こころ」の形式を借りて作者様の思考や価値観を作品として成立させることかと思われます。

「顔よし、からだよし、性格良し。そのうえ読書家。なんだか現実味のないイケメン、熊本くん。仲のよい「わたし」は、同級生から熊本くんの噂を聞く。
どうやら熊本くんが、ゲイ向けアダルトビデオに出演している、というのだ。 」

下手に私が要約するよりも作者様ご自身による作品紹介をそのまま転載しましたが、第一章第二章では熊本くんの大学の同級生である女子「わたし」目線で物語が描かれ、それ以降、熊本くんが書いた小説を「わたし」が読んでいるという形式で読者は本作を読んでいることになります。

ここら辺の形式に対する言及は私は得意ではないので上手な方にしてほしい、それを読みたいと思うのですが、私の疑問のひとつは、ゲイビデオに出演しているらしい熊本くんのセクシュアリティがどうもよく分からないことでした。
理由は、通常セクシュアリティに由来して「こういう人と付き合いたい」とか「こういう人と暮らしたい」などの将来の展望が見えないからです。

LGBTという言葉が流行っていますが、MSMという言葉もあります。
「Men who have sex with men 」の略で、この場合セクシュアリティはゲイでもバイでもヘテロでも構いません、男性と性行為をする男性のことです。
将来を考えず、刹那の性行為を繰り返す熊本くんをMSMと考えるのが私には最もピッタリして、そして、私自身の感じ方では、彼のセクシャリティは本作の… 続きを読む

★★★ Excellent!!!

現在、37話目の段階でのレビューとなります。

この作品、まだ5話目あたりの時から読ませて頂いております。


まず最初にあまりの文章の巧さにただただビックリします。表現や比喩の書き方が心情やその場の風景・情景をよく表しており、構成も含めてとても読みやすくなるように工夫がなされています。



次にその美しい文章とは真逆な世界観。人間の闇の部分、弱さ脆さ汚さ傲慢さ残虐さ。狂人が当たり前に息をしている世の中。みんなが傷付いて、ある人はそれに呑まれたり、またある人はそれに順応していく人達。途中から普通の人達(今のところ)が出てきてくれますが、それがまた何とも狂った日常をリアルに浮かび上がらせています。



最後にストーリーですが、これがまたあるようでないスタイルです。あえていうなら現代版の夏目漱石「こころ」といった感じでしょうか。もちろん破綻してはいません。そこがこの人の器量なのでしょうが、本当にギリギリ「小説」になる所を狙っている感じがします。そこにまた作者の凄さを感じます。



本当に今まで読んだ事がない小説です。感想としては、はっきり言って頭では理解が追いついていません。が、そこがこの作品にハマってしまっている一番の理由です。何故なら感覚では全て知っていると思わされているというか…。とにかくラストまで付き合っていきたいと思わせてくれた作品です。これからも頑張ってください!