残酷なボーイミーツガール

 この作品のタイトルから、ふんわりとした牧歌的な物語を連想していた。ほんの数話読み進めただけで誤りであった事を思い知らされるのだが、しかしこれは嬉しい誤算なのだ。そこには、文学的なモチーフを正面から捉えた、骨太の物語が待っていたのだから。

 主人公の半生を追いながら、物語は進行する。中盤以降は主人公が書いた作中作に進行を委ねるし、また時系列が前後するため、筋を追う事が難しい部分があるかも知れない。しかしそれは、本作の魅力を減じるものではなく、数奇な縁の絡み合いを印象付けるべく働く。

 物語の中には、いくつかの出会い、そしていくつかの別れがある。人と人との繋がりが絡み合い、結果、因果を紡いでいく。
 その中でも注目したいのは、やはり主人公の『熊本くん』と『まつり』の出会いだ。こんなに残酷な出会いがあるだろうか。この出会いにより、熊本くんは自らの運命を認識する事になってしまう。

 出会い以降、二人は運命に翻弄されていくが、熊本くんは積極的に抗ったりはしない。反してまつりは、定めを拒み抗い続ける。両者の温度差が様々なドラマを生み、熊本くんを更に翻弄する事になってしまう。
 あくまでも受け身でありながら、様々な出会いを経ながら静かに抗う熊本くん。彼の淡々とした視点こそが、本作の魅力ではないかと感じる。
 自らの人生の、静かなる観察者。彼は運命を拒む事ができるのか、そして何処へ流れ着くのか……ぜひご自身の目で確かめていただきたい。

 最後に告白しておくが、ワタシは同ジャンルの書き手として著者に嫉妬を覚える。書こうと願いながらも未だ書けぬ物語を、高いレベルで完成させてしまったのだから。
 粗削りな面もあるが、それもまた魅力。今後の作品にも、注目していきたい。

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