主人公の澪子とその夫の間に横たわる、深く埋めがたき溝。
何とか埋めようとはするものの、価値観の違いは如何ともしがたく……。
他人との価値観や常識のズレに苦しんだ経験を持つ方は、多いのではないかと思う。俺もまたその一人のため、まるで自分ごとのように読んでしまい大きなダメージを食らったような気がする。
読み手の心を揺さぶる小説は、それがたとえダメージの類であったとしても良い小説であり、称賛に値する小説だと思う。ホラーというジャンルであるのなら、読み手へのダメージが大きほど称賛に値すると言い切ってしまったほうが良いのかもしれない。
そう、この作品こそが称賛に値する小説だ。
障りを視認でき、そして払うことができる澪子。そしていつも大きな障りを背負い込んで現れる夫。そして幼い頃に澪子が障りを払った幼馴染。
刑事である夫の担当事件が、澪子たちの関係に不気味な影を落としていく……。
超常の存在も恐ろしが、人の情念こそが最も恐ろしい……そう思い知らせてくれる作品。
もしも読むことを迷っているのなら、即座に迷いを振り切ることをおすすめする。「もっと早く読めばよかった」と後悔しても、時は戻らないのだから。
最後の最後に投下された爆弾のような呪いに、読了後からずっと闇が腹の中を渦巻いています。
いわゆるイヤミスのような、後味の悪い話がお好きな方に全力でおすすめしたい作品です。
互いに気持ちがあるにも関わらず、愛情の価値観の相違からすれ違う夫婦。
刑事である夫の担当した事件が、意外な形で夫婦の関係に影響を与えていくのですが。
理不尽に主人公を振り回す夫も。
主人公を追い詰める理解のない実家の家族も。
優しく穏やかに寄り添って甘い言葉をくれる幼馴染の男も。
誰も彼もに対して、どうにも心を許しきれない。
夫が連れてきた、被害者と思しき女性の幽霊の存在をヒントに導き出されていく、悍ましい真相。
人間というものの汚さと恐ろしさをありありと見せつけられるようでした。
機微を的確に紡ぐ心理描写で、自然に、どっぷりと、主人公に感情移入できます。
冒頭でも申し上げましたが、ぜひ最後の最後まで見届けていただきたい。
そしてぜひ、この泥沼の闇を感じてほしい。
大変満足の一作でありました!