超常の存在も恐ろしが、人の情念こそが最も恐ろしい

 主人公の澪子とその夫の間に横たわる、深く埋めがたき溝。
 何とか埋めようとはするものの、価値観の違いは如何ともしがたく……。

 他人との価値観や常識のズレに苦しんだ経験を持つ方は、多いのではないかと思う。俺もまたその一人のため、まるで自分ごとのように読んでしまい大きなダメージを食らったような気がする。

 読み手の心を揺さぶる小説は、それがたとえダメージの類であったとしても良い小説であり、称賛に値する小説だと思う。ホラーというジャンルであるのなら、読み手へのダメージが大きほど称賛に値すると言い切ってしまったほうが良いのかもしれない。

 そう、この作品こそが称賛に値する小説だ。

 障りを視認でき、そして払うことができる澪子。そしていつも大きな障りを背負い込んで現れる夫。そして幼い頃に澪子が障りを払った幼馴染。
 刑事である夫の担当事件が、澪子たちの関係に不気味な影を落としていく……。

 超常の存在も恐ろしが、人の情念こそが最も恐ろしい……そう思い知らせてくれる作品。
 もしも読むことを迷っているのなら、即座に迷いを振り切ることをおすすめする。「もっと早く読めばよかった」と後悔しても、時は戻らないのだから。

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