人生に深く関わろうとした時、彼は代償を払った

とにかく頭の中が混乱するくらい、たくさんの情報がぎゅぎゅっと凝縮された作品だ。
あたかも子供がおもちゃ箱に自分のおもちゃを無造作に押し込む時のように、整然とした文章でありながら、雑然としている。

それはなぜかと言えば「タカハシタクミ」という人物が物語を常にありえない方向へと引きずり回し、主人公と共に我々読者は不可思議かつ非日常の中を連れ回される。

そこには普通に暮らしていたら絶対に手にすることの無い生活感の薄い世界があり、非日常感はますます増していく。
ぐるぐると目まぐるしく自分の意思と関係なく引きずり回される世界……。髪の毛を掴まれて、「痛い」と叫んでも逃れることができない。

しかしそれが記号としての「タカハシタクミ」にとっての薄っぺらい日常であり、熊本祥介にとっての世界との断絶だった。

わたしは作者の作品を読むと、その圧倒的な力量の差に一文字も書けなくなってしまう。今作も二日に渡って読ませていただいたが、その間、一文字も書く気にならない。
自分の書いた文章を見ると、吐き気がするほどだ。それだけの筆力を持って書かれた今作は、読者にも逃げ場を与えない。

書籍化が楽しみな作品だ。
できればもう少しお手柔らかにお願いしたい。

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