呪縛にもがく青春

さらりと入り込める導入で読み進めるうちにいつの間にか底の見えない沼の中にいる、そんな物凄い吸引力のある作品でした。
登場人物がことごとく闇の中にいて、明確に説明されるまでもなくそれぞれの苦しさが読み手に伝わってきます。
均一した重たい緊張感がずっと続いて行くようなさま、読み手にも同じ緊張感を強いられているような心地になりますが、これが本書を読む快感になり思わず次のページに進んでいます。
少年のうちに理不尽な呪いを受けた熊本君が色んな人間との関わりの中でもがきながらいかにその呪縛と向かい合うのか。
物語の内容の凄まじさと裏腹に、腹の底のドロドロとしたものが淡々と論理的に語られる温度差の妙、そして人間の内面を感情的になることなくここまで綿密に赤裸々に描かれる筆致に敬意を感じます。
「熊本君の小説」からがおそらく本題といえるのでしょうが、「わたし」の章の中で語られることが全て伏線となって回収されていく面白さもあり、物語自体の娯楽性も素晴らしいです。
とにかく読んでよかったと思いました。
読み応えのある作品をありがとうございました。

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