女性の即位は一度も実現したことのない兎国。
主人公である王女ルドカは、女だという理由だけで即位できない理不尽さを受け入れることが出来ず、初の女王を目指して女王太子となる……。
傑物でない人物が、多くの困難を乗り越え、有能な家臣や理解者に支えられて王になる。
そんな物語は、そこまで珍しいものではありませんし、胸熱くする少年漫画などでも見られるものです。
しかしこの物語は、単にそういった主人公の成長や燃える友情展開を描いたものではありません。
緻密に練られた世界設定と国々の歴史。
次々と明かされる策謀と、それに関わる人々の事情。
登場人物達の生き様を感じさせる人間臭さ。
中華風ファンタジーと軽く括ってしまうには勿体ない気さえする、壮大な大河ドラマ。
魅力を挙げればきりが無い物語ですが、特筆すべきは、作者様のその筆致。
歴史ものであるけれども、女性ならではの流麗さを感じる表現は、白いだけでない政治の部分まで、胸に沁みるように読ませてくれます。
じっくりと物語の世界観に浸れる歴史ファンタジー。
自信を持ってお勧め致します。
古代、神獣加護が帝国の礎となっていた時代。
兎国王太子の地位に一人の少女が立っていた。
女の御代は不吉、即位すれば国が滅ぶとされる逸話が人々の間で語り継がれ、妄信されているなか、しかし彼女はその逆境に立ち向かい、忠臣と共に王位に就くべく奮闘する。
王の座を賭けた者たちの息詰まる心理戦、水面下での攻防、裏切りと策謀、そして織り成される人間模様。その全てを壮大にして緻密に描き出す作者の力量たるや、もはやプロの風格。巷に溢れる中華風ファンタジーとは一線を画す珠玉の長編大作。
一度、読み始めたら最期。
あなたはもう決して『こよみワールド』から逃れられない。
本作は、女の子が主人公である中華風ファンタジーです。
主人公は、法的には女王になることが出来る立場であるのに、周囲の人物は慣習として女王を望んでいない、そんな微妙な立場にいます。逆風の中頑張る主人公を応援したくなるのはもちろんですが、敵役もきちんと魅力的に描かれていて、こちらも応援したくなってしまいます。
設定がしっかりしている骨太な作品なのですが、生き生きとした文章で、読んでいて心地よく感じます。
作者さんはエッセイ『詳しいことは省きますが』の『歌舞伎のススメ』などで創作論を語っていらっしゃいますが、読む人を楽しませるにはどうすれば良いのか、深く洞察されている方なのだと思います。
物語はまだまだ続きますが、歴史ファンタジーが好きな方には特にお勧めです。
古代帝国の神獣加護国に伝わる故事の影響により、女王は不吉であることを掲示する高札が市場の目立つ場所に掲げられた兎国の王太子となった瑠土花(ルドカ)は急逝した兄、世土玖(セドク)の残してくれた言葉を胸に女王を目指すことを決意する。霊廟で飛んでいく月蛍を追いかけ辿り着いた王権神話の絵物語の壁画で聞こえてきた魂の声、稗官、燐渓雪(リンケイセツ)の助言を受け、自らの運命を切り開くべく計画を進めていく中、王位継承権を巡る思惑と野心に巻き込まれていく—。果たしてルドカは決意を達成し、女王になることができるのか—。古代中国の神話や説話を連想させる中華風ファンタジーの秀作です。