まさか「ハム」という言葉で泣かされるとは……!

少年時代の『ぼく』を、大人になった『僕』が振り返る形で綴られていて、その距離感が優しいのです。『僕』の目線がなくダイレクトに『ぼく』の姿が描かれていたなら、私はきっと、辛くて直視できなかったと思います。
また、『ぼく』を回想する『僕』を見守る読者の私、という関係性を独自に築くことができる読み心地がとても好きでした。今の『僕』にしか分からない深い部分を、読み手だけが『僕』と共有できるのです。涙が出るほど感情移入している相手と秘密のやりとりが成立したみたいで、読んでいて何度もハッとしました。こんなに嬉しいことはありません!(うまく伝わっていなかったらごめんなさい)
そんな『ぼく』とその周りの人々との複雑で深刻な心の交流が、真っ向から描かれています。

そして「ハム」です。ハムなんです。
何気なくポロっと出てくるハムの話に、涙が止められなくなりました。あれだけの想いが詰まったハムという言葉を、私は他に知りません。ありふれたハム、だからこそかけがえのないハムなんです!
物語で描かれていない部分でも、誰もが確かに生きていたという歴史が随所に根付いていて、何人分もの人生を追体験させてもらったような重みと厚みを感じました。

面白かった、感動した、という気持ちを超越して、素晴らしいものを読ませていただいたことへの感謝ばかりが溢れてくる読後感でした。
どうもありがとうございました!!

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