右カウンター赤道より

作者 梧桐 彰

401

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★★★ Excellent!!!

うだつの上がらない挫折したロートルが、一念発起して若き王者に挑む。
これは酷く使い古されたテーマの物語であり、似たようなあらすじの物語を探そうと思えばいくらでも見つけることができるだろう。
しかしそれは、このストーリーに王道の面白さがあるということだ。
王道を陳腐だと思わせないだけの確かな文章力と構成力は、右手にするするとページを進めさせる。

そしてそんな王道のストーリーにスパイスを加えるのが、インドネシアというあまり馴染みのない舞台。
正直自分はインドネシアについて「東南アジアの国だよね?バリ島とかがあるんだっけ」程度のことしか知らないし、恐らく大抵の日本人はそんなものだろう。
この物語はそのインドネシアという“よく知らない国”を、嫌味なく描いて舞台にしている。
これはインドネシア人ボクサーのロニーと、日本人ボクサーのアキラの物語だ。そして彼らの周囲には、様々な経歴や性格の人物が多様に集まってくる。
ひとりひとりのキャラクターの振る舞いから人生が見えてくるような感覚は、もちろん作者の実力によるものだろう。同時に、この色々な人がいる国がインドネシアか……と、読みながら知らない国に想いを馳せた。

なによりやはり、ロニーというキャラクターが素晴らしい。
太陽のように優しいこのインドネシア人ボクサーのことを、自分はすっかり好きになってしまった。
もしも本当に彼の試合があればきっと応援に行くだろう。
近くに住んでいれば友達になりたい。
そう思わせる、素晴らしいキャラクターだった。
もちろん、そのかけがえのない友達である、ぶっきらぼうで優しいアキラにも同じことを思う。

王道のストーリーと、異色の舞台。
そこで輝く最高のキャラクター。
まっすぐ伸びたカウンターパンチに、見事に魅了されてしまった。

★★★ Excellent!!!

ジャカルタの33歳のボクサー、ロニーのもとに、
日本から若手ボクサーとの試合の依頼。
やる気のなかったロニーが、奮起する。

とにかくプロローグを読みましょう。
私、ボクシングは全くわかりませんが、
「これは面白いぞ!」という予感がビシバシします。
(33歳で“老”って言われちゃう世界なんですね……)

ロニーも、ジムの居候アキラも、
ロニーの練習に付き合ってくれる仲間たちも、
出てくる人物みんな、脳までボクシングでできてるのが
とても良いです。
インドネシアの情勢とか、恋愛とか、
人生なのでボクシング以外のこともあることはあるのですが、
とにかくボクシングが熱くて良かったです。

★★★ Excellent!!!

インドネシアでジムを経営する老ボクサーと、そこに居候をしている日本から逃げ出してきたボクサー。日々、なんとなく暮らしている2人の元に、赤道を超えた日本から試合のオファーが。相手は売り出し中の期待の新人。傍から見ればどう見ても「噛ませ」としてのオファーを受け、2人のボクサーの止まっていた歯車が動き出す。

ボクシングを軸とした登場人物たちの交流や、インドネシア情勢を織り込んだ展開もさることながら、ボクシングの練習や試合における、理屈や狙いが印象に残りました。アホ丸出しな感想で恐縮ですが、「識者が難しそうなことを説明してくれて、それを読んで『へ~』『すごい』と思える話」、大好きなんです。

ともすれば「根性で殴り合い」というパッション溢れる面ばかりがクローズアップされがちな格闘技のお話ですが、そこまで辿り着く前提としての、技術や知識や理屈が読めて楽しかったです。その理屈通りにいかない身体や、相手の思惑のもどかしさ。読んでいて、いつのまにか応援していました。根性は技術の先にあるからこそ、燃えますよね。

そして、タイトル通りの右カウンター。これがですね、打つんですよ右カウンターを。いやあ、待っていました。すごく面白かったです。

情熱の溢れるお話を探している方であれば、是非。

★★★ Excellent!!!

本当に最高でした!
めちゃくちゃ熱いし、面白かったです。

ジャカルタから放たれた拳は、三ヶ月先、日本のリングまで真っ直ぐ伸びていく。
その過程で、色んな人の想いを載っけていき、最期に放たれるであろう拳を、今か今かと待ち望みながら読む体験が、すごい楽しかった。

登場人物全員いとおしい。

何回か読むのを途中で止めたりしてるのだけど、毎回気になって読みに戻ってくる不思議な作品でした。

是非是非、読んでください、オススメです。

★★★ Excellent!!!

ボクシングにかける熱き男たちの物語。
ボクサーという生き方に、人の強さの真髄を見ました。
その描かれ方が、熱くて渋くて深くてとてつもなくカッコいいのです!

そして読後感が最高です。底抜けに良いです。
一話毎に積み重ねてきたものが、ひとつの無駄もなくリングの上で昇華する圧巻のラスト。もう究極的。最高に気持ちいい!
なんというかそれは未体験の気持ちよさで、スポーツや格闘技に打ち込んだ人にしか到達できない境地の片鱗に触れることができた心地でした。
読んでるだけでそんなところまで連れて行ってくれる作品、本当にすごい。

忘れた頃に読み返して、この強烈な読後感を再び味わいたいのですが、感動は当分薄れそうにありません。
ですので未読の方はぜひとも!本当最高ですよ!!

★★★ Excellent!!!

 題名を読み、本文第一話冒頭を読み、「ああ、これはそういう話なんだな」と納得。ロニーとアキラ、そして彼らを取り巻く縁のすべてが右カウンターに乗る、そんな話なんだなと。

 縁にも色々ある。因縁というくくりで言えば、運命もそれにあたるだろう。この物語の登場人物の過去には、今の環境のすべてに起因があり、それゆえに縁が紡がれ、未来への右カウンターに繋がる運命の物語へと続く。

 物語の最後、ひとつの因縁が終わり、残った一番大きな因縁への決着が囁かれる。その因縁が、はたしてどう新しい縁を紡ぎ、運命の決着を見せるのか……。それを夢想するだに、読み進めていた熱さが胸に蘇る。

 これからこの物語を楽しまれる方々も、どうか安心して最後の試合をハラハラしながら読んでもらいたい。僕はハラハラドキドキしながら、「勝つの!? 負けるの!? もう早くして!!」と思いつつ読んでました。

 いやあ、面白かった。

★★★ Excellent!!!

日本人でありながら東南アジアにわたってボクシングを続けている男、アキラの物語。
アキラ以外にもキャラクターが、個性、役目をしっかり果たしています
情景の描写も逸脱です―――これは映画なのでは―――小説ではなく。
筆者は東南アジアに住んでいたことがあるのでしょう、でないとこれは書けませんよ。
魅力の密度が、なんかすごいです、語彙足りなくてすみません。

★★★ Excellent!!!

「あしたのジョー」「ロッキー」「はじめの一歩」……
ボクシングをテーマにした名作の多くは主人公がファイターであり、アウトボクシングをやや不当に扱っている感は否めない。
アウトボクサーの物語が少ないとお嘆きの貴兄にこの作品をお勧めしたい。
この作品のユニークな点は、それ以外にもある。
外国人ボクサー、しかも欧米人やボクシング王国のメキシカンではなくインドネシア人ボクサーの物語であること。
カマセ犬の役割のインドネシア人のアウトボクサーサイドからの物語というアイデア自体はたしかに誰でも思いつくだろうが、実際に書ける作家は限られてくるだろう。インドネシアを文字情報だけではなく肌で知っていなければいけない。そして、説得力のあるボクシング描写のためには実際にリングに上がってパンチの痛みを知っていなければならない。
私は、作者のことを、この作品を通してでしか知らないのだが、おそらく上記の条件を満たした人物なのだろう。もし、違っていたら、……それはそれで凄い妄想力、描写力だ。

★★★ Excellent!!!

評価の星を4つか5つ付けたい。私にそう思わせた傑作です。
私はスポーツ観戦が嫌いな男で、自分で動くのもラジオ体操くらい。ボクシング試合は映画「ロッキー」でしか見た事がありません。そんな男でも、本作品は凄く楽しめます。
打ち合うシーンが丁寧に描写されており、素人でもイメージが湧きます。ボクシング試合に攻守の戦術や作戦が有る事を初めて知りました。てっきりセコンドは応援と水分補給しかしていないと誤解していたので、目から鱗でした。
更に物語を面白くしているのが、登場人物の織り成す人間関係。隠された過去、伏線として織り込まれた人の”縁”。人間ドラマは「ロッキー」の遥か上を行きます。
ベースには、沈滞した尼国ボクシング界に喝を入れようとする野心。それに個人の復活劇を絡ませる、ニクいストーリー展開です。
また、最終章「人物紹介」には作者の洒落た粋を感じます。
ところで、本作品はカクヨム界で「イスラム3部衆」と呼ばれているそうです。残り2作品は、山野ねこ氏「ブラッド・ライン」、猶氏「撃墜されるまで、あと何分?」。いずれもテロリストが登場しますが、脇役なり背景の一部です。全て読み応えが有り、三者三様です。読み比べてみると面白いですよ。

★★★ Excellent!!!

ボクシングに明るくない私ですが、最初から最後までワクワクと手汗と共に、読ませていただきました。

本当に、本当に面白かったです!
焦ったりグッときたり、ロニーさんやアキラさんのすぐそばで応援している気持ちになりました。

ボクシングを知ってる方もそうでない方も、熱い心に触れる感動を是非。是非是非。

★★★ Excellent!!!

 世の中、女性の「かわいさ」にかける情熱に比べて男性の「カッコよさ」にかける情熱は軽視されがちだと思います。

 「結婚しても女は女!かわいいと言ってあげよう!」という話は良く聞きますが、「結婚しても男は男!カッコイイと言ってあげよう!」という話はとんと聞きません。もしや女性は、男性は人生において「カッコよさ」にあまり比重を置いていないと思っている節があるのではないでしょうか。私たち毎日化粧するけど男の人ってあんまり身だしなみ整えないしズボラな人多いじゃん。そんなに「カッコよさ」なんて気にしてないんじゃないの?みたいな。

 んなこたぁありません。

 男性の「カッコよさ」にかける情熱は女性が「かわいさ」にかける情熱と同等かそれ以上です。試しに女性の方は、恋人や夫が料理をしたり機械を直したりゴキブリを倒したりしたら「カッコイイ!」と褒め倒してみて下さい。ニヤけながら「そうかー?」とかほざき、きっと次の機会でもノリノリでやってくれることでしょう(言う相手がいない?えっと……すいません)。女性が「かわいい」と言われた服を多く着るように、男性は「カッコイイ」と言われたことをたくさんやる生き物なのです。

 しかし「カッコイイ生き様」に対して「かわいい生き様」という言い回しがないことからも分かるように、「かわいさ」に比べて「カッコよさ」の範囲は広いです。だから男性が日々「カッコよさ」の獲得に励んでいることが見えにくい。女性のファッションにかける努力と男性の「給食をクラスで一番早く食べ終えること」にかける努力が同種だとは普通考えないでしょう。同種なんですけどね。努力の方向性がズレているとかそういうことは置いておいて。

 では「カッコイイ」とはどういうことなのか。その問いにはこう答えましょう。本作『右カウンター赤道より』を読めば分かる、と。(前フリが長くて申し訳ありませんでした)
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★★★ Excellent!!!

ボクシングが題材で、舞台がジャカルタ。途中でテロも出てくる。あくまでもリアルな話でありながら、誤解を恐れずに言うのであれば、最終的には良質の大人のためのお伽噺のような作品。そこには最終的に救いがあるからだ。最終数エピソード、ボクシングに全く興味が無い人間をぐいぐい読ませる迫力が圧倒的。

★★★ Excellent!!!

作者様も仰ってますが、ボクシングにさほど詳しく無い人ほど話に入り込めると思います。私自身もそのクチです。
ボクシングの知識、ボクシングに纏わる実話、そしてインドネシアの内情など、詳しく丁寧に説明が為されているというだけでなく、それらが物語の流れそのものを邪魔せず、さながら穏やかな清流に溶け込んでいるかの如く感じられ、自然と頭の中に入って来ました。この描写力、文章の組み立て方は実に卓越していると思いますね。
とても強くはなれそうもないロニー。彼のひたむきさが成長へと繋がり、また、主人公をはじめとした多くの仲間達の支えがあり、読んでいる私も「頑張れ!」と声援を送りたくなった程です。
中盤以降は一難去ってまた一難のハラハラ展開。
ボクシングはとっつきにくい?
騙されたと思って読んでみて頂きたい。感動のフィナーレまで一気に読んでしまいましたよ…私(笑)

★★★ Excellent!!!

インドネシア、ジャカルタ。
穏やかで、明るく、いい加減な分前向きな人たちに囲まれて、夢の残り香の中でくすぶる1人の日本人。
ひっそりと佇むボクシングジムで彼の持つグラブに拳を打ち込むのは、およそボクシングに向いていない性格の、歳を取りすぎたぐうたらインドネシア人ボクサー。
ジムに届いた一通の試合申込みから始まるこの物語では、形は違えどそれぞれの想いを抱えボクシングに情熱を燃やす男たちと、それを支える魅力的なキャラたちによる、胸の熱くなる人間ドラマが繰り広げられます。
ボクシングというストイックな競技に身を投じ、複雑な地域情勢に翻弄されつつも、不思議と優しい空気が作品全体を覆っているのは、インドネシアという国の持つ雰囲気・・・大らかで包容力のある雰囲気が作品に見事に取り込まれているからではないでしょうか。
豊富な知識と巧みな展開が込められた本格的な異国ドラマでありながら、格闘競技モノとしても読み応え抜群!
格闘競技モノで熱い展開を書こうとするとどうしてもスポーツ道徳に反した公開拷問と化しがちですが、この作品はTKOの基準や医学的な観点をきちんと考慮し、ケガの度合いなどもギリギリの調整がなされているように感じました。
その上で繰り広げられる高度な駆け引きはそれ自体が作品のテーマの投影であり、魂を揺さぶる力が込められています。
人は1人では生きていけない。自分では気付かなくても、多くの人の縁が力を与えてくれている・・・そのことを最も効果的に表現できるうってつけの舞台が、この赤道直下の国なのかもしれません。

★★★ Excellent!!!

気持ちがぐっと掴まれる魅力と迫力に満ちた作品でした。

まず、インドネシアという土地やボクシングという競技について、たいへん良く描かれていて、それによって作品により厚みが出ている点が素晴らしいです。
特にその土地についてしっかり描いていることで、それぞれのキャラクターが持つ背景がより鮮やかになり、とても読み応えがありました。

対戦相手のキャラクターもいいです。
持ち上げられても慢心しない、自分をしっかりと持った若者の姿は読んでいて気持ちのいいものでした。
相手をリスペクトできる、というのがこんなに清々しいものなのかと思います。

しかし、何よりも素晴らしいのは主人公を含め、旧友の進藤や対戦選手の薮田など、本当にボクシングがなければ生きていけない男たちなんだな、というのがしっかりと文章から滲んできている点です。
それがあるからこそ、それぞれがロニーに賭ける思いや真剣に対峙する気持ちにたいへんな説得力が生まれ、読む側まで彼に賭けたいと思えるのです。

そういう周囲の気持ちは、ロニーの「人が集まってくる」という素質と繋がっていきます。
ボクシングしかない男たちの期待を背負えるだけの度量のあるロニーの人間的な大きさがとても眩しく映りました。

個人的にはソムチャイのキャラクターも好きでした。
彼も薮田とはまた違った意味で気持ちのいいキャラクターです。

読めてよかったなと思える作品です。

★★★ Excellent!!!

まずタイトルのかっこよさに惹かれて手に取りました。
自分はボクシングの知識はほとんど無く、試合も通して観たことはおそらく1回もないのですが、すぐに物語に引き込まれました。

この作品は単なるスポーツ小説ではなく、過去に傷を負った男たちが織り成す、熱く切なく心震えるヒューマンドラマというべきではないか、と思いました。
文体は淡々としているのに熱い。
そしてインドネシアの熱気や、濃密な匂いまでむんむんと伝わってくるよう。

全編通して、とにかく熱くカッコイイ展開が続きます。
試合の場面では二転三転する戦況に、思わず手に汗を握りました。
最後まで読めばきっと、心の中に眠った闘志が目覚めるはずです!

★★★ Excellent!!!

格闘技は個人競技と思われがちですが、これだけは絶対です。どんなに強い人でもどんな武術を学んでも人は一人では絶対に強くなれない。その技術は先人が培ってきたもの、指導や練習は周りの助けがあってこそ、だからこそ強くなれる。構成としてこの結束していく過程を丹念に描いていく第二章までが一番面白かったです。そして実はこの二章までが一番大切だと感じるので、実は試合の結果はどちらが勝つか結末を心待ちにさせつつも、お話としてのテーマは消化させているのではないかと思うのが心憎い。巧い。
人が強くなる為のもう一つの大事な要素は倒すべき相手の存在だ。自分が目指す目標となる相手こそが自分をより高く飛躍させるのです。打ち合いはその相手がこれまでやってきた事が如実に現れてそれこぞ「百万言の浮ついた友情ごっこ」よりも雄弁に物語ります。ロニーと薮田の打ち合いとその過程で開示されていく薮田の真摯さが熱い。
肉体言語ですね。
巷間では笑い話になる単語ではありますが、これほどこのお話にしっくりくる言葉は無いでしょう。肉体言語系小説。梧桐さんのこれまで培ってきたものがふんだんに詰め込まれて、その全てを雄弁に語っています。読めてよかった。こんなに面白いものはそうそう無いですよ。

あと薮田幸せになれてよかったね。

★★★ Excellent!!!

本作はインドネシアのロートルボクサー、ロニー・ハスワントの下に次期チャンピオン候補の薮田から試合のオファーが送られてくるところから始まるボクシング小説です。

しかしロニーは33歳、弱気でぐうたら。勝てる見込みはまったくありません。語り手でありロニーの同居人の梧桐は反対しますが、ロニーはあくまでオファーを受けるといい、二人の挑戦が始まります。

当初は無謀にも思えた挑戦ですが、個性豊かな仲間がひとりまたひとりと集まってきて、れぞれの強みを活かして、彼らをサポートします。この辺りの面白さは黒沢明の『七人の侍』や船戸与一の『夜のオデッセイア』にも通じるものがあります(余談ですが、どちらも大傑作であり、特に『夜のオデッセイア』は本作にも強い影響を与えた作品と思われますので、興味のある方は読んでみると良いでしょう)。

さてしかし、本作には『七人の侍』『夜のオデッセイア』とは決定的に異なる点があります。それは、どれだけ頼りがいのある仲間がいたとしても、ロニー・ハスワントはたったひとりで薮田と向かい合わなくてはならないということです。コーチとしてもセコンドとしても優秀なスミトラであっても、ロニーの代わりにリングに入って薮田を殴りつけるわけにはいかないのです。

そして、薮田もまた、孤独の中で牙を研いできた男であり、その牙の鋭さ故に、ロニーは窮地に立たされます。

窮地に立たされたロニーがどのように戦ったのか。
勝利の女神はロニーと薮田のどちらに微笑んだのか。

もちろんここでは詳細に語るような無粋なことはいたしませんが、この物語が梧桐を語り部としたことと密接に関わっている実に魅力的な結末だということだけは断言しておきましょう。

それからもひとつ。対戦相手の薮田について。
メディアでの取り上げられ方など、実在の選手を想起する部分もありますが、過去エピソードによって、しっかりオリジナ… 続きを読む

★★★ Excellent!!!

何が良いとか素晴らしいとか、
つたない表現してしまうのはもったいないです。

まず一読を薦めます。

舞台はインドネシア。
名前だけは聞いた事がある国。
なじみはあまりない国。
暑いということだけは知っている。
その首都ジャカルタの、
小さなボクシングジムから始まるこの物語。

それぞれ夢を追うことも見る事も諦めざるを得ない年齢となった主人公たちが、
それぞれの再起をかけて協力しあう。

近年、
スムーズに感情移入できた小説は久しぶりです。

ジャディラ・アリ。

 

★★★ Excellent!!!

『ロッキー』を観たあとって、絶対シャドーボクシングするだろ?
へっぴり腰のパンチで、電球の紐をぺちぺちと叩く。

あれと同じさ。

気付くと拳を握り締めていた。
空想の中で、俺は南国のボクサーになる。
同じように電球の紐を叩くわけさ。
繰り出すのは、もちろん「右ストレート」。

★★★ Excellent!!!

砂埃が舞い空気が少し汚れた感じの世界観で(というかインドネシアで)おじさん二人がボクシングに熱を入れていく二時間ドラマを、大きいスクリーンで観ているような感覚でした。

ボクシングの内容は私はさっぱりで、最初の方は男臭い話だなぁと若干斜め読みをしてしまっていたんですが(作者さん、すみません陳謝)、ロニーが何故ボクシングに力を入れているのか、主人公のアキラが何故自己投影しながらロニーを鍛えているのか、そこが明らかになるにつれて段々夢中にさせられていったように思います。

そして気が付いたら日本に向けて出発していて、最強・藪田との試合――。
きちんとドラマはあるものの、ある種の疾走感がこの作品にはあって、そのせいか、勝利に向かって踏み出そうとするロニーを全力で応援したくなっていました。というか応援していました笑

皆さん既に「熱い!」と書かれていますが、本当にヒューマンドラマが熱い作品でした。
いつか是非スクリーンで観たいですね。

★★★ Excellent!!!

いやあ……アツかった。
素晴らしい物語でした。
よって、これも★★★★です。

自身が格闘家である梧桐さんだから
ボクシングのシーンが素晴らしいのは当然として、
出てくるキャラクターたちの
なんとイキイキとしていることか!

まず、主人公のアキラとロニー。
それぞれ「傷」をもったボクサーが
協力して再起を図る物語。

その男の友情が、実にカッコいい。

そうです。この作品の素晴らしさは
「登場人物が見事に描かれていること」に
ほかなりません。全員、実にいいのです。

メインのアキラとロニーをはじめ、
その再起を支える、ソムチャイ、スミトラ、ヨーギ。
男臭い物語を彩るふたりのヒロイン、弓子とエルミ。
旧友の進藤、そして敵方の薮田と矢上……。

もうね、全員に血が通いまくってるから
誰彼かまわずに感情移入してしまいそうなほど。

この造形とキャラ立ての見事さは、
ほんのチョイ役としての登場でしかない
医者や漢方薬屋やタクシー運転手まで
完璧に貫かれています。

しかも、セリフ回しが実に素晴らしい。
端的で短いけど、読者をグサッと刺してくる。
この点は本当に、本作の白眉だと思います。

もちろん、ストーリーもいい⇒引き込まれっぱなし。
ラストシーンもいい⇒最高の読後感。

男の物語のなかにチラッと挟まれた恋愛模様も
心地いいカタルシスを与えてくれます。

――え? なんです?

ホメっぱなしじゃないかって?

そうですよ。仕方ないです。
こんな最高の小説、ホメるしかないじゃないですか!

★★★ Excellent!!!

 『カウンター』と聞くと、別にボクシングやってなくても血が騒ぐのが男心。もうこの言葉の響きだけで、不良からオタクまで多くの男が胸を熱くすることができるのではないでしょうか。
 そのロマンは、『劣勢の条件下で相手の隙を突いて一発逆転に挑む』という、これに尽きるわけです。

 そして、その『一発逆転』にかける想い――つまるところその背景・そこに至るまでの物語が重厚であればあるほど、僕たちは盛り上がる。

 そういう単純な生き物なんですね男の子って。
 はい。

 この作品はまさしく、『右カウンター赤道より』の言葉で表される、インドネシアという舞台から、僕達読者に対して繰り出された右カウンターになります。
 最後の最後の瞬間を盛り上げるために用意された、人物、設定、ストーリー、そして、右カウンターというテーマ。その全てが、ラストシーンに終結し、見事読者を『嘘だろ!!』と、ノックアウトしてくれることでしょう。

 この作品は心を打つヒューマン・ドラマではありません。
 この作品は綿密な描写が売りの闘拳小説ではありません。
 この作品は男が誇りを取り戻す栄光の物語ではありません。

 それら全てを内包して、私たちに突きつけられるカウンター、文章が殴りかかってくるボクシング小説です!!
 言ってることが無茶苦茶だって!?
 読めば(カウンターを喰らえば)分かるよ!!

 今コンテスト、ここに来ておそらく一番心を動かされた作品です。
 オススメ!! というか、読まなきゃ後悔しますよ、これ!!

★★★ Excellent!!!

パンチの重さが伝わってくるようなリアリティのあるボクシング小説です。
最初は頼りない盛りの過ぎたボクサーにしか見えないロニーが、徐々に勝てそうなボクサーに変貌を遂げていく。
それは周囲のサポートもさることながら、彼に勝負をしたいという意志があればこそ。
小説の熱量が、心地良く読む者の気分を高めてくれます。

★★★ Excellent!!!

最初に正直なところを申し上げますが、こういう作品のレビューは苦手です。
なぜって?
何を書いても取って付けたようで、安っぽい言葉になってしまうから。
率直に言えば、最後まで読んでメチャクチャ感動したし、ちょっと途中で泣きそうになりました。
……ほれ見ろ、なんてチープな感想だ!
しかし事実なんだからどうしようもありませんね。困った。

だから、この先の文章は無粋を承知で書き殴ることにします。
でも、もし作品情報ページのあらすじと、ここまでの文章を読んで、何がしかこの作品に興味が湧いたという貴方は、悪いことは言わないから、こんな駄文に付き合ってないで、さっさと本文を閲覧してくるのがオススメ。


あー、ええと。
それで、作品内容なんですが、ボクシングを題材にしたヒューマンドラマです。
もちろん、れっきとしたスポーツ小説で、格闘技に関する描写や説明も非常にしっかりしています。
けれどとにかく、ボクシングというひとつの競技を通じて、登場人物たちの多様な人生が描かれた物語としての色合いが強い作品だと感じました。

個人的には第三章の内容が特に心に響きました。
どのキャラクターも最高に「いいヤツ」なんですけど、特に進藤さんが好きなんですよね。彼に関連したシーンは、読んでて息が詰まりそうでした。
読後の余韻も素晴らしかったです。

……なんて取り留めもなく書きましたけど、ホント我ながら最後まで安っぽい感想だ!(苦笑)。

★★★ Excellent!!!

練られた展開,技術描写,そして何より男の交流が,ボクシングという素材を通じ昇華されていく。質の高い読み物だったと思う。
エンターテイメント的にはどうかとは思うが,基本女性とは魂が交わる感がない。
無論,作者のそういうところが好きだ。

ps.今回は負け役になった薮田だが,その後,幸せになれたそうで何よりだ。

★★★ Excellent!!!

昨今のストレス社会では「逃げるのは恥ではない」という風潮が高まりつつある。
これはある意味、正しい。
耐えることも大切だが、それで壊れてしまっては意味がない。
時には逃げることも必要だ。
でも、気をつけてほしい。
逃げることは癖になる。一度逃げ癖がついてしまったら、なかなか抜け出すことが出来ない。
今作はそんな人生から逃げてしまった男たちが、今一度立ち向かう話だ。
まるで赤道から吹き付ける熱風のような物語。読み終えた時に、きっと貴方の心にも熱い何かが宿るはず。
それは貴方の中に眠っている、何かを変えることの出来る強烈な右カウンターである。

★★★ Excellent!!!

友情、熱意、仲間意識、スポーツ愛すべてを盛り込んだボクシング小説!

とにかく登場人物すべてに作者のただならぬ愛を感じます。
男性陣たちはすべて男前(ルックス的な意味ではなく、人間の在り方として)であり、人生の教訓を本作で説いてくれるような数々の名言! とにかくカッコいいんです☆

ボクシングをテーマとしているだけあって、良い意味で男臭さはあるものの、それだけではなく女性陣もいい味を出しています。

またインドネシアを主たる舞台として、現地の社会問題や宗教的背景を反映しており、読者の見識を広めさせてくれるのも特徴です。

私はボクシングには疎いのですが、それでも十分楽しめる小説。それは何よりも読みやすい丁寧な文体と、程よいテンポで展開されるストーリーゆえだと思います。
個人的には実写化したものを観てみたいです。

タイトルもまた素晴らしい!
素晴らしい理由は、読み進めていただければ分かるかと思います。

評価の高い作品ですが、期待を裏切らない作品です。

素晴らしい作品をありがとうございました。

★★★ Excellent!!!

 同作者様の『前に進めば痛くない!』の方は漫画やアニメ版が想像しやすい雰囲気だったのに対して、この『右カウンター赤道より』はまさに登場人物、世界観、ストーリー、どれをとっても実写版が容易に想像できてしまうリアリティを感じます。

 もちろん決してアニメやラノベ好きには『前に進めば痛くない!』の方が向いてるとかそういう意味ではなく、老若男女、誰でも容易に画面が想像しやすいという意味です。

 登場人物は皆、魅力的なキャラクター性を持っているし、格闘技好きな人は当然として、深夜アニメをよく見る若者から実写の朝ドラ、昼ドラ、サスペンスドラマをよく見る主婦まで誰が読んでもノリや内容について行ける常識的世界観、そこに非日常的なアクシデントの数々がメリハリよく繋がるので、作中の出来事、流れが決して荒唐無稽にならず、自然と納得できてしまう説得力を感じます。

 とにかく、難しい知識や偏った趣味とかはなく、誰が読んでも面白く、読みやすく、納得でき、カタルシスを得られるという、まさしく迷わず万人におすすめできる作品だと思います。

 あと、エピローグの次のページの登場人物紹介(読後用)の『ツッコミ待ち感』が読み終えてしまった寂しさを紛らわすのに一役買ってくれますね。

★★★ Excellent!!!

赤道直下の国インドネシアの埃っぽくむせかえるような空気の中、裸電球のともるボロボロなボクシングジムで戦う、ロニーとアキラ。その友情や、エルミとの出会い、明かされていく過去に、徐々に強くなっていくロニー。そのすべてが熱く鮮やかなドラマとして目の奥に浮かびます。そして見どころは何といっても第四章でしょう。試合描写の疾走感、熱量。自分もリングサイドにいるんじゃないかと錯覚するような手に汗握る戦いが続き、引き込まれました。特に最後の方の試合実況のセリフが雰囲気が出ていて好きです。登場人物たちは、もういい大人なんですけど「ああ、いい青春だなあ」としみじみ思わされるました。そして最後にはエピローグと登場人物紹介にちょっとほっこり。お勧めの作品です!!

★★★ Excellent!!!

誰かのためでもなく、貧困から這い上がる気もなく、サクセスストーリーの主人公になるつもりもなく、ただ勝利にすがりつくためだけに二人の男が二人三脚で走り始め、次第に三人四脚、四人五脚、六人七脚と思いが繋がっていく。
全てを乗り越えた先、彼らは求めたものを得られたのか、是非読んでいただきたい。

★★★ Excellent!!!

インドネシアなんてバリしか興味ない、ボクシングははじめの一歩をちょっと読んだことがあるくらい、そんな方にお勧めします――。

あらすじに書かれた人物は、まさに自分。
いや、それよりももう少しばかり遠いところにいただろう。
なのに。

こういった作品の『要素』に見事一つも惹かれなかった人物を、否応なしに一気読みさせ、最後の最後までまるごと読者を呑み込んでしまう、とんでもない熱量を持った作品。
それが、この物語だ。

まるでボクサーの肉体のように無駄の削ぎ落とされた文章は読んでいて心地よく、気が付けば作中に没入させてしまう。
なるほど計算されているだろう展開、構成は読者をいつも飽きさせず、そして文章と相まって美しい。
物語のあらゆるところに名言があり、登場人物たちの熱い生き様に胸と目頭が熱くなる。
いつの間にか、作中人物たちを人間として愛してしまうだろうこと請け合いだ。



インドネシアにも、ボクシングにも、微塵も興味がない。故に、物語を楽しむのは難しいだろう、と思っているあなた。
いいだろう。ただし、助言しておく。

最後まで読み切った時、右カウンターをくらうのは、あなた自身だ。

★★★ Excellent!!!

歯を食いしばり、ダウンに耐え、リングを踏みしめて渾身の一撃、ラッシュでKO…

ボクシング小説と聞けばそんな描写を想像しますが、この作品で描かれる熱さは、そういうものとはひと味もふた味も違う。

この作者さんの小説は、他の作品も含め、この「熱さ」が本当に好きです。


特に、この作品で語られる「強さ」の本質。それは作品全体の大きなテーマとなって物語を貫いていますが、それは「なぜ格闘技をやるのか」ということへの回答なのだと感じられます。

だからこそ、ロニーは最後、あの感じだし、アキラもああなのでしょう。


格闘技、武術はつまり、人と人との関わり合いの術であります。

この作品は、血液や身体や精神の熱さだけでなく、関わり合いの熱さを丁寧に描いて、心を震わせてくれます。

読んだ後に、スポーツをした後のような爽やかな気持ちになれる、そんな素晴らしい物語でした。

★★★ Excellent!!!

熱帯の空気と、汗の蒸気がむんとまとわりつくような小説です。

舞台はインドネシア。ボクシングの話。私も含め、ほとんどの読者がインドネシアにもボクシングにも(やる側としては)関わりがないでしょうが、だからこそ、この全く知らない世界に、ディープな世界に、取り込まれていきます。熱いです。熱い話です。

★★★ Excellent!!!

ぶっちゃけてしまうと、ボクシングについてはほぼド素人。なんならあまり興味すら持っていなかった。
しかし、この「右カウンター赤道より」はそんな僕の心すらがっちりと掴んでしまった。
手に汗握り、胸が熱くなる。こんな僕ですら……。
某少年誌は友情、努力、勝利を掲げているが、この物語にはそれ以上のものが多分に盛り込まれている。
臨場感も半端ない。自分がまるで試合やスパーリングしているかのよう。
すごく怖い作品だ。読み始めたら最後。どんどんこの世界に呑み込まれていく。
最後にここだけの話。自分は、握り拳を作って実際にヘボパンチを繰り出して何度か空を切ってました笑

★★★ Excellent!!!

皆さんが書いているとおり、これはボクシングの話です。
でも、この話の面白いところは、主人公は選手ではないところ。主人公は、戦う彼を見守り、励まし、練習に付き合う元・ボクサーのアキラ。

はじめは二人だけだったのが、一人二人と仲間が増え、応援する人たちが増え、支える輪が広がっていく様子はジンとしました。

そして、いよいよ運命の試合が近づき、空港に向かった面々。
このあたりから急激に事態は動き出し、インドネシアを発つ前からハラハラしっぱなし。

ボクシングや格闘技が大好きな人はもちろん、いままでそういうものにあまり興味がなく知識もなかった私のような人でも、すんなり入っていけるし読みやすく面白い作品です。

これを読んで、インドネシアに行ってみたくなりました。

★★★ Excellent!!!

読んでいて胸が、目頭が、熱くなってくる、素晴らしい作品です。

主人公のアキラはインドネシアに渡った日本人元ボクサー。このお話の主役はなんと主人公の友人である、インドネシア人のロニーです。ロニーはやや年のいったボクサーで、気弱。そんなロニーに対して、日本で大ブレイク中のプロボクサーからの試合の依頼が……
日本が敵地という不思議な構図ですが、主人公アキラの過去や、ロニーの成長、日本に辿り着くまでの波乱万丈な物語に手に汗握ります。そしてボクシングの試合の行方……。
本当に手に汗をかきます。とにかくリアルです。
私がリビングのテレビでニュースを見ていて、「あれ? あのテロのことってニュースになってないかな? ……あ、あれは作品内の話か!!(汗)」ってなりました。それくらい真に迫っていてリアリティがあります。
キャラクターたちと呼吸まで一致するような共感性の中でのドラマというのは、そのままそこで追体験させられるような貴重な時間を過ごさせてもらえます。
ぜひ、体験してみてほしい作品です。

★★★ Excellent!!!

手に汗握るというよりも、ただただ胸を焦がすような熱さ。

ボクシングに全く興味がなかったのですが、ロニーの人がら、アキラの熱意に集まってきた仲間たちのように、読みながら熱くなりました。

ジャカルタの海岸線だけでなく、路地裏、空港や高速道路の緊迫した空気まで、ありありと伝わってきました。

ボクシングしかないと聞くと、殺伐としたストイックなイメージがありましたけど、沢山の人が集まってきた彼らは、とても人間味にあふれてます。

格闘技だけでなく、スポーツにも興味が無いって言い切れる人にも、読んで欲しいです!

★★★ Excellent!!!

インドネシアの熱く暑い大地を舞台の大王道スポ根物で、人と人の縁が繋いだヒューマンストーリー!
そして、臨場感が心を熱くさせるボクシングエンターテイメント!
たっぷり文字数使った試合の描写がドキドキハラハラでした!
一気に読んでしまいました。とても面白かったです!

★★★ Excellent!!!

 打撃系格闘技というと、日本ではまだまだK-1をイメージする人も多いのではないでしょうか。K-1は観客・視聴者側に立った格闘技で、わかり易さ・派手さが求められ、それに則ったルールが定められ、ジャッジが下される競技です。

 しかしボクシングは競技者側に立った格闘技。ざっくりと階級が分けられたK-1とは違い、ボクシングのそれはわずか3kg未満で区切られ、全17階級にも及びます。競技者間に体格差が殆ど無く、相手を倒すにはひたすら地道に肉体を鍛え、対戦相手に対する戦術を組み立て、それに従い技術を磨く他ない。その様は大変地道で地味なものです。

 本作はその「地道で地味」に丁寧に向き合いながらも、インドネシアのロートルボクサー・ロニーと日本の落ちこぼれ・アキラの心情やドラマなどを織り交ぜて丁寧に練り上げ、「負け犬たちのワンスアゲインもの」として「共感」させてくれます。

 果たして負け犬たちと一緒に決戦のリングまで辿り着いた読者は、アキラと共にロニーのセコンドに立ち、興奮と焦燥を何度も味わいながらラウンドを重ねる事でしょう。

 インドネシアという舞台設定と、その舞台をちゃんと活かした物語になっているのも、自分には新鮮に感じられました。


P.S.ボクシングとの競技性の違いとしてK-1を引き合いに出しましたが、ボクシングよりは比較的体格差が影響しやすいというだけで、勿論K-1出場選手も地道に研鑽を積んでいるものと思います。

★★★ Excellent!!!

熱い。
胸が躍った。
読みたかったストーリーがここにあった。
没頭して時間を忘れた。

彼らの体は泥臭くて汗にまみれて傷だらけで小汚ない。
肉体を追い詰めて剥き出しになった魂は、この上なくまばゆい。
「美しい」という称賛は、お門違いだと笑われるだろうか。
でも、それ以外に、研ぎ澄まされた彼らを表現する言葉を知らない。

赤道直下の国インドネシア、首都ジャカルタ。
閑古鳥の鳴くボクシングジムに居候する日本人アキラは、
ジムのオーナーである33歳のボクサー、ロニーの無謀に呆れた。
日本から試合の依頼が届くや、ロニーはそれを受けるというのだ。

ロニーは1年以上も試合に出ていない上、年齢が高い。
それなのに、新進気鋭の若い対戦相手とやり合う気でいる。
かつて日本で新人王のタイトルを獲ったアキラに、
勝つために本気でボクシングをしたいのだと、ロニーは訴える。

本気になって初めて気付いたロニーのテクニック、資質、気性。
中途半端にボクシングに引っ掛かっていただけのアキラが、
次第に真剣に、情熱的に、ロニーを鍛えることに向き合っていく。
敵地日本に乗り込んでの対戦まで、わずか3ヶ月。

課題があって、乗り越えていく。
困難が訪れるたび、助っ人もまた現れる。
人が人を裏切らず、友情を確かめ合い、繋がる縁が物語を紡ぐ。
愚直なまでにまっすぐ突き進むスポ根は、とにかく爽やかで熱い。

アキラは日本という裕福な国でボクシングを始め、
やがて事情を抱えて、見知らぬ国インドネシアへ渡った。
インドネシアは発展途上で、日本にはない問題も抱えている。
治安、宗教、生活水準、移民、経済格差、マフィア、テロ組織。

ロニーのボクシングを通じて、アキラの目に映る世界が広がる。
インドネシアという国を見、ロニーの過去を知った。
そして自分の過去を振り返り、人生の在り方を考えた。
現在と未来を照らす少女の笑… 続きを読む