うだつの上がらない挫折したロートルが、一念発起して若き王者に挑む。
これは酷く使い古されたテーマの物語であり、似たようなあらすじの物語を探そうと思えばいくらでも見つけることができるだろう。
しかしそれは、このストーリーに王道の面白さがあるということだ。
王道を陳腐だと思わせないだけの確かな文章力と構成力は、右手にするするとページを進めさせる。
そしてそんな王道のストーリーにスパイスを加えるのが、インドネシアというあまり馴染みのない舞台。
正直自分はインドネシアについて「東南アジアの国だよね?バリ島とかがあるんだっけ」程度のことしか知らないし、恐らく大抵の日本人はそんなものだろう。
この物語はそのインドネシアという“よく知らない国”を、嫌味なく描いて舞台にしている。
これはインドネシア人ボクサーのロニーと、日本人ボクサーのアキラの物語だ。そして彼らの周囲には、様々な経歴や性格の人物が多様に集まってくる。
ひとりひとりのキャラクターの振る舞いから人生が見えてくるような感覚は、もちろん作者の実力によるものだろう。同時に、この色々な人がいる国がインドネシアか……と、読みながら知らない国に想いを馳せた。
なによりやはり、ロニーというキャラクターが素晴らしい。
太陽のように優しいこのインドネシア人ボクサーのことを、自分はすっかり好きになってしまった。
もしも本当に彼の試合があればきっと応援に行くだろう。
近くに住んでいれば友達になりたい。
そう思わせる、素晴らしいキャラクターだった。
もちろん、そのかけがえのない友達である、ぶっきらぼうで優しいアキラにも同じことを思う。
王道のストーリーと、異色の舞台。
そこで輝く最高のキャラクター。
まっすぐ伸びたカウンターパンチに、見事に魅了されてしまった。
ジャカルタの33歳のボクサー、ロニーのもとに、
日本から若手ボクサーとの試合の依頼。
やる気のなかったロニーが、奮起する。
とにかくプロローグを読みましょう。
私、ボクシングは全くわかりませんが、
「これは面白いぞ!」という予感がビシバシします。
(33歳で“老”って言われちゃう世界なんですね……)
ロニーも、ジムの居候アキラも、
ロニーの練習に付き合ってくれる仲間たちも、
出てくる人物みんな、脳までボクシングでできてるのが
とても良いです。
インドネシアの情勢とか、恋愛とか、
人生なのでボクシング以外のこともあることはあるのですが、
とにかくボクシングが熱くて良かったです。
インドネシアでジムを経営する老ボクサーと、そこに居候をしている日本から逃げ出してきたボクサー。日々、なんとなく暮らしている2人の元に、赤道を超えた日本から試合のオファーが。相手は売り出し中の期待の新人。傍から見ればどう見ても「噛ませ」としてのオファーを受け、2人のボクサーの止まっていた歯車が動き出す。
ボクシングを軸とした登場人物たちの交流や、インドネシア情勢を織り込んだ展開もさることながら、ボクシングの練習や試合における、理屈や狙いが印象に残りました。アホ丸出しな感想で恐縮ですが、「識者が難しそうなことを説明してくれて、それを読んで『へ~』『すごい』と思える話」、大好きなんです。
ともすれば「根性で殴り合い」というパッション溢れる面ばかりがクローズアップされがちな格闘技のお話ですが、そこまで辿り着く前提としての、技術や知識や理屈が読めて楽しかったです。その理屈通りにいかない身体や、相手の思惑のもどかしさ。読んでいて、いつのまにか応援していました。根性は技術の先にあるからこそ、燃えますよね。
そして、タイトル通りの右カウンター。これがですね、打つんですよ右カウンターを。いやあ、待っていました。すごく面白かったです。
情熱の溢れるお話を探している方であれば、是非。
ボクシングにかける熱き男たちの物語。
ボクサーという生き方に、人の強さの真髄を見ました。
その描かれ方が、熱くて渋くて深くてとてつもなくカッコいいのです!
そして読後感が最高です。底抜けに良いです。
一話毎に積み重ねてきたものが、ひとつの無駄もなくリングの上で昇華する圧巻のラスト。もう究極的。最高に気持ちいい!
なんというかそれは未体験の気持ちよさで、スポーツや格闘技に打ち込んだ人にしか到達できない境地の片鱗に触れることができた心地でした。
読んでるだけでそんなところまで連れて行ってくれる作品、本当にすごい。
忘れた頃に読み返して、この強烈な読後感を再び味わいたいのですが、感動は当分薄れそうにありません。
ですので未読の方はぜひとも!本当最高ですよ!!
題名を読み、本文第一話冒頭を読み、「ああ、これはそういう話なんだな」と納得。ロニーとアキラ、そして彼らを取り巻く縁のすべてが右カウンターに乗る、そんな話なんだなと。
縁にも色々ある。因縁というくくりで言えば、運命もそれにあたるだろう。この物語の登場人物の過去には、今の環境のすべてに起因があり、それゆえに縁が紡がれ、未来への右カウンターに繋がる運命の物語へと続く。
物語の最後、ひとつの因縁が終わり、残った一番大きな因縁への決着が囁かれる。その因縁が、はたしてどう新しい縁を紡ぎ、運命の決着を見せるのか……。それを夢想するだに、読み進めていた熱さが胸に蘇る。
これからこの物語を楽しまれる方々も、どうか安心して最後の試合をハラハラしながら読んでもらいたい。僕はハラハラドキドキしながら、「勝つの!? 負けるの!? もう早くして!!」と思いつつ読んでました。
いやあ、面白かった。
「あしたのジョー」「ロッキー」「はじめの一歩」……
ボクシングをテーマにした名作の多くは主人公がファイターであり、アウトボクシングをやや不当に扱っている感は否めない。
アウトボクサーの物語が少ないとお嘆きの貴兄にこの作品をお勧めしたい。
この作品のユニークな点は、それ以外にもある。
外国人ボクサー、しかも欧米人やボクシング王国のメキシカンではなくインドネシア人ボクサーの物語であること。
カマセ犬の役割のインドネシア人のアウトボクサーサイドからの物語というアイデア自体はたしかに誰でも思いつくだろうが、実際に書ける作家は限られてくるだろう。インドネシアを文字情報だけではなく肌で知っていなければいけない。そして、説得力のあるボクシング描写のためには実際にリングに上がってパンチの痛みを知っていなければならない。
私は、作者のことを、この作品を通してでしか知らないのだが、おそらく上記の条件を満たした人物なのだろう。もし、違っていたら、……それはそれで凄い妄想力、描写力だ。
評価の星を4つか5つ付けたい。私にそう思わせた傑作です。
私はスポーツ観戦が嫌いな男で、自分で動くのもラジオ体操くらい。ボクシング試合は映画「ロッキー」でしか見た事がありません。そんな男でも、本作品は凄く楽しめます。
打ち合うシーンが丁寧に描写されており、素人でもイメージが湧きます。ボクシング試合に攻守の戦術や作戦が有る事を初めて知りました。てっきりセコンドは応援と水分補給しかしていないと誤解していたので、目から鱗でした。
更に物語を面白くしているのが、登場人物の織り成す人間関係。隠された過去、伏線として織り込まれた人の”縁”。人間ドラマは「ロッキー」の遥か上を行きます。
ベースには、沈滞した尼国ボクシング界に喝を入れようとする野心。それに個人の復活劇を絡ませる、ニクいストーリー展開です。
また、最終章「人物紹介」には作者の洒落た粋を感じます。
ところで、本作品はカクヨム界で「イスラム3部衆」と呼ばれているそうです。残り2作品は、山野ねこ氏「ブラッド・ライン」、猶氏「撃墜されるまで、あと何分?」。いずれもテロリストが登場しますが、脇役なり背景の一部です。全て読み応えが有り、三者三様です。読み比べてみると面白いですよ。
世の中、女性の「かわいさ」にかける情熱に比べて男性の「カッコよさ」にかける情熱は軽視されがちだと思います。
「結婚しても女は女!かわいいと言ってあげよう!」という話は良く聞きますが、「結婚しても男は男!カッコイイと言ってあげよう!」という話はとんと聞きません。もしや女性は、男性は人生において「カッコよさ」にあまり比重を置いていないと思っている節があるのではないでしょうか。私たち毎日化粧するけど男の人ってあんまり身だしなみ整えないしズボラな人多いじゃん。そんなに「カッコよさ」なんて気にしてないんじゃないの?みたいな。
んなこたぁありません。
男性の「カッコよさ」にかける情熱は女性が「かわいさ」にかける情熱と同等かそれ以上です。試しに女性の方は、恋人や夫が料理をしたり機械を直したりゴキブリを倒したりしたら「カッコイイ!」と褒め倒してみて下さい。ニヤけながら「そうかー?」とかほざき、きっと次の機会でもノリノリでやってくれることでしょう(言う相手がいない?えっと……すいません)。女性が「かわいい」と言われた服を多く着るように、男性は「カッコイイ」と言われたことをたくさんやる生き物なのです。
しかし「カッコイイ生き様」に対して「かわいい生き様」という言い回しがないことからも分かるように、「かわいさ」に比べて「カッコよさ」の範囲は広いです。だから男性が日々「カッコよさ」の獲得に励んでいることが見えにくい。女性のファッションにかける努力と男性の「給食をクラスで一番早く食べ終えること」にかける努力が同種だとは普通考えないでしょう。同種なんですけどね。努力の方向性がズレているとかそういうことは置いておいて。
では「カッコイイ」とはどういうことなのか。その問いにはこう答えましょう。本作『右カウンター赤道より』を読めば分かる、と。(前フリが長くて申し訳ありませんでした)
確かな知識に裏付けされた真に迫るボクシングの試合、現地を実際に歩いているような感覚を覚える鮮やかなインドネシアの風景、現実にもいるのではないかと思わせる厚みのある登場人物――と、この作品の魅力は多岐に渡ります。基本的な筆力が高いので作品としてのクオリティも高く、ソツがありません。Web小説でこういった骨組みから肉づけまで終始手を抜いていない作品は珍しいと思います。
しかし本作最大魅力はやはり「カッコイイ」こと。そこに尽きるでしょう。
前フリで説明しましたが「カッコよさ」は範囲が広くて捉えづらく、ゆえに「カッコイイ小説」を書くのは難しいです。しかしこの作品の登場人物は見事に全員カッコイイ。女性や敵役や唐突にちょろっと出てくるだけのキャラクターもカッコイイです。洒落た台詞回しや大胆な行動、そして心の真ん中に一本通った固い芯。そういう「カッコイイ」ポイントを的確に抑えています。個人的にはソムチャイが好きですね。勢いで日本までついて来ちゃうところとか超カッコイイ。
そういうカッコイイ登場人物たちが織り成す物語は、当然ながらカッコイイです。真っ直ぐで熱くて美しい。時おり重苦しい闇が覗くこともありますが、それもむせかえるような熱気を帯びたカッコよさに飲まれていきます。辛く苦しい出来事をカッコよさの中に包み込んでカッコよく処理して見せる。その姿勢もまた、カッコイイです。
「ボクシングが好き」「インドネシアが好き」という人は限られていると思いますが、「カッコイイものが好き」という人は老若男女問わず無数にいるはずです。本作はそういった人たちに自信を持ってお奨め出来る小説となっております。カッコイイものが好きな方はぜひ本作を読み、確かな筆力で綴られるカッコイイ人物とカッコイイ物語にうっとりと酔いしれて下さい。
作者様も仰ってますが、ボクシングにさほど詳しく無い人ほど話に入り込めると思います。私自身もそのクチです。
ボクシングの知識、ボクシングに纏わる実話、そしてインドネシアの内情など、詳しく丁寧に説明が為されているというだけでなく、それらが物語の流れそのものを邪魔せず、さながら穏やかな清流に溶け込んでいるかの如く感じられ、自然と頭の中に入って来ました。この描写力、文章の組み立て方は実に卓越していると思いますね。
とても強くはなれそうもないロニー。彼のひたむきさが成長へと繋がり、また、主人公をはじめとした多くの仲間達の支えがあり、読んでいる私も「頑張れ!」と声援を送りたくなった程です。
中盤以降は一難去ってまた一難のハラハラ展開。
ボクシングはとっつきにくい?
騙されたと思って読んでみて頂きたい。感動のフィナーレまで一気に読んでしまいましたよ…私(笑)
インドネシア、ジャカルタ。
穏やかで、明るく、いい加減な分前向きな人たちに囲まれて、夢の残り香の中でくすぶる1人の日本人。
ひっそりと佇むボクシングジムで彼の持つグラブに拳を打ち込むのは、およそボクシングに向いていない性格の、歳を取りすぎたぐうたらインドネシア人ボクサー。
ジムに届いた一通の試合申込みから始まるこの物語では、形は違えどそれぞれの想いを抱えボクシングに情熱を燃やす男たちと、それを支える魅力的なキャラたちによる、胸の熱くなる人間ドラマが繰り広げられます。
ボクシングというストイックな競技に身を投じ、複雑な地域情勢に翻弄されつつも、不思議と優しい空気が作品全体を覆っているのは、インドネシアという国の持つ雰囲気・・・大らかで包容力のある雰囲気が作品に見事に取り込まれているからではないでしょうか。
豊富な知識と巧みな展開が込められた本格的な異国ドラマでありながら、格闘競技モノとしても読み応え抜群!
格闘競技モノで熱い展開を書こうとするとどうしてもスポーツ道徳に反した公開拷問と化しがちですが、この作品はTKOの基準や医学的な観点をきちんと考慮し、ケガの度合いなどもギリギリの調整がなされているように感じました。
その上で繰り広げられる高度な駆け引きはそれ自体が作品のテーマの投影であり、魂を揺さぶる力が込められています。
人は1人では生きていけない。自分では気付かなくても、多くの人の縁が力を与えてくれている・・・そのことを最も効果的に表現できるうってつけの舞台が、この赤道直下の国なのかもしれません。
気持ちがぐっと掴まれる魅力と迫力に満ちた作品でした。
まず、インドネシアという土地やボクシングという競技について、たいへん良く描かれていて、それによって作品により厚みが出ている点が素晴らしいです。
特にその土地についてしっかり描いていることで、それぞれのキャラクターが持つ背景がより鮮やかになり、とても読み応えがありました。
対戦相手のキャラクターもいいです。
持ち上げられても慢心しない、自分をしっかりと持った若者の姿は読んでいて気持ちのいいものでした。
相手をリスペクトできる、というのがこんなに清々しいものなのかと思います。
しかし、何よりも素晴らしいのは主人公を含め、旧友の進藤や対戦選手の薮田など、本当にボクシングがなければ生きていけない男たちなんだな、というのがしっかりと文章から滲んできている点です。
それがあるからこそ、それぞれがロニーに賭ける思いや真剣に対峙する気持ちにたいへんな説得力が生まれ、読む側まで彼に賭けたいと思えるのです。
そういう周囲の気持ちは、ロニーの「人が集まってくる」という素質と繋がっていきます。
ボクシングしかない男たちの期待を背負えるだけの度量のあるロニーの人間的な大きさがとても眩しく映りました。
個人的にはソムチャイのキャラクターも好きでした。
彼も薮田とはまた違った意味で気持ちのいいキャラクターです。
読めてよかったなと思える作品です。