カッコイイとは、こういうことさ

 世の中、女性の「かわいさ」にかける情熱に比べて男性の「カッコよさ」にかける情熱は軽視されがちだと思います。

 「結婚しても女は女!かわいいと言ってあげよう!」という話は良く聞きますが、「結婚しても男は男!カッコイイと言ってあげよう!」という話はとんと聞きません。もしや女性は、男性は人生において「カッコよさ」にあまり比重を置いていないと思っている節があるのではないでしょうか。私たち毎日化粧するけど男の人ってあんまり身だしなみ整えないしズボラな人多いじゃん。そんなに「カッコよさ」なんて気にしてないんじゃないの?みたいな。

 んなこたぁありません。

 男性の「カッコよさ」にかける情熱は女性が「かわいさ」にかける情熱と同等かそれ以上です。試しに女性の方は、恋人や夫が料理をしたり機械を直したりゴキブリを倒したりしたら「カッコイイ!」と褒め倒してみて下さい。ニヤけながら「そうかー?」とかほざき、きっと次の機会でもノリノリでやってくれることでしょう(言う相手がいない?えっと……すいません)。女性が「かわいい」と言われた服を多く着るように、男性は「カッコイイ」と言われたことをたくさんやる生き物なのです。

 しかし「カッコイイ生き様」に対して「かわいい生き様」という言い回しがないことからも分かるように、「かわいさ」に比べて「カッコよさ」の範囲は広いです。だから男性が日々「カッコよさ」の獲得に励んでいることが見えにくい。女性のファッションにかける努力と男性の「給食をクラスで一番早く食べ終えること」にかける努力が同種だとは普通考えないでしょう。同種なんですけどね。努力の方向性がズレているとかそういうことは置いておいて。

 では「カッコイイ」とはどういうことなのか。その問いにはこう答えましょう。本作『右カウンター赤道より』を読めば分かる、と。(前フリが長くて申し訳ありませんでした)

 確かな知識に裏付けされた真に迫るボクシングの試合、現地を実際に歩いているような感覚を覚える鮮やかなインドネシアの風景、現実にもいるのではないかと思わせる厚みのある登場人物――と、この作品の魅力は多岐に渡ります。基本的な筆力が高いので作品としてのクオリティも高く、ソツがありません。Web小説でこういった骨組みから肉づけまで終始手を抜いていない作品は珍しいと思います。

 しかし本作最大魅力はやはり「カッコイイ」こと。そこに尽きるでしょう。

 前フリで説明しましたが「カッコよさ」は範囲が広くて捉えづらく、ゆえに「カッコイイ小説」を書くのは難しいです。しかしこの作品の登場人物は見事に全員カッコイイ。女性や敵役や唐突にちょろっと出てくるだけのキャラクターもカッコイイです。洒落た台詞回しや大胆な行動、そして心の真ん中に一本通った固い芯。そういう「カッコイイ」ポイントを的確に抑えています。個人的にはソムチャイが好きですね。勢いで日本までついて来ちゃうところとか超カッコイイ。

 そういうカッコイイ登場人物たちが織り成す物語は、当然ながらカッコイイです。真っ直ぐで熱くて美しい。時おり重苦しい闇が覗くこともありますが、それもむせかえるような熱気を帯びたカッコよさに飲まれていきます。辛く苦しい出来事をカッコよさの中に包み込んでカッコよく処理して見せる。その姿勢もまた、カッコイイです。

 「ボクシングが好き」「インドネシアが好き」という人は限られていると思いますが、「カッコイイものが好き」という人は老若男女問わず無数にいるはずです。本作はそういった人たちに自信を持ってお奨め出来る小説となっております。カッコイイものが好きな方はぜひ本作を読み、確かな筆力で綴られるカッコイイ人物とカッコイイ物語にうっとりと酔いしれて下さい。

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