想定外読者にも伝わる作品の魅力と書き手の愛

 成人済ツンツン系眼鏡男子に猫耳と尻尾が生えるところからスタートするこの作品は、明らかに僕を読者として想定していません。

 というより、おそらく男性全般を対象として想定していません。主人公のエリカ・スタージョンはとても愛らしい女の子ですが、作品のキモはそこじゃないでしょう。ただ、それは別に悪いことではありません。昨今の二次元エンタメ界隈にはただひたすらに女の子がかわいい女性全般を対象していない作品なんてゴロゴロしていますし、それでヒットもしていますからね。『ごちうさ』とか『きんもざ』とか。

 で、『ごちうさ』や『きんもざ』に想定していない女性ファンがつくように、この『がらくた通りと猫の耳』にも僕みたいな男性読者がついちゃうわけですよ。

 なんか普通にサラッと読んじゃいました。さすがに「はあ……猫耳男子萌え死ぬ……つらたん……」みたいなエモーショナルな感想は抱きませんでしたけど、なかなかどうして、出来が良い。世界観とキャラクターとそれを表現する言葉や語り口のバランス――大雑把に言うと「雰囲気」がすごくいいです。想定読者じゃないけど「絶対こういうの好きな人いるだろうなー」と分かる。すいませんね、批評家的で偉そうな物言いになって。外から見るからどうしてもそうなっちゃうんですよ。ただそれは逆に言うと、外から見ても魅力が伝わるほどよく出来ているということでもあります。

 あとすごく良かったのが「書き手が自分の好きなものを書いている感」がビシビシ伝わってきたこと。これは個人的な嗜好なんですけど、僕は「好きなものを好きだと表現している人が好き」なんですね。この作品を語る例として出すにはちょっと雰囲気そぐわなくて申し訳ないんですが、とんねるずの石橋貴明がスポーツのことを語る時に目がキラキラするじゃないですか。五十過ぎたおじさんが十代の少年みたいになるじゃないですか。ああいうの、すごく好き。それと同じように作者様がこの物語を楽しみながら書いているのが読んでいて伝わり、その愛は作品の生き生きしたキャラクター描写となって現れ、物語の輝きを見事に引き上げていました。

 これ、コンテスト応募作ですし、ワンチャン書籍化あるんじゃないでしょうか。ただ惜しむらくは応募部門がSF・現代ファンタジー部門であること。キャラクター文芸でしょう。っていうか、富士見L文庫でしょう。まあそれは作品ジャンルを考えると「現代ドラマ」ではないので仕方のない話。カクヨム側の落ち度です。責任取ってKADOKAWA編集さんたちは読者選考突破したらきちんと読み込んで下さい。頼みましたよ。

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