優しい話、易しくはない話 与えられたものについて

この物語の生い立ち自体を知っていて尚感じるのは、本作が作者自身の核に、これまでになく干渉して生まれ落ちたのではないか、という予感です。

主体のパーソナリティー、その語り口、短編では用いられた事もあるけれど、これだけ長きに渡って「猫を被り続けた」のは、初めてじゃないでしょうか。
エリカ・スタージョンという主観を、あるいは形を、介してでないと、この物語世界はおそらく「リアル」に、無骨に、意図を妨げる形でハードに、立ち現れたのではないかと感じます。この世界自体は、決して優しくはない。優しさを片時も手放さずにいられる、そういう主人公を通して、初めて世界は読者に笑みを見せてくれたのかな、と。

「嗜好」も、おおいに盛ってくれたなあ、と感じます。書いててめちゃめちゃ楽しかったんじゃないかな、って。そういうの読んでて感じちゃうの、楽しいですよね。楽しかったです。
スピード感もすごい。ふわふわしているようでいて、気づくとどんどこ転がっていっちゃう。メリーゴーランドなのか、ジェットコースターなのか。

よくぞ完走してくださいました。この物語の誕生自体も、これを成し遂げた事実も、嬉しく思います。

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