レトロな風合いの、物悲しさと切なさの、怖すぎない怪異譚。
前作から引き続いて、期待を裏切らないおもしろさだった。
昭和の初めの東京で、女学生の翠が出くわした不思議は、
人恋しさの有り様を潔癖で頑固な彼女の心身に突き付ける。
10代の少女が感じる、大人の恋愛観への「気持ち悪さ」。
強気なようでいて壊れやすげな翠が瑞々しくて、いとおしい。
翠の叔父の大久保は作家で怖がりで、ときどき少し頼もしい。
彼の周りには如何わしい新聞記者や猪突猛進な編集者がいて、
彼同様に変わった人々ではあるけれども、心強くもある。
翠は彼らと共に怪異に向き合い、ひとつ、前に進んでいく。
古めかしさが好ましい独特の文体に引き込まれる。
文章自体の形としては硬いけれど、なんというか、
雰囲気がとても柔らかく、同時に気品と風格がある。
お洒落だな、と憧れる。また続編も読みます。
美しい筆致で綴られる、少女の成長物語が嫌いな人っています? いませんよね。
前作では、怪異に触れるその時を切り取り、怪異と向き合う人の過去を浮き立たせることで、人間ドラマを描いておりました。しかし今作では、短編集でなく連作にすることで、怪異と触れ、時には対決することで、成長していく少女の心を丁寧に描いております。
その根幹のコンプレックスは、心ない人にはバカにされてしまいそうな、青く、しかし切実なものです。だからこそたどり着いた「他者の存在を認める」という結論は、人為らざる存在を相手取る怪異ものとして、百点満点と言えましょう。
また、脇を固めるサブキャラも、さすがに前作のメインキャラなだけあって、アクが強い。全てのサブキャラに思い入れがあり、登場の度に心が沸き立つのは、前作からキャラを大切にしている作者様だからこそと言えます。
だからと云って、前作を読まなければ面白さが半減するわけではありません。そもそも、作者様は雰囲気の表現力が抜群にうまく、心地よい文章を書かれます。初読の方でもすらすらと読み進めることができるでしょう。
で、「つくもかさね」を読み終わったら是非「つくもがたり」を読んでいただき、「あのかっこよさげなキャラ、こんなヤベエ奴だったのか……」みたいな楽しみかたをしてもらいたいですね。
未熟ながらも真摯に生きる少女と、それを優しく時に厳しく見守るダメな大人たちの魅力が、始まりから終わりまで詰まっています。安心して人にお勧めできる、素敵なお話です。