虚言癖のあった友人アーニャが行方不明になった。
「トラックに跳ねられて異世界に転生した」とのLINEでの連絡。
嘘だと思って呆れていたが、彼女の物語は止まらない。
そこから始まる夢のようなアーニャの物語(アーニャサーガ)と、
その周りで盛り上がる現実世界の話。
アーニャの話はあまりにも設定含めて穴だらけなのに、
物語が進むにつれ、嘘だと断言できなくなっていきます。
読者であり語り部の「私」とシンクロするみたいに、
読者である私もまたアーニャの物語に吸い込まれていきました。
「私」と一緒にアーニャに呆れたりツッコんだりしつつ、気付けば彼女から目を離せなくなる。
ここまで感情移入できる語り部はなかなかいない…!
夢の世界でしか生きていられなさそうなアーニャ。
幸せだと言うけれど、羨ましいとは思えない。
彼女は何処にいったのか。
読んでぜひ確かめてみてください。
とても面白かったです。
『嘘つきアーニャの真っ赤な真実』は故米原万里氏のノンフィクション。かの名著を本歌取した今作、一体どんな物語なのと読み進めたのですが、なんとまあ、アーニャの生き生きしていることか。その嘘かもしれない、ってか嘘でしょうという薄ら寒さすら人肌が感じられる。語り手の「私」の目(というか端末)を通してるから、「私」のアーニャに向ける同世代の同性に向ける親しみと冷酷さも、ひどく生々しかったです。特にアーニャのヲチスレを覗いて溜飲を下げるくだりは、職場のお昼休みと一緒ですね★
余談かもしれませんが、今作を読み、『嘘つきアーニャの真っ赤な真実』を再読したくなりました。物語はこんな出会いと再会を与えてくれるからやめられない。
病的な虚言癖のある女の子。
不登校になった彼女を心配してLINEで様子を尋ねると、「トラックにはねられて異世界に転移した」との返信。
何そのベタな設定。
って、笑えません。
アーニャの設定は粗だらけなのに徹底していて、次第に周りを巻き込んでゆきます。
荒唐無稽と思いつつも、今のネット社会って「こう」だなぁって妙に納得してしまう。
作り上げられた虚像も、たった一晩でただのハリボテ。
煽り方ひとつで称えられも叩かれもする。
それでもブレないアーニャは凄いのかもしれない。
嘘も吐き通したらもしかして本当になってしまうんじゃないか。
もしかして本当に「ある」んじゃないか。
そんな風に思って、すうっと背筋が寒くなる。
彼女は何を思うのか。
幸せとは何なのか。
答えを出すことは難しい。
びっくりしました。すごくおもしろかった。
虚言癖のある同級生が徐々に居場所を失い、学校にこなくなって、行方をくらませてしまう。
主人公はスマホを通して同級生の荒唐無稽な異世界転生の顛末を聞くことになるのだが、あるときからアーニャはSNS上にそのつくり話を投稿しだして……。
まさかの異世界自撮り、異世界キラキラインスタ、異世界逆ハー、異世界脱処女からの異世界…… もうとにかく過剰にエスカレートしまくるアーニャの実況VS現実世界の同級生、ネット民のバトル。
とてもおもしろい話のはずなのですが、読んでいてなぜか涙が出てきました。
アーニャはクラスメイトの前でなぜ嘘をつき続けなければならなかったのか。
異世界のキラキラ投稿は果たして彼女の欲求を満たすことはできたのか。
少女たちのもろい友情は時を経てどのように変遷していったのか。
アーニャ、あなたは今どこで何をしていますか。
私の姿が見えますか?
今、幸せですか。
『ねえ聞いて。さっき電車に手を恋人つなぎした男子高校生が二人乗ってきて思わずガン見しちゃったんだけどヤンチャっぽい子が大人しそうな子にいきなりキスして私の方に向かってニヤっと笑って「興奮した?」ってありがとうございます一生の宝物にします』
こんな感じですかね、嘘松。まあ上手く表現出来ているかどうかはとにかく、こういう創作っぽい体験談がネット上で「嘘松」と呼ばれるようになってもう随分と経ちます。最近では変わった体験談をネットで語って話題になればもう100%嘘松呼ばわりする人が出てきますね。元々ネットには他人の体験談を嘘呼ばわりする文化があったと思いますが、「嘘松」という言葉のショートカットキーを得てそれが加速した感があります。世知辛い。
さて、本作主人公の友人であるアーニャは病的な嘘松です。どれぐらい嘘松かというと、そもそもアーニャなんていう名前ではないのに『嘘つきアーニャと真っ赤な真実』という本に倣ってアーニャというあだ名がついてしまうぐらい。親戚にアイドルがいるだの霊が見えるだのは序の口。イケメンユーチューバーとつきあってるだの本を出版することになっただの自分の家は有名な戦国武将を先祖にもつ旧家でそこの次期当主と婚約させられただの、次から次へと真っ赤な嘘が飛び出します。
さすがの主人公もそんなアーニャに呆れ、距離を置くようになります。そんなある日、アーニャが学校に来なくなりました。心配になった主人公はアーニャにLINEでメッセージを送り、当のアーニャからは以下のような返信が帰ってきました。
「久しぶり。実は学校に行けなくなったの。トラックにはねられて異世界転生したから」
最近のアニメにもありましたね、異世界にスマホ持っていくやつ。あのスマホは現世とのやり取りには使えないらしいですが、とにかくそういう事情でアーニャはスマホを持ったまま異世界転生し、異世界からメッセージを送っているのだと主張します。そしてアーニャは自分の異世界ライフを画像つきで主人公に報告し出し、そのうちそれをインスタグラムやツイッターで全世界に公開し始めて……というストーリーです。
普通に考えれば異世界転生なんて嘘。でも画像は次から次へと送られてくるし単なる嘘とも思えない。そしてここからが本作の面白いところなのですが、読んでいて読者も「じゃあ本当に異世界転生したんだろうな」とも思えないんですね。現実ならそういう思考になるのも分かりますが、これは小説。異世界転生は「ありえない話」ではありません。なのに信じられないんです。異世界転生する前のアーニャの「嘘松」っぷりを知っているから。
かくて読み手はアーニャの異世界通信をどう受け止めればいいか分からなくなる。しかし渦中のアーニャはマイペースに自由気ままな異世界ライフを送り続ける。結果、読み手は作中人物と同様にアーニャを中心として発生する渦に巻き込まれることになります。その作品世界と一体化して翻弄されている読み心地が実に面白く、この物語はどこに着地するのだろうとページスクロールを進めさせます。
作者様の仰るようにカクヨム運営の求める『日帰りファンタジー』とは違う気もしますが、現実世界と異世界が混ざり合って境界性が曖昧になる感覚を楽しむという点で、本作より優れた作品はそうないでしょう。嘘松アーニャは果たして本当に「嘘松」なのか。それは皆様の目と心で、是非お確かめください。
異世界転生。
おそらく、誰もが一度は憧れ……とまではいかなくても、妄想するストーリー。
これは、とある「嘘松」少女が、異世界に迷い込む(?)お話です。
この物語の最大の魅力はリアリティであると思います。
冒頭の少女が「アーニャ」というあだ名で呼ばれるようになる理由や中盤のSNSの炎上や書籍化にまつわる出来事は異様なほどに真実味があり、(ある意味で皮肉にも)この「アーニャ」という少女が、本当にこの現実に存在しているのではないかと思わせます。
それでいて、異世界転生というファンタジーの出来事を、どこまでが真実で、どこからがアーニャの嘘なのか。それを深く考えさせる構成になっているのが上手い。この絶妙な書き味のバランスには驚かされるばかりです。
語り手である少女のアーニャに対する感情も非常に共感できます。こんな友達が居たら、こんな態度になるだろうなということを容易に想像させます。
物語にとって、それが真実であるか、嘘であるか、それは二の次でしょう。フィクションであろうと面白ければ良し、ノンフィクションであろうと面白くなければ人は振り向きません。
その意味で、このアーニャという少女は、最良かはともかく最高の語り手であったと言えるのではないかと思いました。