絶対に叶わないのに、どうしても止まらない恋心

 LGBT(本作はT)少年×ヘテロ少女という構図が自作と似ていて気になって読み始めた作品。これが、類似構図の作品を持つ身として嫉妬を覚えるほどに大当たりでした。

 本作の主人公はおぼろくんという同じクラスの男の子が好きな女子高生、小春ちゃん。その小春ちゃんが街で女装をして歩いているおぼろくんを偶然発見し、女装のあまりの出来の悪さに反射的に美容師をやっている兄のところへ連れて行ってしまうところから物語は始まります。
 まずこの始まりがいいです。好きな男子の女装を発見して最初に思うことが「女装酷すぎワロエナイ」。新しいながらも荒唐無稽ではなく、妙なリアリティがあります。

 さて、やがて小春ちゃんはおぼろくんの心が女の子であることを知るのですが、それで小春ちゃんの恋心がどう変わるかというと、なんと変わりません。「おぼろくんは心が女の子」「自分はおぼろくんのことが好き」。この二つをしっかり認識&肯定しておぼろくんと親密になっていきます。
 おぼろくんはおぼろくんで例えば小春ちゃんの前では女言葉になったりとか、そういう分かりやすい変化を見せたりはしません。くっきりした線を引いてくれない。
 だから、プラスのドライバーがマイナスのネジにはまらないように大本が致命的にかみ合っていないにも関わらず、小春ちゃんの恋は止まることなく進んでいってしまいます。

 そう、本作はおぼろくんの苦悩の物語ではなく、小春ちゃんの恋の物語なのです。だからLGBTとかゲイとかホモとかレズとかバイとかオカマとかオネエとかトランスジェンダーとか性同一性障害とかその手の人間を外から型にはめる単語はほとんど出てきません。小春ちゃんは社会を通してではなく、あくまで人として、「好きな男の子」としておぼろくんと向き合います。
 結果としておぼろくんの悩みも社会問題ではなく個人の苦しみとして浮き彫りにされる。それは大仰な問題として捉えられるよりも遥かに重く、ずしりと心に圧しかかります。

 この奇抜な恋物語を描き、読ませるのが卓越した表現力。これが実に巧い!カメラの動かし方、言葉の選び方、比喩のセンス、全てが素晴らしい。物語の起伏に頼らずに作品を読ませる力がズバ抜けています。「プロかな?」と思ってPNググりました。本当に。

 心も身体も女の子な女の子から、心だけが女の子な男の子への恋心。叶う道理のない想いは、どういう道を辿り、どこに行き着くのか。その行く末を是非、皆様の目でお確かめ下さい。

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