彼に恋した、彼女の精いっぱい。

主人公の初恋の相手は、隣の席の彼。
ある日、主人公は街中で意中の彼の秘密を知ってしまって――?

……という、ともすれば王道な設定だけからすると、始まるのは甘酸っぱくキュートな、ドッキドキの恋物語のようにも思えます。
だけどそれ「だけ」で終わった話なら、自分はこうしてレビューを残していないだろうと思います。

主人公である小春ちゃんは、素直に喜び、素直に怒り、素直に悲しみ、そして素直に恋をしています。おぼろくんが大好き。彼女の根底にあるのは常にその気持ちです。そんな真っ直ぐな気持ちは読者に真っ直ぐに届き、小春ちゃんのもだもだする胸中がよく分かります。親身になって、頑張れ、と応援したくなります。
しかし、物語内の他の登場人物――おぼろくんにも小春ちゃんのその気持ちが伝わっているかといえば、違います。
それは、おぼろくんはおぼろくんの人生を生きているから。彼には彼の事情があり、気持ちがあるから。そんな当たり前のことが、ひりりと痛く感じられます。

じわじわと距離が縮まっていき、お互いの気持ちがぶつかり合った先、踏み出された結末。
それを最後まで見届けた時に感じるのは、甘酸っぱくてキュートな、ドッキドキの恋物語を読んだ後のものとは、恐らく違うものでしょう。しかしそこには、満足感があるはずです。
ぜひ多くの方に、その味を噛みしめていただきたいと思います。

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