概要
そんな志維菜がアパートの隣の部屋の扉をキャミソール一枚で叩いている女性と出会い、ひょんなことから同居することになる。
世間のアウトサイドで夢を追う二人のお話です。
おすすめレビュー
新着おすすめレビュー
- ★★★ Excellent!!!夢を追う者たちのけっして生易しくはない青春
役者を目指す者と絵描きを目指す者が思わぬきっかけで同居することになるところから始まる、決して生易しくはない青春の一ページ。
自分の内面すべてをむき出しで吐き出す主人公の一人称には凄まじい気迫があり、最初から最後まで緩むことなく疾走する。そこには厭世や嫉妬や苛立ちや後悔や、とにかく人間としてのあらゆるドロドロとした感情が渦巻いている。
にもかかわらず、主人公は何度つまづいてもその都度立ち上がり、必死で前を向こうとする。そのつねに奥歯をかみしめているような姿にはヒリヒリするものを感じる。
彼女は自分に厳しく非常にストイックである。が、同時に自分しか見えていない。他人とのつながりを拒むようなその頑…続きを読む - ★★★ Excellent!!!ただのシンデレラストーリーではない!夢と現実の狭間で葛藤する人の物語。
一行目。読んだ瞬間から、確信しました。
あ、堕ちたなと。もうこの世界に入ってしばらく戻って来られないなと。
実際そうでした。一気に読んでしまいましたが、読み終わるのがとても嫌でした。まだ読んでいたい、ずっとこの物語を見ていたい。けれど、読み切りたい。二つの感情の間で揺られながら、読了したのが昨日です。
絶対レビューを書こうと決めましたが、何しろ未だに興奮が冷めないので、文章が支離滅裂かもしれません。ご了承下さい。
役者になることが夢の志維菜と、絵描きになることが夢の詩恵奈の二人が、ひょんなことから出会い、同居することになります。
この「ひょんなこと」というのがまたインパクトがあるのです…続きを読む - ★★★ Excellent!!!涼しい顔では生きられない若者を描く、笑えて刺さる青春小説
日本では古来より遊行する人々、定住せずに一芸によって旅暮らしをする人々があり、支配の難しさから白眼視されてきました。
本作の舞台は現代、遊行する人々は現れず、代わって進学、就職という現代的定住から外れ、役者、画家という特殊技能で生きようとする若者の姿が主題となります。
しかし、彼らを見る現代的定住民の眼は厳しく、さらに、その目線は知らぬ間に彼ら自身にも内包されており、生きたい道と冷たい目線の乖離に悩み、傷つき、どうやって乗り越えていくかを試行錯誤する日々、険しい道は当然のように涼しい顔でやり過ごすことなどできず、怒って憂えて泣いて笑う、感情の噴火を繰り返しながら、自分と置かれた環境、仲間…続きを読む - ★★★ Excellent!!!感情の首根っこを掴んでぐわんぐわん揺すぶられる小説。
役者を目指し、全精力を傾けて努力しているが、オーディション連敗中の志維菜。
アパート隣室のドアをキャミソール一枚で叩いていた詩恵奈と、ひょんなことから同居することに。
文章に勢いがあって、いろいろ笑えるんですけれど、胸にグサグサ刺さるというか。
安定した職に就かずに夢を追うことに冷たい世間に対し攻撃的で、返す刀で成果の出ない自身をも傷つける志維菜の心の叫びに、「お前は、自分の夢に対して真摯か?」と問い返される気がするんですね。
周囲に「三度の飯より○○が好き」みたいな、他に趣味もなくその道に邁進する人がいるので、その人に比べると自分は努力していないなぁ、という引け目。
世の中の全ての人間が…続きを読む - ★★★ Excellent!!!そんなふうにしか生きられない。だから、夢を追い続けて足掻くんだ。
読者は志維菜をまぶしいと感じるだろうか。
それとも、志維菜に強く共感するだろうか。
羨ましさの余り、目を背けたくなるだろうか。
あるいは、理解し得ない変人だと笑うだろうか。
志維菜は役者だ。
劇団や事務所に所属してはいないし、実績もない。
オーディションを受けては落ち、また挑戦する。
バイトで食い繋ぎながら、役者として足掻いている。
人付き合いが不器用で、心を閉ざしがちの志維菜は、
演技をするときだけは狭苦しい日常の殻から逃れ、
生きたいとおりの自分として生きることができる。
そうであると信じて、自分をきつく縛り付けている。
縛り付けているように、私には見えた。
こうしなければならない…続きを読む - ★★★ Excellent!!!「努力は必ず報われる」という呪いを越えて
努力は必ず報われる、という思想があります。
希望に満ちた前向きな思想です。しかし見方によってはこれほど残酷な思想もありません。だってこの思想は、裏を返せば「報われていない人は努力していない」ということです。「努力しているけれど報われていない」人がこの思想と向き合えば、否定すれば未来の努力を、肯定すれば現在の努力を乏しめてしまうジレンマを抱えることになります。
本作『さようなら屋根のあるお家』の主人公、志維菜は役者志望であり、まさにその「努力しているけれど報われていない」人です。彼女はそんな現実にフラストレーションを溜め、同じ夢に向かって歩む同志を妬んだり、妬んでしまう自分に自己嫌…続きを読む - ★★★ Excellent!!!不屈の志維菜さん
夢を追いかける若者のお話なのですが、この物語の主人公、志維菜さんのひたむきさを知ってしまったら一気にもう、目が離せなくなりました。
この吸引力はきっと、志維菜さんという人物にただならぬ真実味があるからだと思うのです。
更新されるのを待っている間も、きっと今も志維菜さんは夢を追いかけている真っ最中なんだろうなぁと、当然のように考えている自分がいました。
物語自体にも、フィクションだということを忘れてしまうような臨場感と現実味があって、夢を追う若者に密着したドキュメンタリー映画を見ている気分でした。
だからこそ役者を志す志維菜さんを本気で応援したし、志維奈さんが演じている姿を本当にこの目で観て…続きを読む - ★★ Very Good!!線と線の交わった軌跡
志維菜と詩恵奈。ふたりの女性がふとした出来事(ほとんど事故)からひとつ屋根の下で暮らすことになる。ひとりは舞台上で、もうひとりはキャンパスの上で自分を表現する術を探している。まだ若く、暮らしも安定しない、心細いふたりが寄り添うようになのは必然だったかもしれない。
それでも、そんな暮らしが永くは続かないのはふたりともわかっていた。
性格も、性質も、似ているようで全く違う。ぶつかり合うのは避けられない。
ギリギリのバランスで、向き合いながら、目を背けながら、ふたりは自分の夢と、現実にそれぞれ立ち向かっていく。
特に私が推したいのは二章の各話のタイトルセンス。
どうにも読まされる勢いがあるので…続きを読む