学校を始めとする集団の中には見えないルールのようなものがあって、それを守っている限りは安泰だ。内心では馬鹿馬鹿しいと思っていても、適当に笑って周りに合わせておけば居場所は確保される。しかし、そうやって自分を偽りながらへつらって生きていくことが本当に正しい生き方なのだろうか?
この小説では他人の目など一切気に留めない有瀬と、周りに適当に合わせながら居場所を作っている芹目を中心に、誰もがどこかで経験したであろう息苦しい教室のあれこれが語られていきます。簡潔だけど力強い言葉で語られていて引き込まれました。終盤の物語が動くところではその迫力に恐怖さえ感じました。
余談ですが、物語中に出てくる戯曲「人間嫌い」からのオマージュかな?と思われる描写がみられます(「人間嫌い」は未読なのでただの予測です)。有瀬=アルセスト、芹目=セリメーヌなんかの対応関係もありそうです。「人間嫌い」を知っている人が読んだらさらに楽しめるかもしれません。
的外れを承知で書きますが、私はこの作品を読んで、物語の向こう側に感じる熱に強く胸を打たれました。
(物語については、他の皆様が深くて素晴らしいレビューを寄せていらっしゃるので、ぜひそちらをご覧ください!)
想像だけでは書けないであろうじっとりとしたリアリティがあって、作者様の学生時代に想いを馳せずにはいられませんでした。
学校という閉塞的な世界で溜め込んだ心の澱を、文学というメッセージ性の強い芸術に昇華させる。それって最強にカッコイイ!!
……と勝手に想像して、その技量と気迫に身も心も痺れました。
勝手な想像はさておき、文字から、行間から、並々ならぬ熱量を感じたのは紛れもない事実です。
こういう文章に出会うと心が震えます。そして、書かれた作者様自身のことを考えずにはいられなくなるのです。
変な読み方と妙なレビューで恐縮です。
変で妙だと自覚しながらもレビューを残したくなるほど、強く胸を打たれた作品でした。
彼には居場所があった。
取り立てて大事な場所ではなかった。
周りを固める連中は、むしろ気持ち悪かった。
けれども、居場所には違いなかった。
彼女はいつも一人だった。
居場所と呼べるのは、小汚ない机だけだった。
読みふける本には『人間嫌い』というタイトルが付けられていた。
彼は、彼女の姿が目に入るたび、舌打ちしたい気分になった。
どこにでもありそうな教室の風景。
ありふれた居場所に対する違和感。
なぜ俺は手を叩いて笑うのだろう?
いつまで手を叩いていればいいのだろう?
小さなきっかけが重なって、やがて訪れる崩壊。
そうなる前に止まれよ。誰か止めてやれよ。
願ったって取り返しのつかない、きっとありふれた出来事。
アイロニーとリアリティに、ぞくりとする。
まず初めに、僕はレビューを貰ったからレビューを返すというタイプの人間ではないことを断っておきます。レビューから本作品を見つけ、興味深い作品だと思ったので、レビューさせて頂きます。
前々から、いわゆる「悪人」はどうして自分を客観視出来ないのだろうと疑問に思っていました。女子高生をリンチして殺してコンクリート詰めにして棄てた男たちに『北斗の拳』を読ませ、一番好きなキャラクターを聞いたとして「俺は罪のない一般人を虐殺して回るモヒカンが一番好きだな」と言うとは思えない。彼らだってケンシロウやトキやラオウが好きなはずだ。でもやっていることはモヒカン。その矛盾はどうして起こるのだろうと考えていました。(『北斗の拳』が分からなかったらごめんなさい)
その答えを、自分を客観視することで自分の醜さに気づいてしまい、フラストレーションを爆発させた主人公に見た気がします。
仮に自らを客観視し、自らの醜さに気づけたとしても、それは即ち過去の自分の否定に繋がる。今まで積み重ねてきた己を唾棄すべきものと認めることになる。それがイヤだから目を瞑らざるを得ない。昔の俺はおかしかったんだ、本当の俺はこんな醜い奴らとは違うんだと神に主張するように暴走する主人公を見て、そういうことなのかなと何となく感じました。
ギャルも薄々、自分を鏡で見たらどう映るか勘付いていたのかもしれない。だけどそれを認めるわけにはいかないから、己の醜さを肯定し続けていたのかもしれない。
深読みしすぎかもしれませんが、そう考えると少し切なくなります。
周りに迎合して、うまく処世する男子。
周りに辟易して、独りを貫く女子。
アイデンティティの確立とモラトリアムという、思春期らしい葛藤がありありと記されていて、圧倒されました。
(以下、内容に触れています。未読の方はご注意下さい)
孤独な女子は、辛辣ないじめにも遭いますが、そんな彼女を見かねて決起する男子の姿は必見です。
ブチ切れた彼が、いじめの主犯たるギャル子をめったうちに叩きのめし、暴力の限りを尽くします。
感情の爆発と達成感、一抹の後ろめたさ、カタルシスとカタストロフ、英雄視と白眼視、あらゆるものが対比されつつも一気に押し寄せる山場です。
いじめネタなんて掃いて捨てるほどありますが、見せ方が頭一つ抜けていると思いました。