涼しい顔では生きられない若者を描く、笑えて刺さる青春小説

日本では古来より遊行する人々、定住せずに一芸によって旅暮らしをする人々があり、支配の難しさから白眼視されてきました。

本作の舞台は現代、遊行する人々は現れず、代わって進学、就職という現代的定住から外れ、役者、画家という特殊技能で生きようとする若者の姿が主題となります。

しかし、彼らを見る現代的定住民の眼は厳しく、さらに、その目線は知らぬ間に彼ら自身にも内包されており、生きたい道と冷たい目線の乖離に悩み、傷つき、どうやって乗り越えていくかを試行錯誤する日々、険しい道は当然のように涼しい顔でやり過ごすことなどできず、怒って憂えて泣いて笑う、感情の噴火を繰り返しながら、自分と置かれた環境、仲間たちを、同じものであっても新しく見出していくことになります。

老獪な知恵を欠くだけに心身でぶつかるよりない若者の姿はいっそ爽快で、明かされる内心はこっ恥ずかしいくらいに真っ直ぐです。

文章は重苦しさに沈みこまんと笑わすところはきっちり笑かしに来よります。読後感も爽やかやし、こら青春小説ですわ。

何かを生み出すのはなかなかの苦行を伴うもの、本サイトで自作に頭を捻って疲れ果てた時、本作の真っ直ぐな人々に触れて文章を書きはじめたころの初心に帰るのも、エネルギーチャージになりそうですね。

最後に、江戸時代にヒラキと呼ばれる屋台で講談を語った乞胸(ごうむね)も非人として扱われており、物語を語る人々も遊行する人々に含まれていたことを申し添えておきます。

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