脳裏に絵を描くのに十分な高密度文体で紡がれる、和風異世界の物語ですよ。特筆すべきはやはり文章、ラノベより硬いけど重くない、絶妙です。
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まだ三章を読み終えた段階なので評価とかそういう話ではないですが、オススメすべくレビューをば。
本作はきわめてクローズドな世界設定がなされており、主人公の仕える姫さまが暮らす山峡国(やまかいのくに)は山間の小国、その東南には海に面した美浜国(みはまのくに)という大国があります。
作中にも言及されますが、鍋底と悪口を言われる山峡国のまわりは山ばかり、ただ東南だけが開いて美浜国と接している。
もうこれだけで、なんか詰んだ感じアリアリですが、それを何とかするのが英雄譚ですよねー。
現在のところ、世界観はこの二ヶ国に留められるんじゃないかな、と観ています。分かりませんけど。推測ね。
むろん、物語の進展によっては美浜国の先にある国々も現れるかも知れませんけど、世界観を限定する代わりに物語の密度を限りなく高めようとされているように見受けるのです。
それだけに描写は緻密、山峡国の人々は見てきたようにキッチリ作り込まれています。
まだ美浜の人々は現れませんが、この密度の維持のためには世界観はクローズドの方がいい。世界観を無尽蔵に広げて失敗するのは初心者がやりがちなミスですが、作者は意識的に世界観を制御して散漫にならないよう配慮されている。
これ、大事なことです。
このあたりの世界観の使い方は、物語を書いてみたいと思われる方には非常に参考になると思います。
さらに、山峡国と美浜国という名前からして、古事記にある海幸彦と山幸彦の説話を連想してしまいます。あの物語では、山幸彦は海神の一族と結んで海幸彦を従えました。
さて、本作における山幸彦こと山峡国は、海幸彦こと美浜国とどのような物語を繰り広げるのか、楽しみに読み進めていきたいと思います。
時代小説や歴史小説好きな方は是非ご一緒下さい。期待大です。