一番大切なものは、縁

インドネシア、ジャカルタ。
穏やかで、明るく、いい加減な分前向きな人たちに囲まれて、夢の残り香の中でくすぶる1人の日本人。
ひっそりと佇むボクシングジムで彼の持つグラブに拳を打ち込むのは、およそボクシングに向いていない性格の、歳を取りすぎたぐうたらインドネシア人ボクサー。
ジムに届いた一通の試合申込みから始まるこの物語では、形は違えどそれぞれの想いを抱えボクシングに情熱を燃やす男たちと、それを支える魅力的なキャラたちによる、胸の熱くなる人間ドラマが繰り広げられます。
ボクシングというストイックな競技に身を投じ、複雑な地域情勢に翻弄されつつも、不思議と優しい空気が作品全体を覆っているのは、インドネシアという国の持つ雰囲気・・・大らかで包容力のある雰囲気が作品に見事に取り込まれているからではないでしょうか。
豊富な知識と巧みな展開が込められた本格的な異国ドラマでありながら、格闘競技モノとしても読み応え抜群!
格闘競技モノで熱い展開を書こうとするとどうしてもスポーツ道徳に反した公開拷問と化しがちですが、この作品はTKOの基準や医学的な観点をきちんと考慮し、ケガの度合いなどもギリギリの調整がなされているように感じました。
その上で繰り広げられる高度な駆け引きはそれ自体が作品のテーマの投影であり、魂を揺さぶる力が込められています。
人は1人では生きていけない。自分では気付かなくても、多くの人の縁が力を与えてくれている・・・そのことを最も効果的に表現できるうってつけの舞台が、この赤道直下の国なのかもしれません。

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