時系列的には『よくある兄妹〜』の後日譚に当たるため、続編あるいはスピンオフとして湯島兄妹やその他常連メンバーの成長ぶりやお馴染みな感じを楽しみつつ読み進めることも出来ますし、もちろんこちら単体だけでもミステリの醍醐味を堪能することは出来るのですが、自分としては前作との〈相違〉の部分がとても興味深く、ミステリの新境地に切り込んで行くような気迫を感じました。
前作の特徴であった解決の提示方法を本作では意図的に変更し、語り手も新キャラが担当しているほか、バトルものを彷彿させる格闘シーンを登場させるなど、更なる野心作となっているにもかかわらず、コンテストの主眼でもある働く人々の詳細や職業間の軋轢が丁寧に描かれ、何より良質なエンターテインメントとして仕上がっているのが素晴らしいのです。特にブラコンの描写は一層拍車がかかっておりまして、最早芸術の域に達しているといっても過言ではないでしょう。
こちらは完結しておりますが、『よくある兄妹〜』のほうは今も更新が続いており、新しいエピソードも公開されています。
そこに事件がある限り、そしていかなる障碍や困難をも既知のものとして乗り越えんとする「あるある、よくある」の決め台詞がある限り、湯島兄妹は何度でも現れるでしょう。時空を超え、物語の枠を超えて……!
ピアニッシモからフォルテッシモへ。
徐々にストーリーが盛り上がっていく、まるで、交響曲のような作品です。
作品の底に流れ続けるのはユングの世界。
恋慕や憎悪などの感情が様々な事件を呼び起こし、義足の主人公が分析的な心理学に基づきながら、人の心を解明していきます。
ドロドロした事件も、不思議なことに、心理学の力にかかれば、ある種の「清潔さ」を帯びてきます。
これは、非常に新鮮な味わいです。
一方で、徐々に深まっていくミステリーは、一気に読み切らせるほどの魅力に満ちています。
複雑に仕組まれたトリックに潜む、人間の真実。
リアリティに引きつけられます。
ここは世の中の駆け込み寺。
社会の表舞台に出ることをためらった魂が入り込む、もう1つの舞台が読者の心を捉えて離しません。
カクヨムミステリー屈指の人気作『よくある兄妹-ふたご-の思考実験-thought experiment-』の姉妹作品です。(『よくある双子~』を読んでいなくても楽しめると思います)
読んでいるだけでビジュアルが浮かんでくるような個性的で、よく練られたキャラたち。双子の姉妹や沁はもちろん、犯人や被害者、周りの登場人物まで皆キャラがたっていて面白いです。特にノッポとヒラメがキャラがたっていて好きです。心理学やスクールカウンセラー、大学内の権力争い。沢山のことを調べたと思うのですが、全く説明くさくなく上手くそれを生かして作品の中に溶け込ませているのが凄い。サクサク気軽に楽しんで読め、謎解きがあり各話の読後感もよい、エンタメ作品として完成度の高い作品。是非ドラマ化してほしい!これを機にもう一度『よくある双子~』も読み返してみようかな。
第1幕読了。
まぁ大きくなっても大して変わってないですねw本作は『よくある兄妹の思考実験』のスピンオフ作品の続編という扱いになるのかな? とはいえ前作を見ていなくても入れる内容となっているので読みやすいミステリーとなってます。もちろん『よくある兄妹の思考実験』も見ているといいでしょう。
個人的にはあの時より何年か先の未来のお話なので、織田さんのこの作品と拙作をコラボさせていただいたこともあり、自分の「あのキャラ」がどうなってるのか? 少し思いを馳せながら楽しませていただきました。
・・・いや、本当にどうなったんでしょうねぇ(にっこり
本作を拝読して私が何より驚いたのは、
「事件が次々と解決されていく!!??」
ということ。
え?私が何を言っているのか分からない?当然の事だろって?
でしたら、本作の作者様がミステリーの新しい形に挑戦なさったスピンオフ元の作品『よくある兄妹の思考実験』をお読みになることをお勧めします。
当時高校生だった“妹”は、今はみんなのオアシス保健室の養護教諭。
落ち着きが出てきちんと生徒の心の拠り所になっているなぁと感心したのも束の間で、やはり暴走がちな性格は健在。
その溺愛対象の“兄”も、明晰な頭脳と論理を巧みに操る弁舌、そして何よりあのクセになる口グセ「あるある」は健在で、およそスクールカウンセラーらしからぬ大胆な押し引きで相談者を幻惑しつつ「心に抱えた謎の真相究明」という独特の手法で業務を遂行していきます。
主格主人公を務める新キャラはこの兄妹の務める学校に生徒として通う“彼”。
事件に関わる者たちは何らかの「心的複合」を象徴する存在として大胆にデフォルメされており、進行のテンポの良さは前作同様。スルスルと読み進められます。
カウンセリングの職務の詳細や競合職種など、しっかりした調査に基づいて舞台環境に特有の事象を取り上げることで強く読者の興味を引く手腕も見事です。
スピンオフ元で多用される「普遍的無意識トリック・共時性トリック」が封印され、終盤において爽快なアクション要素も取り入れた本作は、よりエンターテイメント性の高まった万人におススメできる作品です。
『よくある兄妹-ふたご-の思考実験-thought experiment-』は読んでいませんが、「本作単体でお楽しみいただけます。」と書いてあったので読んでみました。
泪先生は個性的なのと、主人公が好意的な目でみているのすぐに溶けこみました。
涙先生のことは、主人公もよく知らない人物だったので、一緒に観察をしているような感じで、本当に前作を知らなくても楽しめます。
物語の流れも起承転結にまとめられ、とても読みやすかったのですが涙先生の義足が気になりました。
でも、物語は進んでいき、こういう設定なのかと思ていたら、第四幕でまた義足の話が!
気になった所だったので、これには「おぉ」と嬉しくなりました。
第一幕から第四幕までそれぞれの話がありますが、全体的にみると主人公の心が起承転結にまとめてあり、終幕への流れが見事でした。
ミステリーは敷居が高いと思っていましたが、この物語は初心者にとてもやさしい。
だが、「きっとこうなる」と予想させておいて、ひっくり返されることが必ず起こります。
ぜひ読んで確かめてください。
既に書かれているレビュー見てたら前作の『よくある兄妹の思考実験』を読んでらっしゃる人が多いので、前作読まな楽しめへんのとちゃうん?と思ってしまわれる方も割といるんじゃないかと思います。
大丈夫です。
その辺りは全く問題なかったです。
というのも、私もブラコンの双子がいるくらいの前知識しか持っていなかったのですが、読んでみると双子の絡みはともかくとして、主人公の沁君目線でストーリーを楽しめます。
沁君目線の涙先生はなんか掴めないけど凄い人!みたいな感じで、涙先生が推理するのをついつい沁君と一緒に見守ってしまいます。
ちなみに、ミステリーというと私は身構えて読んじゃうタイプなんですが、この作品は沁君の憧れの泪先生とのゆるーいやりとりか始まるので、序盤で油断させられます。
そして気が付いたら涙先生による推理ものへと話が深化していくので、織田マジック凄いですね。
こんなん最後まで読まないと気が済まないじゃないですか。
トリックも複雑であるものの比較的分かりやすいのかなという印象なので、あまり難しいことを考えずにするする一気に読めてしまいます。
何だろうこの技巧……とにかく鮮やかです。
ミステリーあまり読まない人も前作知らない人も楽しめる作品だと思うので、是非お試し下さい。
本作はよくある兄妹の思考実験の続編とも言える作品です。前作の主人公である兄の涙と妹の泪が高校のスクールカウンセラーや保健室の先生となった数年後が舞台です。
今回はゲスト的立ち位置でありながらもしっかりとその存在感を放つ湯島兄妹。うん、全然丸くなってない。むしろ悪化してます。(褒言葉) 外見上は素敵な大人になった二人ですが、兄は相変わらず思考実験好きで、妹はお兄ちゃん一筋。
やや変わった点と言えば思考実験そのものが事件の真相を解き明かし、直接的解決に結びつけているといった点でしょうか。
登場人物の喜劇的配役と演出が死人が出ているのに軽い調子でさらりと事件が閉幕する辺り、物語としての読みやすさに重点を置いていそうです。基礎的な心理学を用いてキャラの動機などに繋げている形式で事件の真相こそ人間の深層にあるものとし、心理学でそれらが全て分かってしまうという事を前提に構築されたミステリーです。
カウンセラー的立ち位置から言うと、本来なら心理学とはその人を深く知る為の足掛かりとして存在し、対話の中で患者と向き合って行くのが基本となり、初見の患者相手に思考や趣向、性格がぴたりと一致したり、心理学用語ペラペラと並べ立てたりする精神科医は居ないと思われる辺り、この兄、妹の特殊性が伺えます。
うん、というか総じてこの物語の登場人物はコミカルさを優先させた結果、変態しかいねぇ!と叫びたくなる事必須。私が読了した時点で(五万文字)主人公役の沁が作中唯一のオアシスと感じるほどに。一つ一つの事件をコンパクトに纏めた読みやすさはミステリー作品群の中でも群を抜いているものと思われます。この機会に本家の「よくある兄妹の思考実験」を読まれては如何でしょうか。こちらは事件の多様性の悍ましさをより考えさせられる作品となっております。(私もまだ全て読破した訳では無いですが)
パンツ要素は減りましたが、その分、今回はお兄ちゃんのイケメソ要素が強化されております。沁は彼らとの出会いを経て何を得るのか、私、気になります!
高校生に悩みはつきもの。大きかったり小さかったりするけれど、恋だったり家族だったり、毎日何かしら悩んでいる。
そんな疲れた心を癒してくれるのは、可憐な保健室の先生と知性派スクールカウンセラー!
――舞台はとある進学校。とある生徒が、保健室の泪先生に惹かれたところから、物語は始まります。
語り口はライトでポップ。するすると読み進められるのでは。
悩みの真相は、ちょっとヘビーで血みどろだったりするけどね! 人間ってコワイワーと思っちゃうけどね!
一癖も二癖もある登場人物たちが繰り広げる心理戦がこの物語の醍醐味。
織田様が書かれている別作品の外伝ですが、舞台と時間が異なりますので、単体で十分楽しめますよ。
スクールカウンセラーという馴染みが薄い職業について知ることができる機会でもあります。
本編ご存じなくても、是非、読んでみてくださいませ。
それで、湯島兄妹とアンチミステリの魅力に心惹かれたのら。ライトでポップで変態的な本編をご覧になってきてくださいませ。
一緒に、涙お兄ちゃんの魅力について語り合おうではないですか!!
心に強いストレスを抱えて保健室通いしている高校生、沁(しみる)。
沁の目的は別のところ、保険医に会うことだった――――。
前作『よくある兄妹-ふたご-の思考実験-thought experiment-》の湯島兄妹も成人し、それぞれ別の道に。
と、思いきや全く変わっていない距離感。
兄の涙は沁のカウンセリングをしつつも、話は全く別の方向に。
心理学の元型(アーキタイプ)を引き合いに出しつつ、解説していく部分は読者にも読みやすく、かつラブコメテイストも満載。
ミステリのジャンルなど造詣に詳しい作者さんが放つ最新作。
次に展開される心理実験はどんなものになるのか、楽しみです。
(沁クンは語り部としてレギュラー入りするのかしら……(-_-).。o○0〇
言葉の上で提示される事実の中。
さりげなく差し込まれる伏線は、実は複線でもあり、ともすればミスリードを促されそうになりながらも、物語の結末へと導いてくれる。
事件の影に沈む心に光を灯すのは、よくあるスクールカウンセラー。
発端である歪な三角関係も、それぞれのベクトルが重なりあうだけで、決してイコールで結ばれた相互理解ではなかった。
好意とは、己の理想を相手に投影するだけの行為なのか?
だとしたら、この世界の理解とは、そして真実とは、遠く手の届かない、何と儚いものであるのだろう。
否。
この物語は引っ繰り返してくれる。
ボク達の積み重ねた年月だけの理解だから辿り着くことが出来る、ボクだからこそ解き明かせるのだと。
その真実は、切なく、哀しく、沁みわたる。
しかし、光失われようとも、若者は暗闇を前にしても顔を上げる。『心って、複雑だな』――そのひと言と共に。
表面だけをなぞれば、キャラクター性の光るシンプルで安定したミステリー作品でしょう。
読むだけなら、それでいい。
しかし、私も素人ながら物書きの端くれ。
この作品の構造を訴えたい。
巨匠が何度も塗り重ねた油絵も目にすれば一瞬。
三ツ星のパティシエが腕を振るった洋菓子も口にすれば一瞬。
我々書き手が苦心の末の作品も、レトリックの一瞬。
レリックなトリックを重ね、心と言葉を砕いて工夫を重ね重ねて、幾層にも織り込まれた構造上の完成度を、果たして目にしたどれだけの方が理解出来るのか、と。
言わせてもらえば、これでさえ、誤解の産物かもしれないのである。
だからこそ、これぞミステリーと締めくくらせて頂きたい。
保健室の先生が美女というのは、もはやライトノベルにおいての常識であり、逸脱の許されないテンプレであります。よって外伝作品で、あの湯島泪を保健室の先生にしたのはある意味必然なのかな、と。
さて、ミステリーとしての出来ですが、資料にしっかりと目を通した形跡も散見されていまして、作り込んできたなという印象。著者様自らが太鼓判を押しているだけあって、グッジョブです。
ミステリーというジャンルということもあり、あまり詳しいことは書けないのですが、知識欲も程よく満たしてくれて読み応えのある内容となっております。
湯島兄妹のファンはもちろんのこと、骨太なキャラミスを御所望な方にもおすすめな本作。皆さまも本作を読んで、有意義な時間を過ごしてみませんか(⌒∇⌒)