王道と異色の隙間を縫うように、ボックス!

うだつの上がらない挫折したロートルが、一念発起して若き王者に挑む。
これは酷く使い古されたテーマの物語であり、似たようなあらすじの物語を探そうと思えばいくらでも見つけることができるだろう。
しかしそれは、このストーリーに王道の面白さがあるということだ。
王道を陳腐だと思わせないだけの確かな文章力と構成力は、右手にするするとページを進めさせる。

そしてそんな王道のストーリーにスパイスを加えるのが、インドネシアというあまり馴染みのない舞台。
正直自分はインドネシアについて「東南アジアの国だよね?バリ島とかがあるんだっけ」程度のことしか知らないし、恐らく大抵の日本人はそんなものだろう。
この物語はそのインドネシアという“よく知らない国”を、嫌味なく描いて舞台にしている。
これはインドネシア人ボクサーのロニーと、日本人ボクサーのアキラの物語だ。そして彼らの周囲には、様々な経歴や性格の人物が多様に集まってくる。
ひとりひとりのキャラクターの振る舞いから人生が見えてくるような感覚は、もちろん作者の実力によるものだろう。同時に、この色々な人がいる国がインドネシアか……と、読みながら知らない国に想いを馳せた。

なによりやはり、ロニーというキャラクターが素晴らしい。
太陽のように優しいこのインドネシア人ボクサーのことを、自分はすっかり好きになってしまった。
もしも本当に彼の試合があればきっと応援に行くだろう。
近くに住んでいれば友達になりたい。
そう思わせる、素晴らしいキャラクターだった。
もちろん、そのかけがえのない友達である、ぶっきらぼうで優しいアキラにも同じことを思う。

王道のストーリーと、異色の舞台。
そこで輝く最高のキャラクター。
まっすぐ伸びたカウンターパンチに、見事に魅了されてしまった。

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