気持ちがぐっと掴まれる魅力と迫力に満ちた作品でした。
まず、インドネシアという土地やボクシングという競技について、たいへん良く描かれていて、それによって作品により厚みが出ている点が素晴らしいです。
特にその土地についてしっかり描いていることで、それぞれのキャラクターが持つ背景がより鮮やかになり、とても読み応えがありました。
対戦相手のキャラクターもいいです。
持ち上げられても慢心しない、自分をしっかりと持った若者の姿は読んでいて気持ちのいいものでした。
相手をリスペクトできる、というのがこんなに清々しいものなのかと思います。
しかし、何よりも素晴らしいのは主人公を含め、旧友の進藤や対戦選手の薮田など、本当にボクシングがなければ生きていけない男たちなんだな、というのがしっかりと文章から滲んできている点です。
それがあるからこそ、それぞれがロニーに賭ける思いや真剣に対峙する気持ちにたいへんな説得力が生まれ、読む側まで彼に賭けたいと思えるのです。
そういう周囲の気持ちは、ロニーの「人が集まってくる」という素質と繋がっていきます。
ボクシングしかない男たちの期待を背負えるだけの度量のあるロニーの人間的な大きさがとても眩しく映りました。
個人的にはソムチャイのキャラクターも好きでした。
彼も薮田とはまた違った意味で気持ちのいいキャラクターです。
読めてよかったなと思える作品です。
まずタイトルのかっこよさに惹かれて手に取りました。
自分はボクシングの知識はほとんど無く、試合も通して観たことはおそらく1回もないのですが、すぐに物語に引き込まれました。
この作品は単なるスポーツ小説ではなく、過去に傷を負った男たちが織り成す、熱く切なく心震えるヒューマンドラマというべきではないか、と思いました。
文体は淡々としているのに熱い。
そしてインドネシアの熱気や、濃密な匂いまでむんむんと伝わってくるよう。
全編通して、とにかく熱くカッコイイ展開が続きます。
試合の場面では二転三転する戦況に、思わず手に汗を握りました。
最後まで読めばきっと、心の中に眠った闘志が目覚めるはずです!
格闘技は個人競技と思われがちですが、これだけは絶対です。どんなに強い人でもどんな武術を学んでも人は一人では絶対に強くなれない。その技術は先人が培ってきたもの、指導や練習は周りの助けがあってこそ、だからこそ強くなれる。構成としてこの結束していく過程を丹念に描いていく第二章までが一番面白かったです。そして実はこの二章までが一番大切だと感じるので、実は試合の結果はどちらが勝つか結末を心待ちにさせつつも、お話としてのテーマは消化させているのではないかと思うのが心憎い。巧い。
人が強くなる為のもう一つの大事な要素は倒すべき相手の存在だ。自分が目指す目標となる相手こそが自分をより高く飛躍させるのです。打ち合いはその相手がこれまでやってきた事が如実に現れてそれこぞ「百万言の浮ついた友情ごっこ」よりも雄弁に物語ります。ロニーと薮田の打ち合いとその過程で開示されていく薮田の真摯さが熱い。
肉体言語ですね。
巷間では笑い話になる単語ではありますが、これほどこのお話にしっくりくる言葉は無いでしょう。肉体言語系小説。梧桐さんのこれまで培ってきたものがふんだんに詰め込まれて、その全てを雄弁に語っています。読めてよかった。こんなに面白いものはそうそう無いですよ。
あと薮田幸せになれてよかったね。
本作はインドネシアのロートルボクサー、ロニー・ハスワントの下に次期チャンピオン候補の薮田から試合のオファーが送られてくるところから始まるボクシング小説です。
しかしロニーは33歳、弱気でぐうたら。勝てる見込みはまったくありません。語り手でありロニーの同居人の梧桐は反対しますが、ロニーはあくまでオファーを受けるといい、二人の挑戦が始まります。
当初は無謀にも思えた挑戦ですが、個性豊かな仲間がひとりまたひとりと集まってきて、れぞれの強みを活かして、彼らをサポートします。この辺りの面白さは黒沢明の『七人の侍』や船戸与一の『夜のオデッセイア』にも通じるものがあります(余談ですが、どちらも大傑作であり、特に『夜のオデッセイア』は本作にも強い影響を与えた作品と思われますので、興味のある方は読んでみると良いでしょう)。
さてしかし、本作には『七人の侍』『夜のオデッセイア』とは決定的に異なる点があります。それは、どれだけ頼りがいのある仲間がいたとしても、ロニー・ハスワントはたったひとりで薮田と向かい合わなくてはならないということです。コーチとしてもセコンドとしても優秀なスミトラであっても、ロニーの代わりにリングに入って薮田を殴りつけるわけにはいかないのです。
そして、薮田もまた、孤独の中で牙を研いできた男であり、その牙の鋭さ故に、ロニーは窮地に立たされます。
窮地に立たされたロニーがどのように戦ったのか。
勝利の女神はロニーと薮田のどちらに微笑んだのか。
もちろんここでは詳細に語るような無粋なことはいたしませんが、この物語が梧桐を語り部としたことと密接に関わっている実に魅力的な結末だということだけは断言しておきましょう。
それからもひとつ。対戦相手の薮田について。
メディアでの取り上げられ方など、実在の選手を想起する部分もありますが、過去エピソードによって、しっかりオリジナリティを持った魅力的なキャラクターであることが明らかになります。こういうのはとてもいいですね。ほんの少しだけ気になったのは前述の“牙”以外の部分であまり怖さが感じられないため、敵としてちょっと物足りないということですかね。だからこそ“牙”が恐ろしいということでもあるので、欠点とまでは言えないと思いますが。
ともあれ素晴らしい作品です。
ほろ苦く、汗臭く、けれどさわやかな、男たち(とチョロインたち)の物語。
未読の方は是非どうぞ。
砂埃が舞い空気が少し汚れた感じの世界観で(というかインドネシアで)おじさん二人がボクシングに熱を入れていく二時間ドラマを、大きいスクリーンで観ているような感覚でした。
ボクシングの内容は私はさっぱりで、最初の方は男臭い話だなぁと若干斜め読みをしてしまっていたんですが(作者さん、すみません陳謝)、ロニーが何故ボクシングに力を入れているのか、主人公のアキラが何故自己投影しながらロニーを鍛えているのか、そこが明らかになるにつれて段々夢中にさせられていったように思います。
そして気が付いたら日本に向けて出発していて、最強・藪田との試合――。
きちんとドラマはあるものの、ある種の疾走感がこの作品にはあって、そのせいか、勝利に向かって踏み出そうとするロニーを全力で応援したくなっていました。というか応援していました笑
皆さん既に「熱い!」と書かれていますが、本当にヒューマンドラマが熱い作品でした。
いつか是非スクリーンで観たいですね。
いやあ……アツかった。
素晴らしい物語でした。
よって、これも★★★★です。
自身が格闘家である梧桐さんだから
ボクシングのシーンが素晴らしいのは当然として、
出てくるキャラクターたちの
なんとイキイキとしていることか!
まず、主人公のアキラとロニー。
それぞれ「傷」をもったボクサーが
協力して再起を図る物語。
その男の友情が、実にカッコいい。
そうです。この作品の素晴らしさは
「登場人物が見事に描かれていること」に
ほかなりません。全員、実にいいのです。
メインのアキラとロニーをはじめ、
その再起を支える、ソムチャイ、スミトラ、ヨーギ。
男臭い物語を彩るふたりのヒロイン、弓子とエルミ。
旧友の進藤、そして敵方の薮田と矢上……。
もうね、全員に血が通いまくってるから
誰彼かまわずに感情移入してしまいそうなほど。
この造形とキャラ立ての見事さは、
ほんのチョイ役としての登場でしかない
医者や漢方薬屋やタクシー運転手まで
完璧に貫かれています。
しかも、セリフ回しが実に素晴らしい。
端的で短いけど、読者をグサッと刺してくる。
この点は本当に、本作の白眉だと思います。
もちろん、ストーリーもいい⇒引き込まれっぱなし。
ラストシーンもいい⇒最高の読後感。
男の物語のなかにチラッと挟まれた恋愛模様も
心地いいカタルシスを与えてくれます。
――え? なんです?
ホメっぱなしじゃないかって?
そうですよ。仕方ないです。
こんな最高の小説、ホメるしかないじゃないですか!
『カウンター』と聞くと、別にボクシングやってなくても血が騒ぐのが男心。もうこの言葉の響きだけで、不良からオタクまで多くの男が胸を熱くすることができるのではないでしょうか。
そのロマンは、『劣勢の条件下で相手の隙を突いて一発逆転に挑む』という、これに尽きるわけです。
そして、その『一発逆転』にかける想い――つまるところその背景・そこに至るまでの物語が重厚であればあるほど、僕たちは盛り上がる。
そういう単純な生き物なんですね男の子って。
はい。
この作品はまさしく、『右カウンター赤道より』の言葉で表される、インドネシアという舞台から、僕達読者に対して繰り出された右カウンターになります。
最後の最後の瞬間を盛り上げるために用意された、人物、設定、ストーリー、そして、右カウンターというテーマ。その全てが、ラストシーンに終結し、見事読者を『嘘だろ!!』と、ノックアウトしてくれることでしょう。
この作品は心を打つヒューマン・ドラマではありません。
この作品は綿密な描写が売りの闘拳小説ではありません。
この作品は男が誇りを取り戻す栄光の物語ではありません。
それら全てを内包して、私たちに突きつけられるカウンター、文章が殴りかかってくるボクシング小説です!!
言ってることが無茶苦茶だって!?
読めば(カウンターを喰らえば)分かるよ!!
今コンテスト、ここに来ておそらく一番心を動かされた作品です。
オススメ!! というか、読まなきゃ後悔しますよ、これ!!
最初に正直なところを申し上げますが、こういう作品のレビューは苦手です。
なぜって?
何を書いても取って付けたようで、安っぽい言葉になってしまうから。
率直に言えば、最後まで読んでメチャクチャ感動したし、ちょっと途中で泣きそうになりました。
……ほれ見ろ、なんてチープな感想だ!
しかし事実なんだからどうしようもありませんね。困った。
だから、この先の文章は無粋を承知で書き殴ることにします。
でも、もし作品情報ページのあらすじと、ここまでの文章を読んで、何がしかこの作品に興味が湧いたという貴方は、悪いことは言わないから、こんな駄文に付き合ってないで、さっさと本文を閲覧してくるのがオススメ。
あー、ええと。
それで、作品内容なんですが、ボクシングを題材にしたヒューマンドラマです。
もちろん、れっきとしたスポーツ小説で、格闘技に関する描写や説明も非常にしっかりしています。
けれどとにかく、ボクシングというひとつの競技を通じて、登場人物たちの多様な人生が描かれた物語としての色合いが強い作品だと感じました。
個人的には第三章の内容が特に心に響きました。
どのキャラクターも最高に「いいヤツ」なんですけど、特に進藤さんが好きなんですよね。彼に関連したシーンは、読んでて息が詰まりそうでした。
読後の余韻も素晴らしかったです。
……なんて取り留めもなく書きましたけど、ホント我ながら最後まで安っぽい感想だ!(苦笑)。
友情、熱意、仲間意識、スポーツ愛すべてを盛り込んだボクシング小説!
とにかく登場人物すべてに作者のただならぬ愛を感じます。
男性陣たちはすべて男前(ルックス的な意味ではなく、人間の在り方として)であり、人生の教訓を本作で説いてくれるような数々の名言! とにかくカッコいいんです☆
ボクシングをテーマとしているだけあって、良い意味で男臭さはあるものの、それだけではなく女性陣もいい味を出しています。
またインドネシアを主たる舞台として、現地の社会問題や宗教的背景を反映しており、読者の見識を広めさせてくれるのも特徴です。
私はボクシングには疎いのですが、それでも十分楽しめる小説。それは何よりも読みやすい丁寧な文体と、程よいテンポで展開されるストーリーゆえだと思います。
個人的には実写化したものを観てみたいです。
タイトルもまた素晴らしい!
素晴らしい理由は、読み進めていただければ分かるかと思います。
評価の高い作品ですが、期待を裏切らない作品です。
素晴らしい作品をありがとうございました。
同作者様の『前に進めば痛くない!』の方は漫画やアニメ版が想像しやすい雰囲気だったのに対して、この『右カウンター赤道より』はまさに登場人物、世界観、ストーリー、どれをとっても実写版が容易に想像できてしまうリアリティを感じます。
もちろん決してアニメやラノベ好きには『前に進めば痛くない!』の方が向いてるとかそういう意味ではなく、老若男女、誰でも容易に画面が想像しやすいという意味です。
登場人物は皆、魅力的なキャラクター性を持っているし、格闘技好きな人は当然として、深夜アニメをよく見る若者から実写の朝ドラ、昼ドラ、サスペンスドラマをよく見る主婦まで誰が読んでもノリや内容について行ける常識的世界観、そこに非日常的なアクシデントの数々がメリハリよく繋がるので、作中の出来事、流れが決して荒唐無稽にならず、自然と納得できてしまう説得力を感じます。
とにかく、難しい知識や偏った趣味とかはなく、誰が読んでも面白く、読みやすく、納得でき、カタルシスを得られるという、まさしく迷わず万人におすすめできる作品だと思います。
あと、エピローグの次のページの登場人物紹介(読後用)の『ツッコミ待ち感』が読み終えてしまった寂しさを紛らわすのに一役買ってくれますね。
赤道直下の国インドネシアの埃っぽくむせかえるような空気の中、裸電球のともるボロボロなボクシングジムで戦う、ロニーとアキラ。その友情や、エルミとの出会い、明かされていく過去に、徐々に強くなっていくロニー。そのすべてが熱く鮮やかなドラマとして目の奥に浮かびます。そして見どころは何といっても第四章でしょう。試合描写の疾走感、熱量。自分もリングサイドにいるんじゃないかと錯覚するような手に汗握る戦いが続き、引き込まれました。特に最後の方の試合実況のセリフが雰囲気が出ていて好きです。登場人物たちは、もういい大人なんですけど「ああ、いい青春だなあ」としみじみ思わされるました。そして最後にはエピローグと登場人物紹介にちょっとほっこり。お勧めの作品です!!