人はひとりでは強くなれない

格闘技は個人競技と思われがちですが、これだけは絶対です。どんなに強い人でもどんな武術を学んでも人は一人では絶対に強くなれない。その技術は先人が培ってきたもの、指導や練習は周りの助けがあってこそ、だからこそ強くなれる。構成としてこの結束していく過程を丹念に描いていく第二章までが一番面白かったです。そして実はこの二章までが一番大切だと感じるので、実は試合の結果はどちらが勝つか結末を心待ちにさせつつも、お話としてのテーマは消化させているのではないかと思うのが心憎い。巧い。
人が強くなる為のもう一つの大事な要素は倒すべき相手の存在だ。自分が目指す目標となる相手こそが自分をより高く飛躍させるのです。打ち合いはその相手がこれまでやってきた事が如実に現れてそれこぞ「百万言の浮ついた友情ごっこ」よりも雄弁に物語ります。ロニーと薮田の打ち合いとその過程で開示されていく薮田の真摯さが熱い。
肉体言語ですね。
巷間では笑い話になる単語ではありますが、これほどこのお話にしっくりくる言葉は無いでしょう。肉体言語系小説。梧桐さんのこれまで培ってきたものがふんだんに詰め込まれて、その全てを雄弁に語っています。読めてよかった。こんなに面白いものはそうそう無いですよ。

あと薮田幸せになれてよかったね。