You're "my" king of kings.

本作はインドネシアのロートルボクサー、ロニー・ハスワントの下に次期チャンピオン候補の薮田から試合のオファーが送られてくるところから始まるボクシング小説です。

しかしロニーは33歳、弱気でぐうたら。勝てる見込みはまったくありません。語り手でありロニーの同居人の梧桐は反対しますが、ロニーはあくまでオファーを受けるといい、二人の挑戦が始まります。

当初は無謀にも思えた挑戦ですが、個性豊かな仲間がひとりまたひとりと集まってきて、れぞれの強みを活かして、彼らをサポートします。この辺りの面白さは黒沢明の『七人の侍』や船戸与一の『夜のオデッセイア』にも通じるものがあります(余談ですが、どちらも大傑作であり、特に『夜のオデッセイア』は本作にも強い影響を与えた作品と思われますので、興味のある方は読んでみると良いでしょう)。

さてしかし、本作には『七人の侍』『夜のオデッセイア』とは決定的に異なる点があります。それは、どれだけ頼りがいのある仲間がいたとしても、ロニー・ハスワントはたったひとりで薮田と向かい合わなくてはならないということです。コーチとしてもセコンドとしても優秀なスミトラであっても、ロニーの代わりにリングに入って薮田を殴りつけるわけにはいかないのです。

そして、薮田もまた、孤独の中で牙を研いできた男であり、その牙の鋭さ故に、ロニーは窮地に立たされます。

窮地に立たされたロニーがどのように戦ったのか。
勝利の女神はロニーと薮田のどちらに微笑んだのか。

もちろんここでは詳細に語るような無粋なことはいたしませんが、この物語が梧桐を語り部としたことと密接に関わっている実に魅力的な結末だということだけは断言しておきましょう。

それからもひとつ。対戦相手の薮田について。
メディアでの取り上げられ方など、実在の選手を想起する部分もありますが、過去エピソードによって、しっかりオリジナリティを持った魅力的なキャラクターであることが明らかになります。こういうのはとてもいいですね。ほんの少しだけ気になったのは前述の“牙”以外の部分であまり怖さが感じられないため、敵としてちょっと物足りないということですかね。だからこそ“牙”が恐ろしいということでもあるので、欠点とまでは言えないと思いますが。

ともあれ素晴らしい作品です。
ほろ苦く、汗臭く、けれどさわやかな、男たち(とチョロインたち)の物語。
未読の方は是非どうぞ。

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