第57話 冬の日のチョコレート(えっち回)
昏々と眠るような、雪の日が続いた。
車庫の中でパトカーは冷え、じっとしている。
スタッドレスに替えそびれていたのだ。致し方ない。暖冬だ暖冬という言葉を信用していたけれど、こうも、突然の大雪となると、俺も考えを改めていかなかればならないと、独りごちた。
さて、彼はと言うと、久方ぶりの大雪に喜び、いくつか雪だるまをこさえ、俺に雪合戦をしようと誘ってくる。
彼と俺とでは、体感温度が随分と違うらしく、彼と同じように、外で遊びまわる気にはなれなかった。
勿論、勤務中であるのだし。
廊下に出れば、なお冷える。
ストーブで温められた空気は、居間と交番の事務室だけだ。
一歩そこを出てしまえば、まるで冷蔵庫の中、と言わんばかりの冷たさに、足先が冷える。
「甘いもの…」
白い息を吐きながら、買い置きの菓子が詰められたビニール袋を漁り、俺は中から12粒入りのホワイトチョコレートを掴み出した。
どうにも寒さと言うのは、ただ生活するだけでも、夏よりもカロリーを消費している気がする。
熱く淹れたコーヒーと共に、チョコレートを持って居間に入る。
休憩を取ろうと、ネクタイを緩め、防刃ベストを脱いだ。
「は、ふ…」
暖かい部屋に、全身が緩む。
彼はまだ外で遊んでいるのだろうか。
車庫の中に入り込んで、冷え切ったパトカーとの熱い抱擁を交わしていても、なんら不思議とは思わないけれど、いい加減に部屋に戻らねば、風邪をひかれて、また「おまわりさんのお雑炊がたべたい」だとか「アイスクリームがたべたい」だとかを要求するだろう。
寒い日に立つ台所は寒いのだ。
ボンカレーをどう作ってもうまいのと同じように、寒いものは寒いのだ。
俺とて、わざわざ寒い思いをしたいわけではないので、彼のスマートホンへ、メッセージを打つ。
「おやつたべるよ」
送信して、数秒。
引き戸の音と、彼が急いで靴を脱ぐ音。廊下を足早に、此方へと向かってくる。
「おまわりさん…、おやつ…!」
「ん」
咥えたばこのまま、彼に片手をあげて応じる。
「君のぶんのお茶は淹れてないよ」
「ひどい…!玄米茶…!」
自主的に台所へと玄米茶を淹れに行く彼を見ながら、俺はチョコレートのパッケージを破った。
久しぶりに食べる白いチョコレートは、予想外に甘ったるく、喉にまとわりつく。
「おぁ…」
コーヒーを啜って、喉にへばりついたチョコレートを流し、彼に向かって言った。
「苦そうなチョコ持ってきてもらっていい?」
「はぁい…!」
彼が急須とマグカップを盆に乗せ、チョコレートを持って戻ってくる。
「これね、すごい甘かった」
パッケージから一粒、白いチョコレートをつまみ出すと、彼の口の前にちらつかせる。
「あ、むっ」
「な?」
「…ぼくは白いののが好きですけどね…!」
したり顔でそう返すものだから、いつかカカオ90パーセントだとかのチョコレートを口に入れてやろうと心に誓う。
「そういえば、車庫でなにしてたの」
次のチョコレートを口に入れて欲しそうにする彼にそう尋ねた。
「パトカーさんの…」
少し口ごもる。
「ボンネットにチョコレート置いて、溶かして食べたらおいしそうだなぁって…」
「こんだけ冷えてると溶けないだろうね」
「そうなんですよね…」
暫し、彼が黙した。
しゅんしゅんと沸くやかんの音が、部屋を支配する。
そうして、彼は口を開いた。
「おまわりさんのおなか…これのせて食べたい…」
また頓狂なことを言い始めた、と、俺は苦笑いした。
「パトカーさんはだめでも…おまわりさんなら…」
「いやね、そら溶けるだろうけどね」
「脱いでください…!」
真摯な目が、真っ直ぐに俺を見る。
「ええ…」
視線を巡らし、俺は諦めて、たばこの火を灰皿で揉み消した。
したいと言う時の彼は、普段よりずっと意固地であるのは、よくよく知っている。
着込んでいたシャツを脱ぎ、上半身を晒す。
暖められた部屋の中では、寒くはなかったが、さすがに少し鳥肌が立った。
「仰向け!仰向けになってください…!」
彼に肩を押され、俺は畳に転がる。
「乗せて…!自分で…!」
そう急かされ、俺は白いチョコレートを一粒、腹に乗せた。
ストーブの熱と、俺の体温で、チョコレートはすぐに柔らかくなり、腹筋の割れ目に、ぬるりと滑りこんだ。
「それで?」
「い、いただかますっ…!」
「噛んでる…」
随分と興奮した様子の彼が、俺の腹に向けて顔を伏せる。
「ん…」
唇と舌だけで、滑るチョコレートを拾い上げるのは、些か難易度が高いらしく、狙いを逸れた彼の舌が、俺の腹を舐める。
「手、使わないでよ」
「ん、ぁ、はい…」
一粒めのチョコレートを、舌で舐め、溶かし、そうして動かされたチョコレートが、俺の腹に薄く広がっていく。「次のも置いとくね」
二つめを腹に乗せ、彼がちろちろと舌を出して、チョコレートを舐めるのを見る。
短い舌が、どうにか目標を拾いあげようとして、じきに、小さくなってしまったチョコレートを、唇で覆い、ちゅる、と、吸い上げた。
「見てるだけだと、結構やらしいね」
「た、食べてるだけです…!」
俺は笑いながら、三粒めを腹にのせる。腹に置いている時間が長ければ長いほど、チョコレートはとろけて、小さくなる。
彼は広がった白いチョコレートを、せっせと舌で舐め拾っていく。
「おいしい?」
「おい、ひい、です…」
かぷ、かぷ、と、唇が音を立てる。
へその辺りに彼が顔をつけ、舌を出しているという姿は、それなりに、性的なものを連想して、目に好ましかった。給餌されるこねこのような。もしくは、床を舐めるようにと言いつけられたような。
その舌のあたたかさを、腹で感じるというのも悪くはない。
なにぶん、彼の口を使った愛情表現となると、噛み付くか、舌で舐めるかのいずれかだ。
性器を舐めるでも、愛咬でもなく、俺の腹に彼が唇をつけることがあっただろうか。
恐らく、これははじめてのことで、その景色に、俺は満足していた。
けれど、足にあたる違和感に、思わず唇が湾曲した。
「ふ…」
「なん、ですか…」
小さく洩らした笑いに、彼が不満そうな声を返す。
「いやね、これ、なにかなって」
脛を揺らすと、彼が小さく悲鳴をあげ、俺の腹に額をつける。
「あ、あの…」
「いやに固くしてるね」
顔を伏せ、イヤイヤをするように頭を振る。
「脱いで、お尻、こっち向けなよ」
「え、あの…」
「いいから」
顔の前に、彼の尻を向けさせ、その割れ目に鼻先を押し込む。
「あ、ひっ…」
「チョコ、ちゃんと食べなきゃだめだよ」
腹の上に、あるだけ乗せたチョコレートは、俺からは見えない。
彼は手をついて、口をつける。
俺の鼻先を、彼の睾丸が掠め、彼が舌を動かすたびに、ひくつく肛門が見える。
ぬらりと、舌先で、彼の竿を舐める。
途端、彼は切なそうな声を出し、舌を動かすのをやめてしまう。
「食べなさいよ」
そう言って、ぴしゃん、と、音を立てて、彼の尻を叩くと、きゅっと肛門がすぼまり、また、彼の舌が、腹の上で動く。
むぐむぐと、唇が動いている。
腹に感じる舌の動き。
もう少し下、と、俺の欲が強請り始める。
「は…ふっ…」
口だけで彼の股間をまさぐり、吸い付くように、陰茎の先端を口内に引き込む。
独特のえぐみを舌に感じながら、ゆっくりと、彼のものを味わう。
「あ…」
彼が短く声を発し、けれど今度は、舌を止めなかった。
指先で彼の尻を叩きながら、彼の亀頭をぐるぐると舌で愛撫する。
溢れ出る唾液を飲み、彼の先端を嚥下した。
喉の奥深くへ行こうとするカリ首が、粘膜をこする。
彼と俺の息遣い。
腹を舐める濡れた音。
睾丸の裏側のにおいが、鼻先について、妙に甘く感じられた。
ちゅくちゅくと、小刻みに音を立てながら、彼のものを唇でしごき、時折、わざと前歯を当てる。
引っ掻くような痛みがあるだろう、その度に、彼の肛門が動くのが見て取れた。
「だ、だめ、おま、おまわりさん…」
平手で、尻を打つ。
「い゛っ…!」
二度、三度と、打つ。
彼の先端が、とくとくと、濃ゆい精液を吐き出して、俺の喉へと流し込んでいく。
「あ、ふ…。うっ…」
彼の肘が折れ、膝のちからが抜け、俺の顔面に、彼の性器が押し付けられた。
息苦しさを覚えながら、彼の肛門に指を立てる。
差し込んだ人差し指を、彼の穴が咥え込み、きゅうきゅうと締めつけた。
彼の尻が浮き、快感と異物感から逃れようとする。
ゆるく勃起した陰茎もまた、俺の口から逃げ、糸を引きながら、悶えた。
「俺のを、ここに入れて」
そう言うと、彼は身体の向きを変え、俺のスラックスから、昂ったものを引き出す。
腹の上のチョコレートは、彼の唾液で引き伸ばされ、乾いた精液のようにこびりついていた。
「あ、あの、あの…」
「入れて」
ぐす、と、鼻を鳴らし、彼が俺のものの上に腰を沈める。
じわりじわりと、彼の中に咥えこまれる快感は、何度経験しても、たまらなく良いものだ。
「あ、う…」
根元まで咥えこんだ彼が、たまらず身体を伏せた。
胸のあたりにある、彼の唇から、甘いにおいがする。
「もう少し上に。そう。頑張って」
彼の頭を、俺の顔に近づけさせ、唇を吸う。
甘ったるいこどもじみた味が、舌に広がった。彼の後頭部に手のひらを当て、唇を離させないまま、腰を突き上げる。
彼の腹と俺の腹の間で、半端に溶け残っていたチョコレートが押しつぶされ、ぐずぐずとかたちを変えていく。
「んっ、んーっ…」
彼が、腹の中を抉られ、半泣きになりながら、俺の頭を抱く。
肌を打ち付ける乾いた音と、腹の隙間から立つ、溶けたチョコレートの甘く湿った音。
短い彼の舌を吸い出し、味蕾の隙間に残った味を飲む。
「くあっ…」
彼の身体が弓のように反り、俺から唇を離した。
俺の両腕が、彼の首と腰を絡めとり、身体に押し付ける。
彼の直腸に吐き出した、己の精液の熱さを感じながら、彼を抱いたまま、暫く動くことができなかった。
少し経ち、彼の身体を押さえつける腕を解くと、彼はそのまま、全身を俺に預けていた。
「抜かなくていいの」
そう問うと、彼はちからなく、「まだいい」と、答えた。
俺は腕を伸ばし、座卓に置いたままのスマートフォンを手に取る。随分、長い休憩をしてしまったと思いながら、彼に言った。
「あと五分したら、抜いて、片付けて」
従順な彼が、耳元で「はい…」と返事をした。
ようやく、彼以外の音が、俺の耳に戻り、しゅんしゅんと沸き立つやかんの蒸気を聞く。
了
2017/01/19
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