第23話 いわないはなし

丸一日、休みができた。

駐在所という職場上、良くも悪くもこの交番には、いつだって俺しかいない。

必要ならば、電話口を市の警察署に繋いでおくこともできるが、せいぜい夜間だけのもので、丸々一日の休日となると、指折り数えていつぶりなのか、とんと記憶になかった。

「明日、俺がそっち行くから、休み取りぃ」

関西訛りの声は、電話越しにそういうと、俺の都合を気に留めることもなく、手続きはやっておくから、と言い残して受話器を置いた。

その時点で、じきに夕刻だった。俺は車庫にいた彼に声をかける。

翌朝には、代理の同僚が一日いるので、今夜は交番に泊まることができないのだと、彼にあらかじめそう伝えると、パトカーに会えないのが不満なのか、少し寂しそうな顔をしていた。

「おまわりさんは…一日なにをするんですか…?おまわりさんだけパトカーさんと一緒に…?」

そう尋ねられて、俺は眉を上げた。

降って湧いたような休日なんて、特に予定もなく、俺は一日なにをするのだろう。

彼に「どこかに出かけようか」と聞くが、特に行きたい場所もないらしい。緩やかに首を左右に振られてしまった。

少し考えて、彼は言った。

「ぼくのうちにきますか…?」

成る程、彼の家には彼しか済んでいないし、彼の持っているゲームや本で楽しむのも、悪くない提案だった。何より、彼の家は、徒歩圏内にある。

ひとの家に行ってゲームをして遊ぶなんて、学生の頃以来で、俺は楽しみにすら思えて提案に乗る。彼も、小さな声で、「掃除しておかなくちゃ」と呟いた。


朝目覚めると、八時出勤の同僚はまだ来ておらず、俺は歯を磨きながら交番の鍵を開けた。本来の時間より三十分ほど超過して、同僚がやってきた。関西訛りの声は、悪びれる様子もなく、俺になにかあれば引き継ぎをするようにと言った。

引き継ぎと言っても、毎日行うものなんて限られているし、田舎の駐在所は大きな職務も持っていない。せいぜい、野菜を持ってくる年寄りの相手と、交番の前を通って学校に行き来する子供らへの挨拶くらいだろうか。

「なんや、ここに回して正解やったな」

軽口と要領で世間を渡り歩いているような同僚は、俺をこの駐在所に居着くようにした本人である。

兎角、運と要領に恵まれた彼は、出世することをわざと控え、俺と同じ巡査に甘んじているが、実際のところ、本来ならとっくにもっと上へとのし上がっていてもおかしくない男だ。

現在彼が働くのと同じ警察署で勤務していた俺は、どうにもそこに馴染めず、要らない苦労ばかりを溜め込んでいた。そんな俺を、定年を迎えた田舎の駐在所の後釜に放り込むように上に掛け合い、取り計らってくれたのだ。

「あんたは、こういうとこやなくて、もっと田舎の…年寄りの茶飲み相手するような警官のが向いとるて思ってな?」

俺の配属が決まった時に、そう言って誰よりも喜んだのは彼だった。煩わしい抑圧と激務から取り外され、それが事実上の左遷だとしても、俺にはそれが必要だったのだ。

「今日は出かけるんか?あー…あの坊んとこ?」

「ええ。あの子の相手してきます」

「交番で遊んどってもええけどな。あれはあんたには必要な相手や」

この同僚は、彼のことも、知っている。

以前警邏中にここに立ち寄った同僚は、一日中交番にいるあの少年を、最初こそ訝しんだが、俺がざっくりと話した彼のこと、すなわち「一緒に暮らすひとのいない、毎日のように交番に顔を出す、パトカーが大好きな少年」という話を追及することはせず、

「道理で、付き合いが悪なった代わりに、楽しそうな顔をしとるわけや」

そう、笑って言ったのだ。

彼は、俺がひどく落ち込み、いらいらしながら働いていた頃をよく知っている。それがあるからこそ、俺がその頃よりも気楽に生活できていることを喜んでくれているのだ。

それこそ、この同僚ならば、彼がこの交番で寝泊まりしていたとしても、さして咎めることはないのかもしれない。

しかし、もう少し、彼と同僚が仲良くなって、隠すものが彼との特殊な関係性だけになってから、そういう話をしたかった。

「それで、夜は?何時までいるんです?」

「あー…夜は閉めてええんやろ?日付変わる頃には…まぁ、あんたは明日の朝、交番開けられる時間までに帰ってきたらええんちゃう?」

ひらひらと手を振りながら、ひどく雑な予定を立てられてしまった。

兎も角、俺は着替えて、彼の家に向かうことにした。

朝から行く、とは言ってあったが、朝の九時に彼は起きているのだろうか。普段の彼は、早朝に起きることもあれど、だいたいは昼近くまで眠っている。

途中コンビニで、飲み物と彼の好む菓子やつまみ、酒を買い込んだ。一日中遊ぶのなら、このくらいの手土産もあってもいいだろう。

歩いて三十分程の所に、彼の家はある。彼が元気な時に入るのは、初めてかもしれない。

滲み出すような黒い気配も、枯れ草にほんの少し鉄錆を混ぜたようなにおいもしない。

極々普通の、けれど古びた日本家屋が、そこに居た。

玄関の引き戸に手をかけると、案の定施錠されておらず、恐竜の叫び声のような音を立てて扉が開いた。ガタついているのか、砂利でも噛んでいるのか、ほんの少しだけ固かった。今度はめ直して油でも点してやるといいかもしれない。

室内に入り、彼を呼ぶと、階段を駆け下りる足音がして、わくわくした目が俺に向けられた。

「おはやうございます…!」

「寝てるのかと思ってたけど、早起きだったね」

「はい…!ちゃんと起きましたよ…!あっ、どうぞ…!荷物…!荷物持ちます…!」

彼にビニール袋を渡して、飲み物は冷蔵庫に入れるように頼む。台所の方に、彼の素足が立てる足音が、ぺたぺたと離れていった。

俺は靴を脱いで、揃えて置かれたスニーカーの横に並べる。

「ああ、菓子とつまみは、君も食べていいから。あとで一緒に食べよう」

「やった…!コンソメあじだ…!ビーフジャーキーも…!」

ビニール袋を漁っているのだろう、がさがさいう音がここまで聞こえてくる。

飲み物を冷蔵庫に入れた彼が、袋をぶら下げて戻ってくる。

「ゲームするなら下のへやです…。テレビ大きいから…。本を読むなら…ぼくのへやですけど…」

「前にきみとやるって買った携帯ゲームのやつは?」

「あー…それならぼくのへやでできますよ…!」

どうぞどうぞ、と、彼が俺の先に立って向かうべき方向を指す。案内をされなくても、この家の構造は、だいたい知っているのだけれど、彼の後ろに続くことにした。

急な階段を上がる。ぎしぎしいう音も、今日は恐ろしいものではなく、むしろ歓迎するような歌に近い。

彼の部屋は、俺がくるからと多少片付けたのだろうか。以前来た時よりも、部屋を侵食するがらくたの量が減っていた。

そのぶん、ベッド横にスペースが作られ、座布団が何故か三枚も重ねて置いてあった。

「どうぞおかけください…!」

「逆に座りにくいよ…」

「ふかふかのがきもちいいかとおもって…」

座布団を減らし、腰をおろす。

彼はベッドに座ると、折りたたみ式のゲーム機をあけて、かちかちと操作し始めた。

「なにいきます…?」

「なんか装備作りかけだっけ?」

俺もそれに習いながら、スリープになっていたゲーム機をいじる。ゲームとしては、モンスターを倒して装備を作り、強いモンスターを倒して、の繰り返しで単純なものなのだが、誰かとプレイすると不思議と飽きずに、ちまちまと続けている。よくよく考えると、今日彼の家でプレイする必要性は全くないのだが、はまっているゲームというものにそんなことは野暮であろう。

俺と彼は、作りかけだった装備を作るべく、黙々と同じモンスターを倒し続けた。

装備を作り終わっても、配信コンテンツだとかを進めている間に、昼が近くなっていた。

休憩がてら、買い込んできた菓子類を開けたところで、飲み物だけは階下にあることを思い出す。

「飲み物取ってきていい?冷蔵庫開けるよ」

「あ…はい、お願いします…」

彼に断りを入れてから、俺は階下に行く。台所には、一人用でない冷蔵庫が鎮座していた。出不精な彼のことだ。日持ちのするものを買いだめて生活をしていたのだろう。

冷蔵庫を開ける。

買ってきたお茶や炭酸飲料のボトル、幾つかの酒の缶。彼の食料らしきものは、あまり入っていなかったが、調味料の類は、数が多い。何にそんなに味をつけたいのだろうか、未開封のドレッシングが、同じものばかり二本も冷やされていた。

さすがにこの昼間から飲むのは気が咎めたので、お茶と炭酸飲料を取り出す。酒は、夕食の時の楽しみでもいいだろう。

「氷…おーい、氷もらうぞー!」

二階に向かって声を出してから、少し待った。彼からの返答はなかったが、俺は冷凍庫の引き出しを引いた。

ばくん、と音を立てて開かれた中身を見て、俺は少し混乱した。

広い冷凍室いっぱいに、びっしりと、日付の書かれたタッパーとジップつきの袋が並べられていたのだ。冷凍食品にしては、あまりに数が多く、なによりも、その中身は全て生肉だった。

ひとつ持ち上げて中身を見る。肉片と肉汁と思しきものが、曇ったビニール越しに確認できた。それらは、みっちりと袋の中に詰められ、凍てついていた。

「…肉、好きなのは知ってたけど…こりゃあ…」

タッパーの蓋を開いた時に、俺の安穏とした思考はざわりと粟立った。

霜げた肉片と共に見えたのは、確かに人間の指の形をしており、その指に生える爪のかたちは、何度も、それこそ、数も知らないくらい目にしたことのあるものだった。

耳だとか鼻だとかなら、これ程すぐに気づくことはなかっただろう。

俺はタッパーの蓋を閉めて戻し、氷を食器棚のコップを放り込む。流しの上に置かれた包丁立てから、一本抜き取り、背中側のベルトに挟んで隠してから、台所を後にした。

そして俺は、階段を上りながら、ふつふつと沸き起こる感情に身体を震わせた。

それは、俺の身体を彼が解体する度に持ち去っていたということに対する怒りではない。あの大量の自分の肉を見て、俺が思ったのは、これを口実に、いかに彼を苦しめてみようか、という、ただそれだけのことだった。

わざと階段をゆっくり上がる。ビニール袋を手首にひっかけ、あいた手で口元を覆った。

背骨を抜けるような冷たい気持ちよさが、俺の頭へと到達する。

なるべく、俺は平静を装って、彼の部屋に戻る。

彼はスマートフォンを弄りながら、ビーフジャーキーをちびちびと噛んでいた。

俺が持ってきた飲み物に喜び、そして差し出した氷の入ったコップを見て、びくりと身体を跳ねさせた。

「一言言ってから開けたからね」

そう言って彼を見ると、動揺した彼が、目を泳がせていた。

「あ…あの…冷凍庫…」

「見たよ」

「う…あ…あの…あぁ…。ご、ごめんなさい…!ごめんなさい…!ごめんなさい…!ごめんなさい…!ごめんなさい…!ごめんなさい…!」

彼の怯えた細い声が、何度も謝罪の言葉を口にする。そもそも俺は怒ってなんていない。そう彼に告げると、ベッドに倒れこんだ。ほっとしたのか、俺から距離を取りたかったのか、定かではないけれど、俺は彼を追ってベッドに膝を乗せた。

うつ伏せの彼の肩を押して、仰向けに転がす。彼はまだ少し不安そうで、俺の動向を探っている。怒っているかもしれない時には、彼は一切のことに従順であろうとする。

俺は、背中に隠していた包丁を引き出すと、彼の首元にあてた。

ひやりとしたのだろうか、彼は眉を寄せて、少しだけ身動ぎをした。刃先に彼の細い首筋に食い込ませ、ゆっくりと引く。

ぷつりと肉を裂く手応えと、それに相まって赤い血がとろとろと流れてくる。彼の瞼が、恐れるようにいちど閉じられて、おずおずと開く。

「おま、わりさん…」

「怒ってるんじゃないよ」

俺が彼の頭を撫でると、安心したのか、彼は身体の力を抜いた。俺は浅く、少し深く、彼の首筋を裂いていく。彼は口を噤んで、唇の隙間から、呻き声だけを漏らした。

流れ出した血液が、柔らかい毛布に吸われて広がっていく。彼の鼓動に合わせて、傷口から小さなしぶきがあがる。ぴっと跳ねた血潮が、俺の頬にかかった。肌に触れた時はぬるく温度のあったそれが、すぐに空気に冷やされて固まっていく。

じきに彼は失血の為か、ぼんやりとした顔をして、焦点の合わない目で俺を見続けるだけになる。それがまるで蕩けるような愛らしい表情に思えて、俺は昂りを覚えた。

ゆっくりゆっくりと、彼の意識が朦朧としていくのがわかる。俺は傷口に手を当てて、出血を抑えた。今日は、すぐに息絶えて欲しくなかった。

減った血潮の水量が、ゆるゆると滲み出し、ゲル状に固まったつららの先端を伸ばしていく。

彼が何事かを呻くが、その細い声は喉の奥で唾液と絡まり、しわぶきへと変わる。彼の身体にちからが入るたびに、指の間をすり抜けた血で手のひらが滑りそうになる。力加減を間違えたら、彼の頸椎を押し外してしまいそうで、俺の腕はぶるぶると震えた。

押し外してしまっても、誰も咎めないのに。

俺は、まだ彼に死んで欲しくはなかったのだ。

彼のジャージと下着を脱がせ、ぬめる血液を彼の身体に擦り込む。力が抜けてしんなりとした彼の身体は、俺を受け入れた。

頭の端で、またこんなことを。と、俺の自制心がふらふらと歩いている。俺にだって、罪悪感が欠如しているわけではない。けれど、俺の腕をつかみ、引き起こし、そうして背を押して歩かせる好奇心に何をもってあらがえというのか。してはいけない理由を外したのは彼で、外れた箍をはめなおす方法を俺は知らない。

まるで鳴き声を上げながら開閉される蝶番のゆるんだ扉だ。小さな風に軋んで、翻弄され、大きな風の前にはどうすることもなく、口を開けたままなだれ込む大気に任せている。

俺は一切に構わず、彼の身体に思うだけの暴力を振るう。

彼の身体が、末端から緩やかに冷たくなっていく。どっぷりと血潮を吸ったベッドは冷たく、敷布団と毛布を抜けて、床へと、含みきれないものを滴らせているのだろう。

彼の頭を掻き抱き、俺は彼を揺すぶった。手のひらが傷口から離れたせいで、とぷとぷと残り少ない血液が押し出されていく。彼の真っ黒い瞳孔が緩み、ぱたりとあらゆる音が静止した。

切ないような感情を憶えて、俺はそのまま彼を抱き込んで身体を丸めた。触れるもののほとんどが冷たい。濡れたベッドが、彼の身体が、俺の身体を冷やしていく。

「さむい…」


おまわりさんが怒っていると思った。

持って帰っていいなんて言われていないのに、どうしてもおまわりさんを集めておきたくて凍らせておいたのだ。

だから、絶対に怒られると思った。

ぼくは、たくさんおまわりさんに謝ったのだけど、おまわりさんはぼくの首に包丁を当てながら「怒ってるんじゃないよ」と、言った。

冷たくて痛いことをされながら、もし怒っていたとしても、それで与えられる痛みならよかったと思えたし、本当に怒っていなかったとしても、おまわりさんが優しい声でぼくに痛いことをしようとするのは嬉しかった。

首からあったかいものがとろとろ流れていって、ぼくのあたまはどんどんわるくなっていくし、手足の先が冷えていく。

ふわふわした世界の中で、おまわりさんがぼくの身体を触るところだけがあたたかい。それはもしかしたら、優しさのようなもので、きっと優しさはあたたかいものだから、ぼくはすごくしあわせな気持ちになった。

ぼんやりとした視界の中で、おまわりさんが動いている。

おまわりさんが動くたびに、シロップ漬けみたいなぼくの頭の中は、ふわんふわんして気持ちがいい。

おまわりさんがぼくの首に手を当てながら、身体を触る。

どっちもあたたかくてすごく気持ちいい。眠たくてうとうとしている時のような、夢の中でパトカーさんにしてもらっているときのような、そんなのに近い気持ち良さが、ぼくの身体を包み込んで、とろとろにほぐしてくれる。

おまわりさんの声だけ聞こえる。おまわりさんの低い息を吐く音。

おまわりさんがあったかい。

ぼくは、そのまどろみのような気持ち良さの中でふわふわと浮いている。

気がついたらなんにも痛くなくて、ぼくは痛いのが好きなわけじゃないから、そのきもちよさだけを考えていられるのは、本当にしあわせなことだとおもった。

おまわりさん、と、何回か呼ぼうとしたけれど、夢の中ではうまく声が出せない。空回りするような、あの感じだ。おまわりさんに、怒っていなかったことがうれしいのを伝えたいのに、ぼくの喉はかすかすで、なんにも声にならない。うまくつたえられないのは悲しい。ぼくは泣きたくなった。

おまわりさんが、ぼくの頭を抱いて、ぎゅっとしてくれた。つたわったのだろうか、そうだったらうれしい。さみしくない。ぼくはとてもうれしい。ひっついたばしょがあたたかい。

だからおまわりさんも、さむくないといい。


ふっと目を覚ますと、俺の上には彼の布団がかぶせられていた。布団だけでなく、この部屋にあった布製品のほとんどが、俺の上にのしかかっている。

「うぁ…重…」

跳ねのけると、三枚の座布団が衣擦れの音を立てながらベッドから滑り落ちていった。彼のTシャツだとか、ジャージまで総動員してある。それほど今日は寒い日ではない。凄惨極まる状態だったはずのベッドはすっかりときれいになっていた。

むっとするような血臭も消えて失せて、なにからなにまで、なかったことになっているのだから、もしかしたらあれは本当に夢だったのかもしれない。だったらどこから俺は眠っていたのか。

冷凍庫は?

そう思って、俺は布団を抜け出し、階段を下りる。彼の姿は見えない。すっかり薄暗くなった室内を、手探りで進みながら台所へ向かう。ぱちんとスイッチを押すと、蛍光灯が瞬いて、明るくなった。冷蔵庫に近づく。ばくんと冷凍室の扉を開き、一瞬引き出しの中身が見えて、俺はすぐにそれを閉め戻した。足音がしたのだ。

「おまわりさん…」

木板の廊下に、彼が立っている。ひた、と、小さな足音が俺に近づいた。

「今日は泊まっていくんですよね…?おふろ、すぐにはいれますよ…。晩御飯は…どうしますか…?」

彼の弾んだ声とは裏腹に、俺はすぐには振り向けないでいた。

「飲み物ですか…?出してあげますから座ってください…!あっ、晩御飯…、おまわりさん、晩御飯、ピザたべたいです…!」

彼に押されて椅子に座る。注がれたぬるい玄米茶を見つめながら、俺はまぶたに焼き付いた、冷凍庫の中の俺の目玉と向き合っていた。




初出20160323


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