5.8
「花本先生はいらっしゃいますか?」
同時刻。
職員室を訪問する、吹奏楽部部員の姿があった。
「あ、えっと、門田さん……?」
仕事が長引いてしまった。そう悔やみながら、帰宅の準備を進める花本羽地は、その手を止める。
「今日も、国立せんせはいないんですね」
「多崎先生から説明があったように、先生は風邪でお休みなの」
「てっきり私のせいだと思ってたけど、そうじゃないんですかぁ?」
「噂話くらいで、国立先生は不登校にはなりませんよ」
にこりと微笑むと、門田杏は笑顔で応えた。
これまで彼女が、積極的に話しかけてくることは少なかったのに、今日は珍しい。
「それで、ご用は何かしら?」
国立一弥のアパートに行きたい。さっさと門田の要件を片づけてしまわないと。そう考える彼女は、自然と結論を急いだ。
「ええっとぉ、相談というか、人生の悩みというか……」
きょろきょろと周囲を見回す。
「できれば人のいないところがいいんですけど」
「なら空き教室を使いましょうか。今ならもう生徒さんは帰っているし」
「はい。よろしくお願いします」
花本羽地は肩にかけていたバックをデスクに置く。そして彼女と一緒に、2年2組の教室へと向かった。悪いタイミングで生徒に捕まってしまったと、心のなかでがっかりしながら。
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