7.4
「ねぇ、月ちゃん」
吹奏楽部からの帰りしな。門田杏が口を開く。
部室を出たばかりのところで、彼女たちは下駄箱に向かっている。
「国立せんせ、今はどうしてるのかな……」
休職届が出されてから、彼を目撃した生徒は一人もいない。そのことに馴染んでいく生徒もいれば、不安を募らせる生徒もいた。多崎泰一が生徒たちに事情を聞いて回っているのだが、向こうからの情報が入ってこない。
月島霧子が唯一の当事者ではあったが、誰も踏み込んで、彼女に事情を聞こうとしなかった。国立一弥を避けるしかなかったように。
「秘密」
月島霧子はにんまりと笑う。
それで説明は十分だと、言いたげな表情だった。
「あのね? 私、月ちゃんのこと大好きだし、友達だって思っているけど、これってちょっとやり過ぎじゃないかなって思うの……。国立先生、頭堅くて、なんか演技してるっぽいけど、でもいい先生だったし、私たちの悪戯だって許してくれたじゃん……」
門田の問いかけに、月島は歩みを止める。
わずかに顎をあげて、しばらく思案していた。
「胸を触られたって話も、あれ、本当なのかな……」
「本当だから」
「だけど……」
「門田さんは、私が嘘をついているって、言いたいの?」
「う、ううん! 違うよ!」
「だったら余計な詮索しないで」
「……ごめん」
二人は、それっきり黙ってしまう。言葉のないまま下駄箱まで到着すると、体育館のほうから歩いてくる人影が見えてきた。
「おい、月島」
それは佐々岡信二だった。
「何」
「国立先生に何をしたんだ」
「何もしてない」
「嘘つけ。あのまま先生が学校を辞めたら、俺は許さないからな」
「許さないって、どうするつもり?」
「……許さないものは許さない。そんなの知るか」
「ふうん。じゃ、頑張ったら」
佐々岡を歯牙にもかけず、月島はスニーカーに履き替えて、下駄箱から出ていった。彼に申し訳なさそうな視線を向けながら、門田はあとを追いかけていった。
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