4.3

 喫茶店から出ると、丘花山の街は、夜の顔になっていた。

 飲み屋街のけばけばしい照明が、駅へと続く道を照らす。

「あの、花本先生」

「はい」

 道すがら。

 丘花山駅に向かって並び歩く。

「さきほどの話ですが、やはりここで伝えておこうと思いまして」

 その場に立ち止まる。

「結婚を前提に、私とお付き合いしてもらえませんか?」

 花本先生もまた、歩みを止めた。

「その、今は仕事ばかりですが、いずれは落ち着いた時間もとろうと思っています。週末も時間を作っていきたいですし」

「それだけ、ですか?」

「もしお付き合いできれば、記念日や誕生日のプレゼントは欠かしません。家庭も大事にします。家事は半々ずつします。お給料は全部入れます」

「まずはお酒、飲めるようになってください」

「はい」

「プレゼントもいいですが、私が話をしたいときに話し相手になることを最優先にしてください」

「もちろん」

「それとプロポーズは、あとでやり直してください。こんなムードのない場所とやり方は認められません」

「分かりました」

「本当に今さらです。散々サインを送っていたのに、ここまではっきり言わないと気づかないなんて、鈍いにもほどがあります」

「ごめんなさい」

「明日から頑張ってくださいね。さっき言ったこと、忘れないように」

「肝に銘じます」

 彼女は、おもむろに近寄ってくると、私と腕を組んだ。横目で見ると向こうも応えてくる。お互いに悪戯っ子のような笑みを浮かべていた。

「少し、寄り道していきませんか? まだ終電まで時間がありますし」

「いいですよ」

 私と花本先生は、周囲の公園に立ち寄りながら、ゆっくりと丘花山駅まで歩いていった。

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