5.1

「へっくしょん」

 職員会議終了と共に、盛大なくしゃみが出る。

「国立先生、大丈夫ですか?」

 心配そうに、花本先生が聞いてきた。

「昨日から、何となく調子が悪くて。でも業務に支障はでないレベルですから」

「そんなこと言って油断していると、知らないうちに病気になってしまいますよ?」

「これは手厳しいですね」

「インフルエンザの可能性もありますから、今日は早めに帰って、医者に行ってください」

「それもそうですね」

 体調不良の原因が、自分でも分からない。

 びしょ濡れで守衛室に泊まったせいなのか、お酒を飲みすぎたせいなのか、花本先生とお付き合いしているという多幸感からか、遠征の疲れが出たのか。とにかく心当たりがありすぎて、見当のつけようがない。

「おっ、と……」

 つーっと、鼻水が垂れてくる。

 花本先生は、それをいち早くティッシュで防ぎ、そのまま顔を覗き込んできた。

「たしかに、顔色はいいですね」

「ええ、鼻水が止まらないだけで、意識ははっきりしていますから」

 ぴとり、と彼女の手が、おでこに乗せられる。

「熱もありません」

「はい」

 お互いに、自然と見つめ合う体勢になる。

「なるほど」

 すると多崎教頭が、私たちの間に入ってきた。

 要件を述べるのでもなく、雑談をするのでもなく。ただ私たちを見る。私も花本先生も、どうリアクションしていいのか分からない。

「近い」

 ただ一言。そう感想をこぼした。

 多崎教頭は、くるりと踵を返して、自分のデスクへと戻った。

「ち、近かった、ようですね」

 花本先生は、私から距離をとる。「ではHRに行ってきます」と立ち上がって、職員室を出ていった。

「わ、私も言ってきます」

 誰に言うでもなく、独り言をこぼす。

 出口に向かおうとすると、机に『2年2組』と書かれてある黒い背表紙のノートがあった。これは出席簿だ。きっと慌てていたから忘れたのだろう。渡してあげないと。

 出席簿を脇に抱え、花本先生を追いかけた。

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