5.2

「ああ、まずいな」

 2年2組の教室に到着ししたものの、進退窮まってしまう。

 すで2組はHRを始めてしまっており、途中から割り込めない。ここはこっそりと扉を開けて、何事もなかったかのように出席簿を手渡そう。そう思い、教室の外から、内部を覗き込む。

「あ、国立先生!」

 すると2組の女子生徒の一人が、こっちを指さしてきた。そのまま彼女は席を立ち、教室の扉を開けてしまう。さきほどまで静かな雰囲気に包まれていた教室が「国立がいる」と、突如として騒々しくなった。

「先生、どうされたんですか?」

 花本先生が駆け寄ってくる。私は教室には入らず、入口に留まる。

「出席簿をお忘れだったので、届けに来たのですが」

「あら、ありがとうございます」

 私の差し出した出席簿を、花本先生は受けとった。

「すみませんでした。私の不注意で、国立先生にはご迷惑を」

「いえ、花本先生に落ち度はありませんから」

「いえいえ、そんなそんな」

「いえいえいえいえ」

 私たちはお互いに頭を下げる。

「ご結婚おめでとうございます」

 またもやその女子生徒が、賑やかし始めると、2組は笑いの渦に包まれた。

 花本先生が静かにするよう注意するが、それが照れ隠しだと思われ、ますます教室は騒々しくなる。私から注意しても、一向に聞く耳を持ってはくれない。

「……どうしましょう、国立先生」

「……どうしましょうか、ね」

 生徒たちの喧噪けんそうが落ち着くまで、私たちは、じっと待つしかなかった。

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