2.1
「追いかけろ! 途中で手を抜くな!」
体育館が振動するほどの大声で叫ぶ。
台のうえに乗り、そこから渡されたバレーボールをスパイクする。反対側のコートには、一列に部員たちが並んでおり、白弾を順番ずつレシーブしていた。
「とにかくボールに触れろ! どこかに当たればボールは浮かぶ! そうすればチームの誰かが拾ってくれるかもしれないだろう! 仲間を信頼して全力で向かうんだ!」
「「はい!」」
部員たちの元気のいい返事に突き動かされるように、次々とスパイクを打ち込む。そうしてかごのボールがなくなると、「ここまで」とレシーブの練習を切りあげた。
「ボールを拾いながら休憩しよう。すぐに再開するぞ」
「「はい!」」
部員たちは小走りで、体育館内に転がっているボールを集め始めた。
私は台から降りると、佐々岡信二に声をかける。彼はボールを二つ抱えたまま、走って近づいてきた。短く刈りあげられた黒髪に、文学少年を思わせるようなアンニュイな表情を持つ男子だ。ここの部長をしているが、強力なリーダーシップで引っ張るというよりも、大人しいけれど的確な指示で、周囲を動かしている。
「うちのチームは、ここ一番でサーブを失敗することが多い。佐々岡はどう思う? もっとサーブ練習を増やてはどうだろうか?」
ボールを床に置き、後ろ手に組み、天井を見上げたかと思うと、すぐに視線を戻した。
「自分は逆の意見です」
「逆?」
「はい。国立先生は熱心ですけど、それを厳しすぎると感じている部員がいます。ペースを落として、実践練習を増やしたほうがいい気がします」
「なぜだ」
「実践の流れや雰囲気に慣れれば、失敗が減ると思うからです。それより練習のしすぎで萎縮(いしゅく)してしまうほうが、まずいからです」
彼は二年生ながら、部全体のことがよく見えている。私を前にしても、しっかりと意見を言う。小中とバレーを続けていたから実践的なことにも詳しい。佐々岡には信頼を寄せていた。
「そうか。だったらすぐにそうしよう。他校と交流試合ができるように、話を進めてみる」
「はい」
「もういいぞ。助かった」
佐々岡は一礼すると、部員のボール拾いに交ざっていった。
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