3.4

 月島との一泊から、土日を挟んで、迎えた月曜日。

 身体の疲れが抜けきれないまま、苫田井高校での仕事をこなしていた。

 月島とのことは、もちろん先生方全員が知っている。学校に宿泊したのだがら、当然、報告しなければならず、多崎教頭を経由してすぐに広まってしまった。あのぼさぼさネクタイめ。

「月島霧子さんは、先生のことが好きなのかもしれませんね」

 放課後、疲労困憊の状態で駆け込んだ職員室でのこと。月島のように抑揚のない声で、花本先生は教えてくれた。

「聞かれたことがあったんです。国立先生に恋人はいるのかって」

 どういうわけか。

 花本先生のご尊顔が、酒宴のものと一致して見える。

「私は知らないと答えたら、楽しそうに机に戻っていきましたよ」

「花本、先生……?」

「そういえば、今日は月島霧子さんがお休みだそうですね。一泊二日の苫田井高校が、身体に堪えたのでしょうか――」

「――今度、飲みに行きましょう。二次会でも三次会でも、日本酒でも焼酎でもお付き合いします」

「ウイスキーとウォッカは飲めます?」

「もちろ……善処します」

「今週末にお願いできますか?」

「はい――っと、その週は練習試合があるので、できれば平日が」

「遠征後、慰労会も兼ねてどうですか?」

「……じ、じゃあ、そうしましょう」

「今から楽しみですね、国立先生」

「はい」

 終わりよければすべてよし。

 花本先生は上機嫌になり、週末に飲みに行けるようにもなった。月島には感謝しないといけないかもしれない。ただ、遠征帰りのアルコールは、花本先生には慰労でも、私にとっては試練となるだろう。酔い止めを飲んでいかないと。

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