2.5

 その日の放課後。

 男子バレー部での指導を終えた私は、丘花山おかやま駅に向かっていた。職員室で帰宅のための片づけをすませて、市営バスを利用している。駅周辺の繁華街まで行くためだ。職員室には多崎教頭だけが残っていて、「しっかり飲んでこいよ」と見送られていた。彼はお留守番らしい。

 今日は、先生同士での飲み会の日。

 まだ期末試験も終わっていない、中途半端な時期だが、それには理由がある。学期末はどの先生も忙しく、また学期間は部活指導がある。だからこうして、忙しくなる前に飲み会を行い、英気を養うのが苫田井高校の流儀だった。

 ――佐々岡が来なかったな。

 バスに揺られながら、部活でのことを思い出す。佐々岡とは、屋上への階段で会ってから顔を見ていない。体調不良で早退したという連絡が入ったのだが、直接、そのことを教えてはくれなかった。明日も顔を出さないようであれば、こちらから連絡しよう。

 ――あとは月島だな。

 もう一つ気になっているのが、今日の屋上でのことだ。

 結局、あの噂の真相は分からないままだった。いや、もちろん売春など行われていないと考えて間違いない。そもそも人目を忍んで売春を行うことが、学校では不可能に等しいからだ。しかしながら、

 ――屋上から姿を見せ、逃げるように立ち去った佐々岡の姿。

 ――用事らしい用事もないのに、屋上にいた月島。

 ――月島自身が、売春を認めていること。

 これらの事実が引っかかっている。売春が行われていないとすれば、月島や佐々岡の言動は何だったのか。噂とは別の事情があるのかもしれない。解決を急くのではなく、しばらくはその事情を探る必要があるだろう。

「次は丘花山駅、丘花山駅。お降りの方は、ブザーにてお知らせください」

 車内アナウンスが、目的地に到着することを教えた。

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