4.4

「あと、30分か」

 腕時計で、終電の時刻を確認する。

 市営バスを利用する花本先生と別れて、私は、駅のコンビニエンスストアへと向かった。駅の構内で時間をつぶすため、雑誌でも買おうと考えていた。お酒のせいか先生のせいか。店内を物色していても、ぼんやりとした気分が抜けない。

「柴田に武田じゃないか」

 店内のアルコールコーナーに、男子バレー部員の二人を発見した。見れば買い物かごに、数本のビールが入っている。私に気づくや否や、しまったという表情を浮かべた。

「おい、自分たちが何をしているのか分かっているのか」

 やや激しい口調で叱り、その買い物かごを取りあげる。

 ビールを商品棚へと戻すと、彼らの手を引いて、店から出ていった。そのままコンビニエンスストアの角に二人を並べる。

「未成年の飲酒は禁止されている。それくらい分かっているはずだ。どうしてお酒を飲もうとした? 言ってみろ」

 柴田と武田は、互いに顔を見合わせるが、返事をしない。

「それに、こんな時間まで、どこで何をしていたんだ」

 私は、腕時計の時刻を、彼らに見せた。すでに23時をすぎている。

 腰に手を当てて、彼らを睨みつける。

「先生、俺ら練習試合で楽勝だったから」

 すると柴田は、頬をかきながら、口を開いた。

「ちょっとお祝いをしようって、さっきまで柴田と遊んでて」

 武田も続けて、事情を説明する。

「そうなんです。このまま帰るのもあれだからって、武田とそういう話になって」

「近くの公園で、酒でも飲むことにしたんです」

 口から盛大なため息がこぼれてきた。思わず、自分の顔を手で覆う。

 せっかくインハイ出場が決まったというのに、何という脇の甘さだろうか。もしアルコールを口にして、それが公になれば出場停止も考えられるというのに。佐々岡のような真面目に取り組んできた生徒がどう思うのか、考えたことがないのだろうか。

 アルコールとは別の理由で、偏頭痛がする。それでも不幸中の幸いなのは、彼らがまだ飲んでいないということだ。こうして話をしていても酒臭さは一切ない。

 情けない。たしかに彼らに悪気があったわけではない。偶然、気の弛みから飲酒を思い立っただけなのだ。だが、そういったときに自制心を働かせられるようにするため、学校があり、教師がいて、生活指導を行っている。つまり、日頃の指導が徹底していれば防げたことなのだ。忙しさを理由にして、今まで気づけなかった自分に腹が立つ。

「あの、国立先生」

 困り果てている私の様子を心配したのだろうか。柴田がやんわりと話しかけてくる。

「自分らが悪いことしたってのは分かってます。それについては反省もしています。だから、そんな国立先生だけ、頑張らなくてもいいと思うんです」

「俺もそう思います。いっつも先生だけ真面目っていうか、そこまで頑張らなくてもって」

「……はあ?」

 二人の言わんとしていることが理解できない。

 私に捕まってしまってバツが悪かったり、あるいは逆恨みしたりすなら、まだ分かる。なのにこいつらは、私が頑張りすぎていると、まるで労苦を労うようなことを言ってきた。

 反省しているのは、その態度から伝わってくるが、どうして私のことを心配されなければならないのだろうか。なぜか背筋に寒気を感じた。

「私の話は、今はいい」

 腰に手を当てて、話を切った。

「二人がアルコールを飲もうとしていたことは事実だ。さすがに見なかったことにはできない。処分がどうなるかは分からないが、それなりに心の準備をしておくように」

「はい」「はい」

 私は、彼らの手を引き、タクシー乗り場に向かった。自宅まで送り届け、自分も家路につく。

 だが、自宅のアパートに戻ってからも、背中の寒気が引くことはなかった。

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