8.3
月島霧子は、そのまま市営バスを利用して、国立一弥の自宅へと到着していた。
――うるさいし。
バスに揺られながら、彼女は佐々岡から言われたことを思い出しては、気分を黒いものにし続けていた。自分が何をしようと勝手ではないか。可哀想だとか哀れだとか。勝手に決めつけられて同情されるなんて気分が悪い。彼女の苛立ちは、国立のアパートに到着しても収まることはなかった。
この気持ちも一緒にぶつけてやる。
今度こそ、どこにもいけないように、傷づけてやる。
月島は、ドアのインターホンを鳴らした。が、なかから返事が帰ってこない。引きこもりから立ち直ったばかりで、疲れて寝ているのだろうか。彼女は何度もインターホンを鳴らす。だがやはり、内部からのリアクションはなかった。
――なんでいないの。
おかしい。もう学校を出ているはずなのに。
どこかで寄り道するような人間ではなかったし、お酒や外食もあまりしないはず。それにどこかに用事があるとも考えづらい。
まさか途中で学校に戻って、部活指導でもしているのだろうか。
――いや。
自分がここを訪れようとしたとき、制服姿の佐々岡がいた。もし部活動をしているのなら、彼があそこに立っているはずがないし、のんびりと立ち話などしない。ここに行こうとしていることに気づいて、彼は止めようとしたくらいだ。
ドアノブに手をかけて、開けようとするが、扉から拒絶されてしまう。
ガチャガチャとわざと音をたてて、インターホンを何度も鳴らす。
「先生、私です、月島です。ここを開けてください」
彼女の悪あがきする音だけが、周囲に浸透するばかりだった。
――ほんとにいないし。
月島は観念して、しばらく扉の前で待つことにした。
10分、20分、30分。
1時間、2時間、3時間。
待てど暮らせど、国立一弥は姿を現さない。周囲は真っ暗になり、夜の帳がおりている。
がつん。
月島は、苛立ち紛れに扉を殴打すると、アパートを置き去りにした。
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