7.1

 深夜。

 ふと目を覚ました。薄っすらと浮かびあがる数字は、2:00を指す。

 さっきまで夢を見ていたような気がするのだが、思い出せない。また千早先生の夢かもしれない。

 ――そういえば、千早先生はどうしてるんだろう。

 休職する直前の、多崎教頭との会話を思い出す。


(すみません、まだ現実味がないというか、自分が生徒からそう思われていると実感できないんです。自惚れかもしれませんが、それなりに生徒とは関係を作ってきたつもりです。いくら友達である月島の言葉だったとしても、そう簡単に信じてしまうのだろうかと)

(……そうですね。お気持ちはご尤もです)

 多崎教頭は、ぼさぼさの頭をかきながら、目を閉じる。

(でしたら今日は、国立先生の思うようにすごしてみてください。私からの伝聞では納得できないでしょうから。それに今後についても、しっかり考えて欲しいので)

(はい、ありがとうございます)

 私はゆっくりとソファから立ち上がった。

(あ、そういえば多崎先生)

(何でしょう?)

(千早先生は、今どうしておられるのでしょうか)

(今年の年賀状にも、丘花山の古見町で塾講師をされているとありました。おそらく今もそうだと思います)

(塾、ですか……)

(連絡先を教えておきましょう。元同僚ですし、近くに行かれたら、挨拶でも)

(ありがとうございます)


 ――被害者の会でも作れってか。

 多崎教頭の言動を、うがって見てしまう。もちろんそんな意図はないだろうし、私だって月島をどうにかしようとする気力など持ち合わせていない。だけど、多崎教頭は、おそらく罪悪感のようなものを抱えていたのではないだろうか。現場の先生を、似たような理由で二人も失っており、しかもそれを助けられなかったから。

 そのとき記録したデータを、携帯で確認しようとするが、すでに電源が切れていた。布団から出て、携帯の充電器を見つけると、コンセントに接続した。しばらくすると暗がりのなか、携帯の画面が光を灯した。

 端末を操作し、千早先生の職場の住所を確認する。

 ――そういえば古見町か。

 驚くほど遠くはない。駅からバスで一時間もすれば到着する。

 ――会いに行ってみるか。

 自由時間ならたくさんある。それにどうせここにいても、退屈と思考停止しかないのだから。

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