8.5
通学路。
眠っている母親を起こさないように、8:00に玄関を出た。
いつもの通学路には、苫田井高校の生徒たちが集まってくる。それは次第に黒山の人だかりとなって、高校の正門へと流れる。まるで自動改札口のようだ。
学校の正門が近づくにつれて、一部の生徒から、刺さるような視線が向けられてきた。
――あれが月島霧子だ。
――国立一弥を騙そうとして、騙せなかった女だ。
――本当は男を誘ってばっかりで、悪い奴じゃないのか。
――うえから目線が感じ悪い。ちょっときれいだからって生意気。
国立一弥の復帰は、驚くほど迅速に、かつ的確に、月島霧子の評判を変えていた。まだ数日しか経っていないというのに。こうまで目の敵にされるとは。
――子どもはうるさいな。
でも、これくらい何ともない。実害がないのだから。
彼女は無表情のまま正門をくぐって、無事、登校を果たした。
――何これ。
下駄箱を空けると、ざらざらと見慣れない物体がこぼれ出てきた。
避妊具だ。男性用のものも、女性用のものも、ご丁寧に準備されている。それどころか、わざわざ開封して、使用済みのものも含まれている。
月島霧子は、スニーカーからシューズに履き替えると、それらを蹴散らしながら、歩き出した。
「月島、おはよう」
すると、あの男の声が聞こえてきた。
これだけのことを成し遂げておきながら、鷹揚に構えている、あの担任だ。
「昨日、お母さんのところにお邪魔したんだが、月島はいなかったな」
分かっているはずだろう。
お前の家に行ったのだ。すっとぼけて厭味ったらしい。
「これは……、ひどいな」
国立一弥は足元に目を留める。すぐに膝を折り、実物を確認した。「証拠だな」と一つずつ、それらを拾いあげる。
「それ、いるんだったらあげますよ。他の女子生徒に使ってください」
「おい月島……」
「気分いいですよね。こうやって私を陥れて、困っている姿を眺められるんですから」
「私はそんなこと……、誤解だ、月島」
「先生は、やっぱり嘘が上手ですね」
「そんなつもりは全然――」「――どいてください。HRが始まる前に、授業の予習をしないといけませんから」
国立一弥に身体をぶつけながら、彼女は教室へと向かった。
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