第53話

 また、当たり前の様に手を繋がれて歩いていたあたしは、成海くんのことを見上げる。


「今日は、ありがとう。なんだか、大丈夫な気がしてきたよ」


 そう言って笑顔を向けてみると、成海くんが優しく微笑んでくれた。


「たぶん、このまま順平のことも、完全にじゃないけど、少しずつ忘れられると思う。ありがとう、成海くんがいてくれて本当に良かった。だから、もう大丈夫だよ」

「……そ。良かった」


小さく笑った成海くんに、あたしは立ち止まった。


「ここでいいよ、あとは一人で帰れるから」

「え、何言ってんの。まだピアスも見てないし、ちゃんと家まで送るから」


 一瞬、握られた手が強く掴まれた。だけど、あたしはそう言ってくれる成海くんに首を振る。


「大丈夫。あ、ピアスは……あれを成海くんが処分してくれればそれで良いから。そしたら、おしまいになるから。成海くん、昨日寝てないんだし、ちゃんと帰ってから早く寝てね。また大学で会おうね」


 一瞬だけ緩んだ成海くんの手から抜け出すと、「じゃあね」と言って手を振って、踵を返した。

 成海くんとの時間が楽しすぎて、本当に順平のことは忘れてしまったかの様に、時間が過ぎていった。ただ、やっぱりたまに思い出してしまったりもして、だけど、悲しさはだいぶ薄れてきている気がする。

 逆に、成海くんの優しさにこのまま浸かりすぎてしまって、抜け出せなくなった時のことの方が怖い。

 だから、もうあんまり深入りしない様にしなくちゃ。

 引き止めようとした成海くんから逃げる様に、あたしは早足で歩き始めた。



 そんなあたしのバックの中で、今日一日静かだったスマホが突然鳴り出した。急いでいた足を少しだけ緩めて、バックの中からスマホを取り出す。

 画面に表示されている名前を見て、あたしは思わず足を止めた。しばらく立ち尽くしていても、鳴り止むことがなくて、恐る恐る出た。


「……はい」


『あ、まどか? やっと出てくれた。今から時間ある?』

「え、 」

『今、まどかがいる場所のすぐ近くのカフェに居るんだけど、ちょっと会えないかな?』


 そう言われて、あたしはキョロキョロと辺りを見回す。

 イルミネーションの飾られた外観と入り口に、大きなクリスマスツリーのあるカフェのガラス越し。よく見ると、手を振っている絵里子の姿を発見して、息を呑んだ。

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