第50話
「両替してきたー……って、え⁉」
ゲーム機の前でしゃがみこんでいたあたしに、戻ってきた成海くんが慌てて駆け寄ってくる。
「どうした? まどかちゃん、大丈夫⁉」
心配する声でそっとあたしの背中に手を置いた成海くんに向かって、満面の笑顔で両手を出した。右手には、泣きピンタ。左手には、キメ顔ピンタ。
狙い通りに、あたしは2つのピンタマスコットをゲットして、取り出し口から取り出しつつ、歓喜に震えていたのだ。
「取れた! 取れたのー! 凄くない? 狙い通りなんだけどっ」
嬉しくって興奮が冷めないままで喋り出すあたしに、目の前の成海くんは驚いた顔をして固まってしまっているのに気が付いた。
「……あ、ごめん。あんまり、はしゃぎ過ぎ……」
恥ずかしい。
「良かった……一瞬でも、一人にしちゃったから、また泣いてるのかと思った。良かった……」
成海くんは両手にピンタを持つあたしのことを、しゃがんだまま抱きしめてくる。
「ちょ、成海くん……」
周りの人からチラチラと見られていて、あたしは慌てて成海くんの背中をトントンとたたいた。
「まどかちゃん、ピンタ取れてすごい」
離れたかと思ったら、満面の笑みでそう言って頭を撫でて褒めてくれる成海くんに、あたしはもう頭のてっぺんまで熱が上がって、口をパクパクとして言葉も出ない。
「よし、俺はあっちのおっきいの取るぞ!」
すっくと立ち上がった成海くんは意気込んで、あたしの手を引いて立たせてくれる。すぐに奥の機械へと向かうから、あたしは歩くスピードの風で顔の熱を冷ましつつ、成海くんの目指す機械まで向かった。
「あー! なんっで取れねーんだ」
「な、成海くん。もうやめよ?」
さっきから大きな笑顔のピンタぬいぐるみを掴んではすり抜けていく三本爪のクレーン。意地を張って、もう何度目かも分からないスタートボタンを押しながら怒っている成海くんを見守るしかない。
「あ、ほら、もう少し行ったところに雑貨屋さんもあったはずだよ? あっちにもいっぱいピンタ並んでるだろうし、これじゃあ買った方が……」
いったい今いくらつぎ込んでいるのか分からなくなるほどに、何度も両替を繰り返していた成海くんに、あたしはなんとか諦めてもらおうと言ってみるけど、完全に成海くんは目の前のピンタしか見えていない。
「だめだ! 俺はこれを取るって決めたんだ! 誰でも買えるやつなんか買ったら……負けな気がするっ……」
頑なにそう言って、もう一度お金を投入口へと投下した成海くんに、めっちゃ頑固だなと、あたしは苦笑いをするしかない。
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