第51話
でも、そんな一生懸命にピンタを狙う成海くんの目は真剣そのもので、呆れながらもあたしは次の瞬間、明らかに今までの掴みとは違うアームの入り方に、息を呑んだ。
さっきまでは、掴んでも、上に上がった時点でわざとらしくアームが緩んだり、重みで落下していたピンタが、がっしりと掴まれている。なんだか、落ちてたまるかとしがみついている様にも見えるから、思わず手に汗を握った。
そのまま、そのまま。ピンタは落ちることなく運ばれていき、ついにアームが開くと、取り出し口へと落ちた。
無言のまま、成海くんは取り出し口を開けてピンタを鷲掴みにすると、まじまじと眺めている。
……あれ? あんまり嬉しくないのかな?
成海くんの反応に、あたしも取れた喜びをどう表現して良いのかわからずに立ち尽くしていると、
「取れた……俺、初めてクレーンゲームで取った! うわ、嬉し……」
「おめでとうございまーすっ‼ デカぬいぐるみピンタ、見事にゲットーっ! しかもっ、お兄さんイケメン過ぎ! ピンタ幸せ者っ!」
感動に震える成海くんの横から、突如現れたゲームセンターのお姉さんがマイクを片手に勢いよく叫びだすから、あたしも成海くんも唖然としてしまった。
「おー? 彼女さんもピンタゲットしてたんですね! お二人とも素晴らしいっ。その勢いでどんどんゲットして行ってくださいねーっ」
嵐の様に現れて、嵐の様に去って行ったお姉さんの後ろ姿に、あたしと成海くんは顔を見合わせて笑った。
「あははっ、凄いよ成海くんっ。諦めなくてよかったね」
「……あー、でも。ちょっとまた予定外」
財布を覗いて落ち込む成海くんと、脇に抱えたピンタが目に見えてガッカリと肩を落とす。
成海くんって、面白いなぁ。ほんとに、一緒にいて飽きない。
「お昼は、あたしの奢りだよ。成海くんにお世話になってばっかりだもん。それくらいさせてよ。大学の近くの、オムライス屋さんだよね?」
調べてくれているのは知ってる。
こんなにあたしのことを楽しませてくれる成海くんに、あたしはなんにもお礼をしていない。
今日くらい、成海くんになんでもしてあげよう。そしたら、もう順平のことも忘れて、成海くんにも迷惑をかけずにいられると思うから。
「あ、これ。キメ顔ピンタ、成海くんにあげるね」
「え、まじ?」
「うん、このピンタ、成海くんみたいにカッコいいから」
「……まどかちゃん」
あ、あたしまで。すんなりかっこいいとか言っちゃってる。
でも、本当にそう思ったから。だから、目の前で照れている成海くんに、あたしは笑顔でピンタを差し出して、自分は泣きピンタをバックに付けた。
「こっちはあたしに、ピッタリでしょ?」
泣いてばっかりのあたし。でも、もう今は悲しくない。
そう言ったあたしに微笑んでくれる成海くんの笑顔に、嬉しくなる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます