第十章 demiglace sauce.

第49話

 カフェを出て、真っ直ぐにゲームセンターへと向かおうとして、振り返った成海くんはあたしに手を差し出す。


「今日は、デートだから。手、繋ご?」

「え……」

「イヤ?」


 イヤ? いやいや、デートって。あたしはそんな気ないのに。でも、この誘いはたぶん。


「嫌でも繋ぐけどっ、行こう」


 そう言って、あたしの返答を聞かずに、成海くんはあたしの手をとって自分のコートのポケットへと突っ込む。近づく距離に、ドキドキが止まらない。

 成海くんはいつも強引で、だけど、やっぱりその手は温かくて、頼りたくなってしまって、離したくないと、思ってしまう。


「う、わ。ピンタ居過ぎじゃない?」


 思わず笑ってしまうほどに、ゲームセンター内はピンタとイケメンスパイで独占されていた。


「マジで人気なんだな。俺ゲーセンとかあんま来ないから」


 珍しそうに成海くんがキョロキョロとクレーンゲームの機械をあちこち見始めている。そんな成海くんが可愛く見えて微笑みつつ、一台の機械に目が止まった。

 あ、あのピンタ可愛い。

 小さいマスコットぬいぐるみのピンタ。たくさん積み重なったピンタは喜怒哀楽、様々な表情をしている。

 あの真ん中ら辺にガッとやったら、なんか取れそうな気がする。


「……まどかちゃん?」

「え? あ、ごめん、なに?」

「あれが欲しいの?」


 あたしがピンタをどうやって仕留めようか考えていると、成海くんがあたしの視線の先の重なったピンタを指差した。


「……うん。なんか、取れそうな気がする」

「え⁉ まじ? 取れるの⁉」

「いや、気がするだけ」


 だけど、あの、泣き喚いている顔のピンタが、あたしに取ってくれと泣いているんじゃないかと思えるくらいに愛らしくて取りたい衝動に駆られてしまう。でも、ここでガッ付いてしまってはなんか、恥ずかしい気もする。


「取って取って! 俺両替してくるっ」

「え、」


 残されたあたしはウキウキと両替に行ってしまった成海くんの後ろ姿を見送ってから、ゲーム機内のピンタを再び見つめた。

 本当に、ちょっとだけ押したらすぐにでも落ちそうな位置にいる泣きピンタに、あたしは欲しい欲が勝ってしまう。バックから財布を取り出して、戻ってくる成海くんを待たずに、集中してクレーンを動かし始めた。

 正面はもちろん、横からも狙いを定めて、上手くいけば、隣に重なるキメ顔のピンタも巻き添えで取れる気もしてくる。

 何故か沸き起こる取れるしかない自信と狙いで、あたしはクレーンを下げるボタンを押した。

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