第9話

「あんだよー。真舞は元が良いんだから磨けばもっとモテんのになぁ。彼女居ないでしょ? あいつ」

「髪色はともかく、地黒なだけだろ。真舞が望んでないなら無理に誘うなよ。マジ、エステなんてすんの?」

「するよー。エステティシャンの彼女出来たんだー。俺をさらに良い男にしてくれんだって。あ、なるは別にもうこれ以上モテなくて良いから誘わねーよ? 彼女取られてもやだし」


 キラキラと目を輝かせていたかと思うと、口を尖らせる倫也に呆れてしまう。


「興味ないし、取らねーし」


 食べ終わったパスタの皿を重ねると、キッチンに下げて洗い始める。対面式の流しから、幸せそうにビールを煽る倫也の横顔に思わず笑ってしまう。

 そばに置いてあった四角いクッションを枕に、缶ビールを手放して倫也は床に倒れ込んでいる。


「あー、嬉しすぎて飲み過ぎたー」

「エステティシャンの彼女が出来たから飲んでたの?」

「うん。めっちゃ可愛いの」

「あっそ」


 倫也は恋多き男だ。惚れれば全力でその子一人に集中してるけど、冷めてしまえば追うことは無い。だから、交際期間は割と短めで、なのに次から次へと彼女が変わる。まぁ、どれも本気で好きだから付き合ってたんだろうし、何かがあったから別れるんだろう。だから、それをどうこう言うつもりもない。

 ただ、どうしたらそんなにすぐに本気で好きになれるのかが、俺にはよく分からない。


「……あれ〜? なんかあるよ〜」


 食器を片付け終わって戻ってくると、何かを拾い上げて眺めている倫也に気が付いた。


「どうした?」

「……これって、ピアスだよな? 落ちてたぞ。成海の?」


 倫也に手渡されたピアスはどう見ても女物。ゴールドの華奢なハートに小さなパールがくっ付いている。


「誰のだろう?」

「ほらー、いろんな女連れ込んでっから誰のかわかんねーんだろー」

「うるせぇな、それはお前もだろ」

「え⁉︎ 俺ぇ⁉︎ 俺は彼女しか連れ込んだ事ありませーんっ」


 不服そうに膨れる倫也を無視して、手のひらのピアスを眺める。


「まぁさ、近場で昨夜の子じゃないの?」


 起き上がって胡座に肘を突き、頬杖しながら倫也は虚な目線だけ俺の方を見上げる。


「……ああ……って、そういや連絡先聞くの忘れたな」


 手のひらに乗っかった片方だけのピアスを見つめて、彼女のことを思い出した。

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