第8話
「俺、知ってる」
「あ!
「玄関鍵開いてたぞ、不用心だろ。俺はいい、済ませてきた」
当たり前のように大きな体を床に下ろすと、一気に部屋の中が狭く感じる。
「あー、マジ真舞の圧迫感エグいわー。今身長何センチ? どんだけ寝ればそんな大きくなれんの?」
「確か……百八十九だったかな? そんな寝てないけどな?」
「えっぐ! もう百九十でいいだろ。デカすぎんだよ。ってか、昼間ずっと寝てんじゃん、今日大学行った?」
倫也の質問に、数秒考え込んだ真舞は首を振った。
「朝方……帰ってきてからゲームして、そっから寝て……さっき、起きた」
相変わらず見た目に反してのんびりと答える真舞の答えに、俺も倫也も呆れて言葉もない。
「今からバイトだし。目、覚ますためにここ来たんだよ」
キッチンに行って、いつものように目覚ましにあったかい緑茶を淹れてあげると、真舞は会釈をして受け取り啜った。
「お前の本職はなんなんだよ。大学生なのかバイトバーテンダーなのか」
「まぁ……バーテンだろうな。で、木下順平が……どうしたって?」
見下ろされている感がありつつも、もうだいぶ慣れた真舞の視線に「あー、どんなやつ?」と、パスタを食べながら聞く。
「どんな? ……どんな……って……」
真舞が悩むことで部屋の中はシンっと静寂に包まれる。その続きを早く言えと言わんばかりに俺も倫也も視線を送るが、一向に口は開かずに、ようやく開いたかと思うと湯呑みに手を添えてゆっくりと啜った。
「じじいかよっ‼︎」
たまらずに倫也が突っ込むから、俺も苦笑いするしかない。
デカい図体で地黒。短髪はブリーチした部分が程よく伸びてきて金と黒のツートーン。見た目の割に真舞は行動と喋りがのろい。一見近寄り難い風貌が、喋ると優しい口調だから、そのギャップで一気に打ち解けられる。
「普通の、今時の男じゃない?」
「……え?」
「どっちかって言ったら、成海寄りじゃないか? イケメンでモテて優しくて、女子より肌とか綺麗だし。あ、もちろん彼女もいたな……けっこう可愛い」
「それって、山辺まどか?」
ようやく話し出した真舞がよく知っているような返しをするから、少し期待してしまう。
「……名前まで知らん」
「あっそ。じゃあ、別にもう聞くことない」
なんだよ。期待させんな。
目を細くして真舞を見た後に、この話は終わりだなと思ってパスタに集中する。
倫也はすっかりパスタもサラダも食べ終わって新たなビールの缶を開けた。グビグビ喉を鳴らして飲みつつ、腑に落ちない顔をしているであろう俺を見ている。
「じゃあ、俺はバイト行くな」
少し気まずそうに大きな体がスッと立ち上がる。のそのそと玄関へ向かった真舞を、倫也がビール缶を掲げて引き止めた。
「真舞ぅ、もう色黒キンパはやめた方良いかもよ? これからは美肌の時代らしい。俺明日エステしてくる。一緒する?」
ニッコニコで倫也が誘うけど、真舞は立ち止まりはしたが振り返ることなく「……いい」と、ボソリと断って出て行った。
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